現在行われている研究(2009年度)

1. 天然CO2噴出地に生育する植物の解析

 我々の研究も含め、世の中で行われている高CO2応答の研究のほとんどは、植物を日〜年レベルしか高CO2環境にさらしていません。このような研究では、現存する植物が研究に使われています。しかし、全球レベルでCO2濃度が上がったままになると、高CO2環境に適応・進化した植物が出現し、現存する植物とは異なる高CO2応答をもつようになるかもしれません。このような疑問を解決できる唯一の研究対象が天然CO2噴出地です。天然CO2噴出地は、火山性のCO2が地中からあるいは湧水とともに吹き出す場所で、周囲の植生は数100年単位で高CO2環境にさらされていたと考えられます。

 我々は青森県八甲田山系と山形県湯殿山にある天然CO2噴出地を利用しています。八甲田では、オオイタドリなどを用いて現場に生育する植物の光合成・成長特性などを調べています。湯殿山では、CO2噴出地付近からオオバコを実験圃場に移植し、生理生態的特性にどのような違いがあるかを調べています。今年度は、気孔の数など葉の形態について調べることになりました。高CO2では、気孔を開かなくても葉に多くのCO2が入ってくるため、植物は気孔をあまり開かなくても光合成ができるようになります。このため高CO2環境に適応した植物は気孔の数を減らすのではないかと期待されています。高CO2域と低CO2域からとってきた植物種子から個体を育成し、葉の形態を比較する予定です(梶川)。

CO2噴出地にて。CO2センサは1972ppmを表示している。


2. エコタイプ間比較を利用した高CO2環境への適応機構の解明

 この研究も高CO2環境への適応機構を明らかにしようとする試みです。天然CO2噴出地の研究が自然環境に適応したと期待される植物を利用するのに対し、こちらの研究は(通常CO2環境の)自然界に存在する植物の中から高CO2環境に適応している植物を探しだそうという試みです。モデル植物としてよく知られるシロイヌナズナは、世界各地に性質が異なるエコタイプが分布していることが知られています。この研究では各地のエコタイプを50株ほど集め、異なるCO2濃度で育成し、高CO2で有利なエコタイプを探そうとしています。さらに、将来的には掛け合わせなどによって高CO2で優れたエコタイプを人為的に生み出すことも視野に入れています(小口・彦坂)。

 また、高CO2環境で有利な突然変異株の探索も計画しています。


3. 温暖化に対する高層湿原植物群集の応答

 IPCCによれば、今世紀末には地球の平均気温は数度上がることが予想されています。高層湿原はこのような温度上昇に対し深刻なダメージを受けることが懸念されている生態系の一つです。異なる標高に成立する湿原の比較や、簡易温暖化チャンバーによる操作実験によって温暖化の影響を解析しようとしています(神山)。特徴は、群集構成種の資源獲得量とその成長への利用効率を定量化することにより、群集内の種間相互作用を生理的・定量的に把握することです。常緑種と落葉種の光獲得における時間的棲み分けやその標高による違いを明らかにしつつあります。今年度は群集生態学的な研究との連携も目指しています。


八甲田山の高層湿原にて。


4. 高山環境への適応

 高山環境は、低温・強風・積雪・乾燥など、植物が生きていく上で過酷な環境です。このような特殊な環境で生き延びるために、植物はどのような形質を獲得してきたでしょうか。モデル植物シロイヌナズナと近縁なハクサンハタザオ・イブキハタザオが高山環境にどのように適応進化してきたかを遺伝学・生理生態学的な観点から研究します。遺伝学的な解析を東大の森長真一さんが、生理生態学的な解析をうちが行う共同研究です(永野)。


5. 葉の光合成の生理生態

 物質生産において、葉の光合成はその基本となります。様々な環境のもとで、個葉の光合成特性はどのように変化するのか、そしてその変化にはどのような意義があるかを調べています。いくつかのテーマが並行して進んでいます。

 最も力を入れているものの一つが温度と光合成の関係です。温度-光合成曲線の形はどの植物でも山型になりますが、その形は種や生育条件によって大きく変わります。一般に、同じ遺伝子をもつ植物でも高温で育てると、光合成速度の最適温度が上がります(下図)。また、同一種でも異なる地域に生息する植物は異なる温度光合成特性を持ちます(同じ温度で育てても)。現在は、異なる緯度から採ってきたオオバコの種内変異(エコタイプ間変異)の研究(彦坂)や、異なる緯度・異なる標高から採ってきたイタドリの研究(町野)を行い、エコタイプによってどのように温度−光合成曲線が異なるか、そしてそのメカニズムは何かを調べています。

 北大で行われている樹木の温暖化実験に共同研究者として参加しています(彦坂)。

 この他、光合成能力の種間差や老化などの観点から様々な研究を行っています。


温度順化における温度−光合成曲線の変化。


6. 戦略としての生理生態的特性とその種間差

 一つの群集中に多くの植物種が共存できるメカニズムの解明は、植物生態学の重要な課題の一つです。光合成に限らず、植物の性質は種によって大きく異なります。性質の違いが共存を可能にしているとの仮説から、林床に生育する植物の性質を調べ、理論と実測の両面からメカニズムの解明を目指しています(小嶋)。


7. 植物の茎デザイン決定機構

 植物の茎の役割は、葉や繁殖器官を上部に配置することにあります。そのためにはある程度力学的な強度が必要ですが、強い茎を作るためには相応のコストが必要で、コストの高すぎる茎は大きくなれないかもしれません。風が吹いても倒れず、かつ高くなれる茎を作るためにはどのように資源を利用すればいいのでしょうか。また、植物はどのようなルールでどのような物理的強度の茎を作っているのでしょうか。植物に重りをつけたり、個体密度を変えることで性質が異なる茎をもつ植物を作り、物理特性を調べています(長嶋)。


競争中のオオオナモミ。