生理生態学グループの視点

 我々の究極的な研究目的は、光合成速度・成長速度・繁殖量といった植物の物質生産がどのように決まっているのかを明らかにすることです。キーワードはいくつかあります。

 一つは環境応答です。生物が成育する環境は、時間的・空間的に大きく変化します。地球上に「標準」と呼べる環境などありません。植物は移動することができず、環境が変化すれば、何らかのかたちで形態や生理機能を変化させることでのりきろうとします。我々の興味は、植物が環境変化に対してどのような工夫(適応・順化)をしているのか、ということです。特に近年はCO2濃度上昇や温暖化といった地球スケールの環境変化が問題になっています。地球環境変化が植物や生態系にどのような影響を及ぼすのかを予測する研究を行っています。

 二つめのキーワードは種間差です。例えば動物なら、種が異なれば食べ物が異なります。しかし植物が利用する資源(光・水・栄養塩)はほぼ全ての種で共通です。現在維管束植物は20数万種存在すると考えられますが、なぜこのように様々に分化しているのでしょうか。また、地球上の環境は多様で、場所によって大きく異なりますが、それに合わせて生育する植物も大きく異なります。これはニッチ(生態的地位)が種によって異なることを意味します。多くの場合、植物はある特定の環境に「専門化」する傾向があり、必ずしも全ての環境に適応しようとはしていません。ニッチの違いをもたらす生理的機構は何なのでしょうか。また、なぜ全ての環境で他種を圧倒できるスーパー種は存在しないのでしょうか。このような生態学の根源的な疑問にもアプローチしています。

 三つめのキーワードは資源の獲得と利用です。多くの場合、植物の成長は資源供給に制限されています。他者に比べより多くの資源を獲得する、あるいは、獲得した資源をより効率よく利用できる植物が成功する確率が高いと考えられます。特に、野外では植物は群集を構成しており、隣接個体との資源獲得競争は重要な要因と考えられます。資源の獲得と利用を定量化することにより植物の生態を解析するという新たな領域を開拓しています。

 四つめはスケーリング(scaling)です。光合成を行う最小単位は葉緑体です。葉の光合成は葉緑体の光合成の総和であり、個体の光合成は葉の光合成の総和で、さらに、群集の光合成は個体の光合成の総和です。我々のグループの大きな特徴は、葉緑体から群集まで様々なスケールで物質生産を扱っていることです。