日本植物学会第67回大会;発表要旨


高CO2濃度で生育する植物の光合成の季節パターン

小野田雄介,彦坂幸毅,広瀬忠樹(東北大院・生命科学)

大気CO2濃度は増加しており、今世紀末には現在のおよそ2倍の700ppmになると言われる。CO2は光合成の基質なので、CO2濃度の増加は光合成速度に直接影響する。これまで多くの研究が高CO2による光合成速度の促進を調べてきているが、他の環境要因の影響も大きく、結果はまちまちである。

温度は植物の高CO2応答と密接に関わっている。理論的な予測では、高CO2による光合成速度の促進は、高温で大きいとされる。しかし実際に異なる生育温度に生育する植物を調べた研究では、必ずしも理論的な予測とは一致しないことが多い。この結果は、温度順化が高CO2応答に強く影響していることを示唆する。

野外で生育する植物は季節と共に大きく変動する温度環境にさらされる。そのため、これらの植物の高CO2応答は季節変化に大きく影響を受けていると予想される。本研究では、東北大学理学部の圃場に設置されているオープントップチャンバーの中で、2つのCO2濃度条件でイタドリを長期間生育させた。そして光合成のCO2応答、温度応答を春夏秋の3回にわたり測定した。これらの結果より、季節変化と光合成の高CO2応答について議論する。

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冷温帯林における人工ギャップ形成後の林床植物の応答

○小口理一1、彦坂幸毅1、日浦勉2、広瀬忠樹1 (1東北大院・生命科学、2北大・苫小牧研究林)

 ギャップ形成による光環境の突然の改善は、森林の更新に欠かせないイベントである。また、この光環境の改善に対する植物の応答の種間差は、種の共存・多様性の維持に重要な働きを持つと考えられている。

 植物はギャップ形成による突然の光環境の改善に対して、既存の葉で応答するために成熟葉の光順化を行う。しかし、その順化能力には種間差がある。なぜ種によって順化能力が異なるのかは、そのメカニズム、生態学的意義ともに明らかになっていない。

 本研究では、北大苫小牧研究林において多種の実生が存在する閉鎖林分で人工的にギャップを形成し、光環境の改善に対する実生の応答を調べた。成熟葉の順化能力と他の生態学的特性との関係を調べるため、遷移先駆種(ホオノキ、ハリギリ)、遷移後期種(ミズナラ、イタヤカエデ)、亜高木種(アオダモ、ハウチワカエデ)、つる植物(ツルアジサイ、イワガラミ)という生活様式の異なる8種について光合成能力の変化を追跡した。その結果、生活形や遷移系列と光応答のパターンはおおまかに一致していた。先駆種では、光合成能力には有意な増加が見られたが、窒素含量には有意な変化が見られなかった。後期種、亜高木種では光合成能力、窒素含量ともに有意な増加が見られた。つる植物は光合成能力、窒素含量とも有意な変化が見られなかった。講演では、葉の形態的制限を考慮に入れて、順化能力の種間差のメカニズムについても議論したい。

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マルハナバチの採餌範囲に影響する要因:閉鎖系での実験からわかったこと

○牧野崇司 (東北大院・生命科学)

 植物集団を訪れるマルハナバチなどの送粉者が、個体ごとに採餌範囲を限定し、同じ植物株を繰り返し訪れることは古くから知られている。また、こうした行動が植物の交配相手の数や距離を制限すると言われている。

 マルハナバチの空間利用に関する先行研究をみると、少数の株を繰り返し訪れる個体から、多くの株を訪れる個体まで、採餌範囲の広さには著しい変異が見られる。この変異は、効率のよい採餌を実現するための、採餌行動の適応的な変化を反映しているのかもしれない。ハチの空間利用に関してはこれまで、花数の多い植物ほど訪問頻度が多くなることや、他個体を除去した空間に採餌の中心が移ることが知られている。しかし、採餌範囲の広さの変化に着目した研究は行われておらず、いったいどんな要因が、マルハナバチの採餌範囲の広さの決定に関わっているのかはわかっていない。

 演者らはまず、採餌範囲に関する基礎的な情報を得るため、巨大な網室内(400・)に植物を配置し、マルハナバチの行動を追跡した。その結果、頻繁に訪れる植物株がハチ個体によって異なること、各植物株への訪問頻度がハチ個体ごとに有意に異なることが明らかになった。この結果は、同時に採餌する他個体の存在が、ハチの採餌範囲に強く影響する可能性を示唆しており、同時に採餌するハチ個体の数が多くなるほど採餌範囲が狭くなり、ハチ個体が少なくなるほど採餌範囲が広くなることが予測される。この予測の検証のため、次の実験を行った。

 まず、網室内で採餌するマルハナバチから数頭を選び、比較的狭い採餌範囲を持つ個体を探した。次に、それ以外のハチ個体を全て除去し、個体間相互作用のない状況下で、対象ハチ個体の採餌範囲を調べた。その結果、いちど採餌範囲を狭く限定したハチ個体でも、他個体を除去すると、その採餌範囲を広げることがわかった。この結果は、ハチ個体間の相互作用が採餌範囲の決定に関わることを裏付ける重要な証拠であり、マルハナバチが他のハチ個体の採餌状況に柔軟に対応し、その採餌範囲を調節できることを意味している。また結果は、送粉者の密度が、植物花粉の散布範囲に影響しうる可能性を提示している。

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