日本生態学会第45回大会;発表要旨


オオオナモミ群落におけるサイズの異なる個体の窒素利用効率
彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

標高が高くなるにつれ木が小さくなる理由
酒井暁子・松井淳・酒井 聡樹・壁谷大介(東北大・院・理・生物)

シバ群落を中心に生活するシカの行動圏 −個体差と共通性−
伊藤健彦(東北大・院・理・生物)・高槻成紀(東大・総合研究博物館)

花の寿命の可塑性の進化
石井 博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

雌性先熟植物ミズバショウの雄性期への切替え時期における可塑性の適応的意義
藤高照也・平塚 明・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

コナラは何のために大きな種子をつけるのか?
福益浩子(東北大・理・生物)・酒井暁子・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

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オオオナモミ群落におけるサイズの異なる個体の窒素利用効率

彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 植物が成長において効率よく窒素を利用するためには、二つの方法が考えられる。一つは、窒素あたりの成長速度(NP)を増加させることであり、もう一つは、一度吸収した窒素を長く保持し、ロスを少なくすることである。これまでの研究では、異なる栄養環境に成育する種を比較し、NPが大きい種では窒素のロスが多い、というトレードオフが成り立つことが示唆されている。しかし、これらの解析は種レベルあるいは群落レベルで行われており、一つの群落内のサイズの異なる個体に目を向けたことはない。一般に、同種同齢個体群であっても時間の経過と共に個体間にはサイズ差が生じる。群落内では光強度の勾配が生じるため、個体間の光吸収量は大きく異なる。本研究では、サイズ差や光環境の違いが個体の窒素利用効率にどのような影響を与えているのかを調べた。オオオナモミの自然純群落において個体の刈り取りと成長の追跡を平行して行うことにより、各個体がどのように窒素を吸収、利用、そして失っているかを推定した。その結果、小さな個体では、大きな個体に比べ、窒素保持時間も短く、NPも低かったため、窒素利用効率は非常に小さかった。各個体の光吸収と窒素吸収を比較すると、相対的に、大きい個体は窒素律速で、小さい個体は光律速であることが推測された。
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標高が高くなるにつれ木が小さくなる理由

酒井 暁子・松井 淳・酒井 聡樹・壁谷 大介(東北大・院・理・生物)
  一般に,標高をあがるにつれ樹木は小さくなる。この理由を明らかにするために、八甲田山の異なる標高で,オオシラビソの成長・結実・損傷パターンを調べた。
 その結果、1)直径は、どの標高でも樹齢とともに同じように増加していたが、高標高では、老齢個体がなく、従って大径木がないことがわかった。
 2)樹高成長速度は、どの標高でも、未繁殖の間はサイズが大きいほど大きくなり、繁殖開始とともに減少に転じていた。未繁殖個体の樹高成長速度は標高間で差がなかった。しかし、高標高では、若齢で繁殖が開始し、従って小さいまま樹高成長が減速してしまうことがわかった。
 3)どの標高でも、群落の上層にある個体は、下層にある個体に比べて、幹折れなどの重大な損傷を受ける割合が高かった。損傷を受けている個体の割合は標高間で差がなかった。しかし、高標高では、群落高が低いために小さいうちに上層に出て損傷を受け、そのため樹高がさらに低下する傾向があった。
 以上から、高標高で樹木サイズが小さくなるのは、風雪害など環境の直接的影響によるのに加え、資源投資パターンが変化して樹高成長が制限されるためであることがわかった。
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シバ群落を中心に生活するシカの行動圏 −個体差と共通性−

伊藤健彦(東北大・院・理・生物)・高槻成紀(東大・総合研究博物館)
 宮城県金華山島にはニホンジカが高密度で生息しているが、シカの密度は森林よりも草原、特にシバ群落で高い。シバ群落は夏には高密度のシカを維持する生産力があるが、秋から春にかけては休眠期となり、現存量が小さいためにシカ収容力が著しく低下する。実際、糞粒法でシカの利用度を調査したところ、シカは夏にはほとんどシバ群落だけを利用し、秋から春には森林やススキ群落も利用するようになった。このことから、シカの行動圏は夏は小さく冬に大きくなると予想し、これを検証するために、成獣メス3頭にテレメーターを装着して個体追跡を行った。
 その結果、行動圏面積の季節変化は予想に反して、どの個体でも冬に大きくなるわけではなかった。行動圏面積はある個体では春と夏は小さく秋に最大であり、他の個体では春が最大で秋冬は小さく、さらに別の個体では春と秋が大きく冬が最小であった。このような違いにもかかわらず、シバ群落の利用度はどの個体も夏に大きく、冬に小さくなるという点で共通していた。
 シバ群落を利用するシカの日周行動は、日中シバ群落に出てきて、夜は森林に戻るというパターンをとっており、行動圏面積の季節変化にみられた個体差は各個体が夜戻る場所の違いによるものと考えられた。
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花の寿命の可塑性の進化

石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
 花の寿命は植物の繁殖成功に影響を及ぼす。寿命を延ばせば花粉の放出量・受取量を増やすことが出来るが、蜜の補給・花冠の呼吸などのコストも増える。このため、受粉量に応じて寿命を変化させる花は、資源の有効利用の点などからも有利である。では何故、寿命を大きく変化させる花と、あまり変化させない花があるのだろうか?
 この問に答える為、1)開花してからの時間と、2)受け取った花粉数、を感知できるときの最適の花の寿命をモデルを用いて解析した。その結果、受粉に応じて寿命を変化させる花でも、花の中に花粉がまだ多く残っている間は受粉量に関係なく花を維持し続ける(固定期)ことが予測された。
 今回は、この予測を検証するために、カタクリを用いて人工授粉・袋掛けなどの野外実験を行った。その結果人工受粉させたときの寿命は12〜14日、袋掛けをしたときの寿命は14〜16日となった。次に人工受粉させたときの寿命がモデルの予想する固定期にあたるのかを確かめるため、花の中に残っている花粉の量を日をおって調べた。その結果、花の中の花粉がほとんど失われる時期と人工受粉させたときの寿命はほぼ一致した。このことは、開花後花の中に花粉がまだ多く残っている間は受粉量に関係なく花を維持し続けるというモデルの予測と一致した。このように、雄・雌の両方の機能が花の寿命に同等な影響を与えるという従来の予想(Plimack 1985; Shoen & Ashman 1995)に反し、両機能は花の寿命に異なる影響を与えている可能性が示唆された。
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雌性先熟植物ミズバショウの雄性期への切替え時期における可塑性の適応的意義

藤高照也・平塚 明・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
 他家受粉率を高める機構とされる雌雄異熟(雄機能と雌機能の成熟が時間的に異なる)植物では、集団の性比が時間とともに変化するため、雄としての繁殖成功は時間に依存して変化する。雌性先熟(雌が雄より先に成熟する)では、早い時期ほど雌の比率が大きいため早く雄になることが有利であるが、そのためには他家受粉の機会を失うなど雌的成功を犠牲にしなければならない。
 集団におけるこのような雌雄の繁殖成功のトレードオフの中で、雌性先熟植物がどのように雌雄双方の繁殖を成功させているのかを、ミズバショウを用いて研究した。
 その結果、集団中の雌の割合は時間とともに減少し、それに応じてミズバショウの性変化が見られた。特に、受粉によって雌的繁殖成功を確保した後に雄への性変化が起きていることが示唆された。それによって、時間に依存する雄的成功をできるだけ損なわないことも可能となる。
 このような受粉を終えた時期によって雄に変わる時期を可塑的に変化させる機構は、雌雄双方の成功を高める戦略として有効であると考えられる。
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コナラは何のために大きな種子をつけるのか?

福益浩子(東北大・理・生物)・酒井暁子・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
 コナラ属の種子は他の高木種と比べて格段に大きい。私は、実生定着後に食害や攪乱が起きたときに萌芽再生するために大きな種子が進化したのではないかと考え以下の実験を行った。 実験-- コナラの大種子・小種子それぞれを明条件・暗条件で育て、実生定着後に地上部を切除しその後の生長量を測定した。 結果-- 1)萌芽重量は暗条件において大種子由来の個体の方が小種子由来の個体より大きくなった。しかし明条件では両者に有意な差はなかった。2)無処理個体では、個体重は、明条件において小種子由来の個体より大種子由来の個体でより大きくなった。しかし暗条件では両者に有意な差はなかった。3)死亡率は無処理個体では両者に有意な差はなく、切除処理をした個体では小種子由来の個体の方が大種子由来の個体より大きくなった。1)3)より、大きな種子ほど萌芽能力を持ち、種子の大きさに依存した萌芽能力の差は暗条件で顕著であることがわかった。2)より、明条件では、攪乱や食害がなければ大種子のほうが成長できることがわかった。これらのことから、コナラの大きな種子の適応的意義は、安定した明るい場所での大きな生長量と、暗い場所での食害や攪乱に対する萌芽能力にあると結論した。
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[研究紹介]//[ホームページ]