日本生態学会第46回大会;発表要旨


同所的に生育する常緑広葉樹の光合成の窒素利用効率
彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

オオオナモミ自然群落における台風による倒伏と個体の形態の関係
長嶋寿江・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

遷移進行中の草本群落における光競争と群落構造の解析
U.G.ナチン・伊藤健彦・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

湿原群落における構成種の光獲得と窒素分配
木村啓・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

大きさと数のトレードオフ再考:羊羹じゃなくてアイスクリーム
酒井聡樹(東北大・院・理・生物)・原田康志(三重大・生物資源)

オオシラビソの繁殖戦略:標高による性投資比の違い
酒井暁子・松井淳・酒井聡樹・壁谷大介(東北大・院・理・生物)

金華山島におけるシカの群落利用の採食効率による解明
伊藤健彦(東北大・院・理・生物)・高槻成紀(東大・総合研究博物館)

花序内の個々の花の寿命
石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

ミズナラ実生における貯蔵炭水化物と萌芽再生力との関係
壁谷 大介(東北大・院・理・生物)・松井 淳(東北大・理・八甲田)・酒井 暁子・酒井 聡樹(東北大・院・理・生物)・中野 暁(東北大・院・農・環境修復)

種子の虫害はミヤマナラの種子生産戦略に影響するのか?
福益浩子・酒井聡樹・酒井暁子(東北大・院・理・生物)

[学会発表要旨に戻る]

同所的に生育する常緑広葉樹の光合成の窒素利用効率

彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 常緑広葉樹は樹種によって葉の性質が大きく異なるが、その違いにはある傾向が認められる。例えば、葉の寿命が長い種では、光合成能力が低く、葉が厚く、乾重あたりの窒素含量が低く、また、光合成の窒素利用効率(窒素含量あたりの光合成能力、PNUE)が低い(Reich et al. 1991, Oecologiaなど)。窒素は植物にとって貴重な元素であり、その効率的な利用が植物の適応度に影響を与えると考えられている。窒素が貴重な元素である理由は、光合成系の構成に窒素が必要であることである。この観点に立てば、なぜPNUEが低い種が存在するのかは大きな謎である。我々は、PNUEが低いことが有利な意味を持つわけではなく、PNUEが低い種は何か別の形質において有利な面を持つと考えている。この形質が制約となってPNUEを低くしていると考えれば、上記の種間の傾向が説明できるかもしれない。
 この仮説を検証するためには、まずPNUEがを低くしている生理学的制約が何かを知らなくてはいけない。ほとんどの木本植物はC3植物であり、光合成の代謝経路に違いがあるわけではない。これまで、我々はどのような形質がPNUEの種間差をもたらすのかを調べてきた(Hikosaka et al. 1998, Functional Ecology)。今回は房総半島の常緑広葉樹林において同所的に生育する8種についてPNUEを比較した。伐採により形成された林縁において、光環境が同じと考えられる枝を選び、葉の寿命、光合成速度を現地で測定し、葉を持ち帰り、窒素含量、タンパク質含量を測定した。本講演はこの結果について報告する。
[学会発表要旨に戻る]

オオオナモミ自然群落における台風による倒伏と個体の形態の関係

長嶋寿江・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 草本群落の上層個体は、茎の直径は様々であるが高さが比較的均一であることが多い。上層個体の中でも茎の細い個体は、個体の力学的安定性を犠牲にして個体の高さを稼ぎ、光の競争からの脱落を防いでいることが予想される。
 98年9月、台風5号が到来した際に、宮城県川崎町釜房湖畔のオオオナモミ自然群落で個体の倒伏が見られた。茎が細い上層個体は力学的安定性が低く大風によって倒伏しやすいかどうかを調べるために、台風通過直後にその群落の個体の倒伏安全率、器官物質分配、茎の形態、倒伏の有無を調べた。倒伏安全率は、茎の先端に重りを付け、茎が90度曲がるときの重りの重さ(Wcr)を、その個体の葉・果実の生重量(FWlf)で割った値とした。倒伏した個体では、倒伏安全率はほとんど2以下であり、倒伏しなかった個体よりも明らかに低い値だった。しかし、茎の基部直径やWcrは倒伏した個体で小さいとは限らず、また、Wcrと茎の直径および生重の関係は倒伏した個体としなかった個体でほとんど違わなかったことから、茎の形態や性質で倒伏が左右されているとはいえなかった。結局、FWlfが大きい個体で、倒伏安全率が低く倒伏する傾向があった。この時期のオオオナモミは、虫害や生殖成長段階などと思われる要因によって、同じサイズの茎でも葉や果実の量にかなりのばらつきがあり、このことが倒伏を大きく左右していた。
[学会発表要旨に戻る]

遷移進行中の草本群落における光競争と群落構造の解析

U.G.ナチン・伊藤健彦・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 大型草食動物が植生に様々な影響を与えることはしばしば見られる。採食圧が強いと、群落の地上部現存量が一定に保たれ、群落の種組成が安定し、遷移が停滞することがある。このような群落を柵で囲み、採食圧から解放すると、群落が発達し、群落内の資源をめぐる競争は激しくなる。
 草食動物だけではなく、人為的な働きでも植物群落の安定状態を維持することができる。毎年刈り取りを行っているオランダのヨシ草原で、Hirose and Werger (1995) が研究した結果、安定した群落では地上部バイオマスあたりの獲得光量(光獲得効率)が種間で一定であることを示した。地上部バイオマスと獲得光量が比例するということは、種間競争が相称的 (Symmetrical competition)であることを意味する。
 宮城県の金華山島には多くのニホンジカが生息している、島内の鹿山ではシカの採食によりシバ群落が安定し、維持されている。1990年に宮城県は、植生を保護し、回復させるために、防鹿柵を作った。それから6年間が経った今、防鹿柵の中ではシバがほとんど現れず、かわりに、ススキと低木が優占する群落に置き換わっている。我々は、遷移のメカニズムを解明することを目的として、安定しているシバ群落と遷移進行中のススキ群落で種間競争がどのように異なるかを調べた。1997年7月下旬に、群落のバイオマスが最大になった時点で二つの群落について層別刈り取りを行い、各種の光獲得量を調べた。シバ群落では各種の光獲得量は地上部バイオマスに比例し、種間競争は相称的であった。遷移進行中のススキ群落では、ススキの光獲得量がサイズに比例する以上に高く、種間競争は非相称的 (Asymmetrical competition)であった。
[学会発表要旨に戻る]

湿原群落における構成種の光獲得と窒素分配

木村啓・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 光と窒素は植物の物質生産に大きな影響を与える。光には方向性があり、植物群落において上層に葉を展開する種は多くの光を獲得できるが、下層に葉を展開する種は上層の葉に被陰されあまり多くの光を獲得することができない。一方、上層に葉を展開するためには、支持器官に多くのバイオマスを投資しなければならない。更に、強光を有効に利用するためには、それに見合った高い光合成能力を持たなくてはならない。そのためには、葉に適当な量の窒素の投資が必要である。
 Hirose and Werger(1994, 1995)は、定期的な刈り取りによって種組成が数十年維持されているヨシ群落において各種の光獲得量・バイオマス・窒素保有量を調べ、下層種は上層種に匹敵する獲得光/バイオマス比(Φmass)と獲得光/葉部含有窒素比(Φn)を持つことを示した。これらの結果からある一定のレベル以上の資源利用効率を持つことが共存の条件である可能性が示唆された。
 自然界の植物群落は、種組成・バイオマス量・階層構造の発達程度など、場所によりその様相は大きく異なる。特に、上層種が展開する葉の量によって下層種が受ける光の強度は大きく変化する。異なる上層種を持つ群落間では下層種のバイオマスや窒素の投資はどのように違うのだろうか?
 今回我々は、青森県八甲田の東北大植物園内にある湿原において優占種の異なる群落を二つ選び、それぞれ構成種の光獲得量・窒素分配を調べ、比較した。調査を行ったのは、上層をヌマガヤが優占する群落とワタスゲが優占する群落である。それぞれの群落の葉面積指数は、5.3と2.7と大きく異なった。それぞれの群落において、下層種でも上層種と同等のΦmass・Φnを維持していた。そして、群落間で構成種のΦmass・Φnを比較したところ、有意な差は見られなかった。この結果から、湿原構成種は異なる群落間でも同等の高い資源利用効率を有していることが示された。
[学会発表要旨に戻る]

大きさと数のトレードオフ再考:羊羹じゃなくてアイスクリーム

酒井聡樹(東北大・院・理・生物)・原田康志(三重大・生物資源)
 種子生産や卵生産において、どれくらいの大きさの種子・卵をいくつ作るのかということは適応度に大きく影響する重要な形質である。そのため、さまざまな動植物を対象に、種子・卵の大きさと数のトレードオフの関係が調べられてきた。また、適応度を最大にする最適な種子・卵の大きさを理論的に解析したり、理論的予測を検証する試みもなされている。
 こうした理論的解析ではほとんどの場合、大きさ S と数 N の間に線型のトレードオフ(S x N = 一定)が仮定されている(一本の羊羹を、大きさ S の裂片 N 個に切り分けることに例え、羊羹のトレードオフと呼ばれる)。しかし現実のトレードオフは、羊羹を切り分けるような単純なものではないことに気づく。たとえば、種子(卵)の発達速度には上限があるので、種子一つあたりに割り振られた資源を直ちに吸収して種子が最終サイズに達するわけではない。また、種子生産に投資する貯蔵資源は、維持呼吸のため時間とともに減少する。種子の発達に時間がかかるならば、その間の貯蔵資源の目減りも無視できないであろう。
 本研究では、こうした要因を考慮すると、大きさと数のトレードオフは非線型(Sx Na = 一定)となることが一般的であることを示す。したがって、線型なトレードオフを仮定した今までの解析は再検討する必要がある。また、この非線型のトレードオフの元での最適種子サイズについても解析する。

 *アイスクリームは、維持呼吸により貯蔵資源が消失する様を例えたものである。
[学会発表要旨に戻る]

オオシラビソの繁殖戦略:標高による性投資比の違い

酒井暁子・松井淳・酒井聡樹・壁谷大介(東北大・院・理・生物)
 植物の性投資比は古典理論的には雄1:雌1が予測されるが、実際は外れていることが多く、その理由を説明するさまざまな要因・仮説が提唱されている。風媒花植物では、一般的に地面や葉群から離れるほど風速が強くなるので、背丈が高いほど花粉飛散距離は長くなるとされる。そのため小さな個体では花粉をたくさん生産しても残せる子孫の数はあまり増えないが、大きくなるほど花粉の量に応じた子孫の数を期待できるようになる。このことから,大きな個体ほど相対的に雄器官により多くの資源を投資していると予測される(送粉効率仮説: Burd and Allen 1988)。
 本研究ではオオシラビソを用いてこの説を検証した。青森県八甲田山の亜高山帯の低・中・高標高において、群落として十分に発達し平衡状態にある集団を1つずつ選び、98年における繁殖個体(n=40〜60)の果実・雄花の生産量を推定した。
 その結果、それぞれの集団内で、(1)繁殖投資量(果実重+雄花重)は個体サイズ(D2H)が大きくなるにしたがってほぼ直線的に増加(低・中・高標高でそれぞれサイズの0.7・1.0・1.1乗に比例)していた。しかし果実と雄花を別々にみると、果実重は個体サイズの0.5〜0.8乗に比例し、一方雄花重は1.6〜1.9乗に比例して増加していた。そのため、小さい個体では果実の比率が高く、個体サイズが大きいほど雄花の比率が高くなっている。(2)雄花は各樹冠の高い部位だけでなくさまざまな高さについている。そこで枝単位で雄花生産量を調べると、雄花重/葉重は,樹高よりも枝ごとの地面からの高さと強い相関があった。以上の結果は送粉効率仮説を支持する。(3)これまでの調査で、標高が高い集団ほど個体の最大・平均サイズ、繁殖開始サイズが小さいことがわかっている。性比もある程度これと連動して変化し、標高が高い集団ほどより小さなサイズで雄花の比率が高くなる傾向が認められた。しかしその変化は緩やかなため、集団全体の雄/雌は低・中・高標高で1.0・0.9・0.2と低下する。このことから、個体の性比には群落の中での相対的な高さと絶対的な高さの両方が影響していると考える。
[学会発表要旨に戻る]

金華山島におけるシカの群落利用の採食効率による解明

伊藤健彦(東北大・院・理・生物)・高槻成紀(東大・総合研究博物館)
 宮城県金華山島(約10km2)には約500頭ものニホンジカが生息しており、特にシバ群落では500頭/km2もの高密度である。演者らはこれまでに、シカの分布調査や行動圏調査、シバ群落の現存量調査から、シカは夏にはシバ群落に集中し、冬になると周辺の森林も利用するようになること、シバ群落は夏には高密度のシカを維持できるが、秋から春にかけてはシバ群落だけでは維持できないこと、現存量の季節変化はシカによるシバ群落の利用度と同じ傾向を示すことなどを明らかにした。しかし、シカが利用群落を選択する要因を解明するためには、シバ群落だけではなく、各群落でのシカの行動を明らかにし、利用群落選択に影響していそうな要因(利用可能量や採食効率など)を群落間で比較することが必要である。そこで、1997年11月から1998年8月にかけて、成獣メス2個体の個体追跡を行い、利用している群落、行動、採食効率の1つの指標として時間あたりに何口食べるか(バイト数)を記録した。また、森林の林床の群落とシバ群落の現存量とを比較した。
 シカは観察時間の大半を採食と休息に費やしており、各群落における滞在時間は採食時間と非常に強く相関していた。休息時間は最大の季節・個体では観察時間の40%にもなったが、休息は長時間採食した群落でしか見られず、休息するためにわざわざ場所を移動することはなかった。これらのことから、シカの群落利用には採食場所が最も重要であることが分かった。
 シバ群落と林床で生育部の現存量を比較すると、春から秋にはシバ群落がはるかに大きかったが、冬にはほぼ同程度となり、シカ行動圏内の群落現存量とシカの行動はよく対応していた。また、シバ群落における1分間あたりのバイト数は季節間で有意に差があり夏が最大(59.9回/分)で冬が最小(16.3回/分)であった。シバ群落と林内で比較すると秋にはシバ群落の採食効率の方が有意に高かったが、冬になるとシバ群落での効率が低下し林内との有意差がなくなった。これらから、シカの群落利用の要因として採食効率が非常に重要であることが示唆された。
[学会発表要旨に戻る]

花序内の個々の花の寿命

石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
 多くの植物は一個体に複数個の花を咲かせる。このとき個々の花と同株内の周りの花とは様々に影響しあう(花間相互作用)。たとえば多くの花が同時に咲いているとより多くの訪花昆虫が集まり(誘引効果)、送受粉が盛んになることがある。しかし同時に訪花者一匹あたりの株内訪花数も増大し、隣花受粉の割合も増してしまうことも多い。いくつかの研究は株内訪花の増大とともに無駄になる花粉が増えることも指摘している。こうした花間の相互作用は植物の適応度に直接影響を及ぼす重要な要因である。
 開花スケジュールはこの花間の相互作用に強く影響する。たとえば複数個の花を一斉に咲かせると、順々に咲かせた時に比べ同時に咲いている花数が多くなり、誘引効果が増大することなどが期待される。このためde Jong et al. 1992 は植物が開花スケジュールを通して花間相互作用の調節を行っていると考え、モデルを用いて解析した。その結果、同時に咲いている花数が多いほど訪問者数が増える状況下では、訪花者の密度が小さく、一度の訪花で持ち出される花粉の割合や持ち込まれる花粉の割合が小さい場合に一斉開花が有利になることが示された。
 一方、個々の花の寿命も花間相互作用に強く影響する形質である。たとえば、個々の花が順々に咲いても花の寿命が長ければ個々の花の花期の重なりが増し、誘引効果が増すことが期待される。開花スケジュールを考える上でも、花の寿命は無視できない。植物は花の寿命を通しても花間相互作用の調節を行っているのではないだろうか?
 今回はまず、垂直花序(下から順々に咲く)を持つキンコウカにおいて個々の花の寿命が花間相互作用にどのような影響を与えているのかを野外実験で調べた。その結果、花序の中で最初や中頃に咲く花は、花粉の授受に必要な期間よりも寿命が長く、その結果その後に咲く花の誘因に貢献していることがわかった。一方、花序の中で終わりの方に咲く花の寿命はそれほど長くなかった。これは花序内のほとんどの花がすでに花粉の授受を終えているため、それ以上誘引を高める必要がないためと思われる。これらの結果から、植物が個々の花をとりまく花間相互作用に応じて個々の花の寿命を調節していることが示唆された。
 ところで、キンコウカでは誘引効果の増大が花粉の獲得(雌機能)よりも花粉の放出(雄機能)に貢献していた。これは花粉の獲得には多くの訪花昆虫を必要としていないからだと思われる。実際、下の方の花(花序内の花数が少ない時期に咲く)よりも、中・上のほうの方の花(花序内の花数が多い時期に咲く)の方が花粉の放出は盛んであったのに、下の方の花の方がむしろ高い稔実を示した。つまり下の方の花は雌的、上のほうの方の花は雄的に機能していた。こうして、花の寿命が個々の花の機能的性比に影響を及ぼしていることもわかった。
[学会発表要旨に戻る]

ミズナラ実生における貯蔵炭水化物と萌芽再生力との関係

壁谷大介(東北大・院・理・生物)・松井淳(東北大・理・八甲田)・酒井暁子・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)・中野暁(東北大・院・農・環境修復)
 自然環境下に生育する植物の多くは野火や食害等の地上部を失うような攪乱に対して萌芽再生を行うが、その際には地下部の貯蔵資源(炭水化物)が利用される。一般に損傷からの回復のための資源貯蔵と通常の成長への投資との間にはトレードオフの関係があると考えられている。このため高さの成長に資源投資する必要のある高木性樹種の実生が萌芽再生のために資源を貯蔵することは生活史戦略上不利のように思われる。演者らはミズナラの実生を対象に、高木性樹種実生における貯蔵炭水化物と人工的に地上部の刈り取りを行った場合の萌芽再生力の関係について3年間の追跡調査を行った。
 野外に生育するミズナラの実生は、生育光条件が良ければ多量の炭水化物を根に貯蔵しており萌芽再生率も高かった。また生育光条件が悪くても発芽1年後でまではある程度の炭水化物を貯蔵し萌芽再生率も高かったが、その後貯蔵炭水化物は減少し萌芽再生率も低下した。栽培個体を用いた実験からミズナラ実生の根の炭水化物は萌芽再生によって消費され、貯蔵炭水化物が萌芽再生に重要であることも示唆された。以上の結果から次のように考えられる。
1)ミズナラ実生は、定着の初期には種子由来の炭水化物を根に貯蔵しており、劣悪な光環境の下に定着した実生であっても、損傷を受けた際にある程度の確率で萌芽再生できる。2)良好な光環境の下に定着した実生は齢が進むとともに拡大再生産を繰り返すが、得られた資源の全てを成長へ投資するのではなく一部は損傷からの回復のために貯蔵する。このため地上部に損傷を受けたとしても高い確率で萌芽再生できる。3)劣悪な光環境の下に定着した実生は十分な光合成が行えず、定着初期にあった貯蔵資源も齢が進むにつれて個体の維持のために消費される。その結果、損傷を受けた際の萌芽再生率も低下する。
[学会発表要旨に戻る]

種子の虫害はミヤマナラの種子生産戦略に影響するのか?

福益浩子・酒井聡樹・酒井暁子(東北大・院・理・生物)
 コナラ属は、種子生産の過程でつけた雌花の9割以上が成熟前に落下してしまうことが知られている。この様な種子の脱落は、花期が終わってすぐの種子成長初期だけでなく、種子がある程度大きくなってしまってからも見られる。なぜ、この様に多量な種子が脱落してしまうのであろうか。
 コナラ属の種子は種子成長の過程で昆虫に産卵され、その昆虫による食害によって後の実生の成長は大きな影響を受ける。昆虫に食害された種子を親個体が選択的に中絶しているのであろうか。このことを確かめるために、青森県十和田八甲田国立公園内の高田谷地のコナラ属の低木ミヤマナラを対象に、昆虫による種子産卵と種子の脱落の関係を調査した。
 調査地のミヤマナラは、6月上旬に開花し10月中旬まで種子を成長させていく。8月から9月にかけては大きな種子ほどよく産卵されていた。また、8月から9月にかけて昆虫に産卵された種子は、産卵されなかった種子と比べても種子中絶率には違いはなかった。また、その後の成長速度も産卵されなかった種子と違わなかった。これらの結果から、親木は、産卵された種子を中絶しているわけではないことが示唆された。その理由のひとつに、親木が昆虫の産卵を認識できていないということが考えられる。また、親木が虫による産卵を認識できたとしても、ある程度資源を投資した種子を中絶するよりも成長させたほうが適応的な場合もあると考えられる。
[学会発表要旨に戻る]
[研究紹介]//[ホームページ]