日本生態学会第47回大会;発表要旨


植物群落内における個体間の光をめぐる競争の定量化の試み
彦坂幸毅・長嶋寿江・原田祐子・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

群落内個体の高さ成長と太さ成長は個体の力学的安定性にどのように関係するか?
長嶋寿江・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

高CO2濃度下で育成したシロザ群落内の個体光合成量の解析
山野崇・彦坂幸毅・長嶋寿江・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

大気CO2濃度上昇と一年草の繁殖収量
衣笠利彦・耿宝・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

なぜ、大きな親ほど大きな種子(卵)を作るのか?:シンク制約生長モデルとその検証
酒井 聡樹(東北大・院・理・生物)・原田 康志(三重大・生物資源)

植物の開花数と生育密度がポリネーターの訪花行動におよぼす影響
大橋一晴(東北大・院・理)・矢原徹一(九大・理・生物)

キンコウカにおける個々の花の性比―花序のディスプレイサイズの変動の影響―
石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

雌雄異株植物ヒメスイバにおける花序の空間分布と性的2型
藤高照也・原田祐子・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

マルハナバチの採餌パターンの個体差と、植物の送受粉に与える影響〜個体識別した観察から〜
牧野崇司・大橋一晴・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
両性花における花あたりの花粉・胚珠の生産パターン:個体サイズか開花順か
板垣智之(東北大・院・理・生物)・石井博・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

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植物群落内における個体間の光をめぐる競争の定量化の試み

彦坂幸毅・長嶋寿江・原田祐子・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

 群落光合成モデルが初めて発表されて以来、農業収量増加の観点などから、土地面積あたりの群落光合成を最大にする要因について研究が行われてきた。しかし、生態学的に見た場合、群落光合成を最大にする要因が必ずしも群落内の個体の適応度を高めることにつながるとは限らない。我々は群落光合成モデルに進化的に安定な戦略(ESS)の概念を導入し、群落光合成を最大にする葉の角度(吸光係数)は進化的に安定な葉の角度とは必ずしも一致しないことを示した(Hikosaka and Hirose 1997 Ecoscience)。ESSの決定においては、隣の個体とどれだけの相互作用(=被陰)があるかが重要である。ある性質が変わったときに、そのことが隣の個体に及ぼす影響がなければESSと群落光合成を最大にする戦略は等しい。しかし、影響が大きいならば両者の乖離は大きくなる。これまで競争についての研究は数多いが、まだ群落内の個体が隣個体とどれだけ相互作用があるのかを直接的に測定した研究はない。古くは孤立個体と群落個体の成長比較が行われ、そこから影響を探る試みが行われていたが、両者は形態に大きな違いがあり、その成長の違いから相互作用の直接的な効果を知ることは難しい。我々は一年生草本オオオナモミのポット群落を育成し、群落個体の受光量と個体をポットごと群落から出して孤立させたときの受光量から相互作用の強度を実測することを試みた。受光量の測定には数日レベルの積算受光量を測定できる感光フィルムを用いた。2種類の密度の群落(平方メートルあたり64と16)について測定を行った結果、高密度では、群落内の個体と群落外に出した個体の受光量は大きく異なり、相互作用が大きいことがわかった。一方、低密度では違いが非常に小さく、相互作用が小さいことが示された。また、高密度と低密度では節間の長さなど個体の形態に大きな違いが見られた。群落外の受光量を比較すると、低密度生育の個体は自己被陰が相対的に大きく、個体の形態が受光量に大きな影響を持つことがわかった。

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群落内個体の高さ成長と太さ成長は個体の力学的安定性にどのように関係するか?

長嶋寿江・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

 群落内の個体は、サイズだけでなく形態も様々である。特に、茎の高さと直径の比率は、同種同齢の個体からなる群落でも個体間で大きく異なり、上層を占める個体では、直径が大きくばらつくのに対して高さが比較的均一である。このような「背ぞろい」現象は、周囲の隣接個体の高さにそろうように高さ成長が調節されて生じることが、我々のこれまでの研究で明らかになっている。
 このような成長の仕方の生態学的意義は何であろうか。群落内では多くの場合、光の競争が生じているが、そのような場合、周囲個体より少しでも高い方が有利なのではないのだろうか。しかし、茎は高いほど力学的に不安定になり、一方、太いほど安定になる。上層個体は、他個体より光を得るよう高くなるよりも、個体の力学的安定性を増すよう太くなることを選んでいるのかもしれない。そこで、光の競争下における力学的制約を明らかにするために、一年生草本シロザ群落において個体の力学的安定性を評価した。力学的安定性は、茎の先端に重りを付けて茎が垂直方向から90度曲がる時の重りの重さ(Lcr)を、茎に付いていた葉の生重量(FWl)で割った値(倒伏安全率)で評価した(Tateno and Bae 1990 を改変)。Lcr は茎の耐え得る負荷、つまり茎の性能を表し、FWl はその茎に実際にかかっている負荷となる。各個体の倒伏安全率をそれぞれの茎の高さと直径で重回帰した結果、上層個体では、直径が大きくなっても倒伏安全率はあまり変わらないことが明らかになった。これは、茎が太いほど Lcr が大きくなるが、同時に FWl も増大して Lcr の増えを相殺したためであった。一方、高さが高いほど倒伏安全率は低下したが、これは、高いほど Lcr が低下するにもかかわらず FWl が増大するからだった。茎重量と葉重量のアロメトリー関係はほぼ一定だったことから、茎が増えるとある比率で葉が増えるようになっており、上層では、力学的安定性を犠牲にして高くなるよりもそれを維持する範囲で茎直径と葉量が増大することがわかった。今後は、そのような成長の仕方が個体の受光量にどの程度影響するのかを調べ、光資源獲得量と力学的安定性のトレードオフを明らかにしたい。

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高CO2濃度下で育成したシロザ群落内の個体光合成量の解析

山野崇・彦坂幸毅・長嶋寿江・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

 大気CO2濃度上昇に対する植物の応答の研究は数多いが、そのほとんどは個体・器官レベルに着目して行われており、群落・生態系レベルの知見はまだ不足している。我々はオープントップチャンバー内で一年生草本シロザの同種同齢個体群を育成し、個体サイズ構造に対するCO2濃度上昇の影響を調べてきた。これまでに明らかにしてきたのは以下の事項である。1)生育初期では高CO2によって全ての個体の成長が促進される。2)葉面積指数が1を超え、個体間競争が激しくなると、高CO2処理群落での下層個体の成長が抑制され、大気条件の群落に比べ個体サイズの不均一性が大きくなる。今回我々は個体の光合成量を推定・解析することにより、このようなサイズ構造の成因を明らかにすることを試みた。Hikosaka et al.(1999, Oecologia)に基づき、1)個葉の光合成量を窒素含量と光強度の関数として表し、2)個葉の光環境と窒素含量を実測し、3)個葉の光合成の総和として個体光合成量を求めた。光合成量は以下の式を用いて解析した。

光合成量/地上部重量=光獲得量/地上部重量 × 光合成量/光獲得量 (相対成長速度)  (光獲得効率)             (光利用効率)   

高CO2下での個葉光合成速度は大気条件に比べ高い値を示し、顕著な抑制は起こっていなかった。このため個体の光利用効率はCO2濃度上昇により促進されていた。光獲得効率は群落構造の影響を大きく受けた。高CO2下の群落では、上層個体の成長・葉面積展開が促進されていたために下層個体の光条件が悪く、光獲得効率が低かった。下層個体では光獲得効率の低下は光利用効率の促進をはるかに上回った。これらの結果から、CO2濃度上昇は成長初期は全ての個体の成長を促進するものの、上層個体の成長による光環境悪化がその後の下層個体の成長を抑制し、個体サイズの不均一性が拡大すると結論した。

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大気CO2濃度上昇と一年草の繁殖収量

衣笠利彦・耿宝・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

 近年の大気CO2濃度の上昇は著しく、その濃度は100年後には現在の倍の700ppm になると予測されている。生態系におけるCO2の重要なシンクは植物である。そのため植物の高CO2に対する挙動を知ることは将来の地球環境変化の予測に大きな意味を持つ。これまでの高CO2濃度の影響に関する研究では、多くの場合植物の栄養成長に重点が置かれてきた。しかし、一年草の繁殖収量は栄養成長のみで決まるわけではない。繁殖収量を決定するのは、繁殖期間の長さ、繁殖期間中の栄養器官による獲得光合成産物量、その光合成産物の繁殖器官への分配率、の三つの要因である。本研究では高CO2濃度が上記の三つの要因に与える影響を調べ、高CO2下での繁殖収量決定機構の解析を試みた。
 本年度我々はオープントップチャンバー (OTC) を用い、一年草のオオオナモミ(Xanthium canadense) にCO2施肥実験を行った。その結果、繁殖期間の長さにはCO2上昇の影響はなく、栄養成長の促進は僅かしか見られなかった。また、繁殖器官への光合成産物分配率にも変化は見られなかった。そのため繁殖収量は若干増加した。しかし種子収量にはCO2濃度上昇による影響はなかった。さらに、種子窒素濃度にも種子窒素含量にもCO2処理間で変化が無く、個体の窒素含量及び種子への窒素分配にもCO2上昇による影響はみられなかった。この結果から、オオオナモミの種子収量は種子生産に使われる窒素量によって決定され、生育栄養条件が同一であればその種子収量にCO2上昇の影響がないことが示唆された。

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なぜ、大きな親ほど大きな種子(卵)を作るのか?:シンク制約生長モデルとその検証

酒井聡樹(東北大・院・理・生物)・原田康志(三重大・生物資源)

 多くの生物で、大きな親ほど大きな種子(卵)を作るという一般傾向が知られている。しかしこの傾向は、最適な種子サイズは親の資源量に依存しない(Smith and Frewtell, 1974)という予測に反する。この一般傾向を説明するためいくつかの仮説が提唱されているが、それらはいずれも、ある特定の生物のみに当てはまるものでしかない。
 昨年の大会で私たちは、種子の発達に及ぼす生理学的要因(資源吸収速度のシンク制約と維持呼吸による貯蔵資源の目減り)を考慮した種子生長モデルを提唱した。今回は、このモデルに、親組織(維管束の末端)からそれにつらなる種子への資源移動速度に制約があるという仮定を加えると、上記の一般傾向が説明できることを示す。また、カタクリを用いた予測の検証結果も報告する。
【仮定】貯蔵資源を用いて N 個の種子を作る。各種子の資源吸収速度は、その時点での種子サイズ s と、親組織からの資源移動速度の上限 L に依存する:ds/dt = Min[rs,L] ミ ms(r は正の定数、m は維持呼吸速度)。貯蔵資源を消費したら各種子の生長は終わり、その時点での大きさが最終的な種子サイズ S となる。種子の発芽定着率(S に依存)× N が最大となる S を計算する。
【予測】L が大きいほど最適な種子サイズ S* は大く、m が大きいほど S* は小さい。つまり、大きな親ほど L が大きく、m は親のサイズに依存しない(あるいは、正の依存性があったとしてもその依存性が小さい)ならば、大きな親ほど大きな種子を作る。
【検証】Sakai (1998) のカタクリ果実の生長データを再解析し、モデルのパラメーターを推定した。その結果、大きな親ほど L は大きく、m は親サイズに依存しなかった。また、L が大きい親ほど種子は大きく、m が大きい親ほど種子は小さかった。これは、「大きな親ほど L が大きいために種子も大きくなる」という予測と一致していた。

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植物の開花数と生育密度がポリネーターの訪花行動におよぼす影響

大橋一晴(東北大・院・理)・矢原徹一(九大・理・生物)

 植物集団は、しばしば花数の異なる株を含んでいる。このような集団で採餌するポリネーターは、花の多い株と少ない株のどちらにより長く滞在し、どちらをより頻繁に訪れるべきだろうか? こうした決断は、コストと利益をつうじてポリネーター自身の採餌効率を大きく左右するはずだ。演者らは理論モデルを用いてこのような状況におけるポリネーターの損得を計算し、純利益を最大にするには「再訪花の危険」と「飛翔のコスト」のバランスにしたがって株内訪花数(株を訪れてから去るまでに吸蜜する花の数)を決め、かつ「個体間の競争」をできるだけ小さくするように株あたりの訪問頻度(単位時間あたりの訪問数)を決めればよいことを指摘した。さらにモデルから、植物の生育密度が低下したときの訪花行動の変化について、2つのユニークな予測を導いた:1)密度が低くなるほど花の多い株上における株内訪花数は大きくなる;2)密度が低くなるほど花の多い株と少ない株のうける訪問頻度の差は小さくなる(JES45一般講演)。本講演では、フジアザミ野生集団を訪れるマルハナバチを用いて行なった、上記のモデルの検証結果を紹介する。我々はまず、1つの株上で起こる再訪花率や、株間や花間の移動にかかる時間コストを測定した。そして、これらをモデルに代入して得られる株内訪花数の予測値を、実測値と比較した。次に、予測1)と2)を検証するため、2つの行動パラメータ(「株内訪花数」および「株あたりの訪問頻度」)と花数との関係を、高密度区と低密度区の間でそれぞれ比較した。最後に、予測1)や2)で見られる行動の変化によってポリネーター個体間の競争が緩和されているかどうかを確かめるため、さまざまな花数の株について花あたりの蜜分泌速度と訪花頻度を調べた。観察結果はいずれもモデルとその予測をよく支持していた。ただし、株内訪花数は全体的に予測値よりも少ない傾向が見られた。

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キンコウカにおける個々の花の性比―花序のディスプレイサイズの変動の影響―

石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

 両性花を着ける植物では、個体の繁殖成功は個々の花の雄・雌機能を通じての適応度への貢献の和で決まる。そのため、もし個々の花が単なる繰り返しでないのなら、植物の適応度や性比を考える上で、個々の花の性質を考慮することは非常に重要である。このことを踏まえ、Brunet and Charlesworth 1995は、花粉の散布効果が大きい時期に咲く花ほど、雄分配への配分率が大きくなると予測した。現在までに、個々の花ごとに花粉の散布効果が異なる理由として、花序内でのポリネーターの訪花順序や雌雄異熟が上げられており、Brunet 1996は雌性先熟植物において個々の花の性比が異なっている例を示している。しかし花序内の個々の花の性質を、進化的背景も含めて調べた研究は未だ少ない。
 ところで、順次開花する花序では、花序のディスプレイサイズ(同時開花花数)は時間とともに変化する。ディスプレイサイズは、隣花受粉やpollen discounting等に影響する一方で、花当たりの訪花数にも影響を与える。この花当たりの訪花数は、雌適応度より、むしろ雄適応度に強く影響することが多い(Bell 1985: Vaughton and Ramsey 1998など)。その結果、花序のディスプレイサイズが異なる時期に咲く花では、(雄適応度への貢献) / (雌適応度への貢献) が異なるだろう。今まで注目されてこなかったが、このことも個々の花の性比が異なって進化してくることの原因になりうるのではないだろうか?
 本研究では、下から順次に開花する垂直花序をもつキンコウカにおいて、花序のディスプレイサイズの変化が個々の花の性比にどのように影響しているのかを調べた。その結果、ディスプレイサイズの増大に伴い、花当たりの訪花数は増大するが、訪花数の増大は花粉の散布にしか貢献していないことがわかった。このようなときは、ディスプレイサイズの大きい時期に咲く花ほど、(雄適応度への貢献) / (雌適応度への貢献) が大きいことが期待される。実際にそのような花ほど雄比(雄蕊重/雌蕊重やP/O比等)が大きいことも確認でき、仮説の妥当性が示された。

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雌雄異株植物ヒメスイバにおける花序の空間分布と性的2型

藤高照也・原田祐子・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

 植物における繁殖は、花粉によるオス的繁殖と、種子によるメス的繁殖の二つの要素からなり、前者はどれだけの胚珠を受精させるかに依存し、後者はどれだけの資源を種子に与えることができるかに依存する。雌雄異株植物では、このような制約要因の違いが、個体間の競争を通じて雌雄間に形態の差異(性的2型)をもたらすことが知られている。
 しかし、性的二型は個体間の競争だけでなく、個体内の花間の相互作用からも生じ得るだろう。オスでは兄弟花粉間の競合を回避するために花同士を離し、メスでは資源分配の効率化のために花同士を近接させるかも知れない。そこで本研究では、風媒性の雌雄異株クローン植物ヒメスイバを用いて、有花ラメットの空間分布と地下茎からの分枝様式を雌雄で比較し、花の配置における性的2型を考察した。
 有花ラメットは、雌雄ともに集中分布をしていたが、オスは、より強い集中性を示した。また、オスはメスに比べて、地下茎の同一箇所から複数の有花ラメットがまとまって叢生する傾向があった。有花ラメットのまとまりが無花ラメットを伴う場合、オスでは、その無花ラメットの数と有花ラメットの数に正の相関があった。メスの地下茎では、両端に有花ラメットを持つ節間が、オスに比べて多かった。しかし、有花ラメットのまとまり間の距離や節間の長さには、雌雄での違いはなかった。
 これらのことから、ヒメスイバにおいては、オスにおける兄弟花粉の競合は、性的2型には影響しないことが考えられた。繁殖に要する資源は、オス個体では近傍の無花ラメットから直接的に供給されることが推測された。いっぽうメス個体では、地下茎の貯蔵資源が有花ラメットへ再分配され、そのための効率的な資源分配のために、メスの有花ラメット同士は、オスのそれらよりも隣接した配置をしていると推測された。従って、ヒメスイバの性的2型は、繁殖の資源の供給源と、メス個体における花間の相互作用によってもたらされていると考察された。

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マルハナバチの採餌パターンの個体差と、植物の送受粉に与える影響〜個体識別した観察から〜

牧野崇司・大橋一晴・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

 植物集団を訪れるマルハナバチは、その採餌を個体ごとに比較的狭い範囲に限定していると言われている。しかし、このような議論は、ごく少数のハチ個体の追跡データに基づくものが大半である。したがって、このような採餌パターンがどれだけ一般的であるかということについては何もわかっていない。また、こうした採餌パターンの結果、1つの植物個体にはどれだけのハチ個体が訪れるのか(少数のハチ個体が何度も訪れるのか、多くのハチ個体が少しずつ訪れるのか)ということについてもほとんどわかっていない。これらの問題は、植物個体がどれだけの送粉相手を獲得できるかを考える上で重要である。
 そこで、アザミ類の集団で採餌するほぼ全てのマルハナバチに個体標識を施し、つぎの2つの調査を行った: 1)ハチ個体を追跡し、どの植物個体をどれだけ訪れているかを調べた; 2)植物個体を観察し、訪れるハチ個体の内訳を調べた。その結果、追跡調査では、採餌範囲を狭く限定し少数の株を何度も繰り返し訪れるハチ個体から、広い範囲で数多くの株を訪れるハチ個体まで、採餌パターンに著しい個体差がみられた。また、1つの植物個体には、何度も繰り返し訪れるハチ個体もいるが、観察時間内に一度きりしか訪れないハチ個体も多く含まれることが明らかになった。この採餌パターンの個体差や、一度きりしか訪れないハチが多いという訪問頻度のパターンはどのように生じるのか、またこれらが植物の送受粉にどのような影響を与えうるかということについて考察する。

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両性花における花あたりの花粉・胚珠の生産パターン:個体サイズか開花順か

板垣智之(東北大・院・理・生物)・石井博・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

 花序を作り複数の花を咲かせる植物において、個体内の一つ一つの花ごとの花粉・胚珠数に違いがあるということが幾つかの植物で報告されている。花序内において、ある花は花粉を多く持ち雄的な花であり、別の花は胚珠を多く作り雌的な花であるというように機能分化が起きているなら、植物の性比や個体の繁殖成功を考える上で非常に重要である。しかし、こうした花間での機能分化がどの程度一般的なのかということはあまりよくわかっていない。今回、東北大学周辺に生育している8種の両性花を対象に、花序内での花粉・胚珠の生産パターンを調べた。

 その結果8種中6種で、花粉数・胚珠数に花間で違いがある傾向が観察された。特に、ミヤマナルコユリやオクトリカブトなど5種において、花粉数に花間で差はなかったが、開花の早い花の方が胚珠を多く作る傾向が観察された。これら5種中4種では基部に近い方から開花するので、開花の順番と花序内の位置との効果を区別することは出来ないが、オクトリカブトでは、花序内の位置と開花の順番が一致しない。これにより、花序内の位置というよりも開花の順番の早い花が多くの胚珠を作っているということがわかった。

 種子を作るときには多くのコストがかかる。一方で、植物がもつ資源は維持呼吸により目減りする。結実開始の早い花がより多くの種子を作るなら、資源が減少する前に個体は有効に資源を消費できるだろう。このため、開花の早い花の方が胚珠を多く作るのではないか。今後はこの仮説を中心に、花間での機能分化が起きる生態学的要因を明らかにしたい。

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