日本生態学会第48回大会;発表要旨


窒素利用に着目した葉群動態モデル−群落光合成・葉寿命・窒素利用効率の統合の試み−
彦坂幸毅(東北大・院・理・生物)

モンゴル草原の植物群集構造におよぼす気候と遊牧の影響
U.G. Nachinshonhor(東北大・院・理・生物)、S. Tserendash(モンゴル畜産科学研究所)、L. Jargalsaikhan3),Sh. Tsooj(モンゴル科学アカデミ植物研究所)、Ts. Tsendeekhuu(モンゴル国立大学)、Ch.Dugarjav(モンゴル科学アカデミ植物研究所), 広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

高CO2下におけるオオオナモミの繁殖収量決定要因の解析
衣笠利彦・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

葉の光合成光順化に解剖学的性質の変化は必要か?
小口理一・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

長期間高CO2で生育する植物の光合成能力が低下する要因について−異なる株齢、栄養条件で比較する−
小野田雄介・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

ブナ林を構成する上層種・下層種の窒素利用効率
安村有子・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)

卵や種子を順次に生産するときの大きさと数のトレードオフ
酒井 聡樹(東北大・院・理・生物)・原田 泰志(三重大・生物資源)

大きな個体ほど雄的になるのはなぜか?−高さ(散布効率)とサイズ(資源量)の効果の理論的解析−
酒井暁子・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

花の形態がポリネーターの訪花行動におよぼす影響−キバナアキギリを用いた野外実験
大橋一晴(東北大・院・理・生物)

短すぎる花の寿命は何故?−ヒメシャガの場合−
石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

雌雄異株ヒメスイバにおける物質輸送の性差:13C を用いた検証
藤高照也(東北大・院・理・生物)・大川茂範(東北大・院・農・植物栄養生理)・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

ヒメシャガにおける個体サイズに依存した自殖戦術
木村崇史・石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)

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窒素利用に着目した葉群動態モデル−群落光合成・葉寿命・窒素利用効率の統合の試み−

彦坂幸毅(東北大・院・理・生物)
 群落(葉群)光合成モデルは、植物の生産構造がいかに物理化学的に規定されているかの理解だけでなく、「最適な葉群」を予測することにより、その構造の進化生態学的意義についての情報をもたらすことができる。これまでに、最適葉面積指数、最適葉間窒素分配、最近では進化的に安定な戦略についても予測できるモデルが提示されてきた。しかし、これらのモデルでは、葉群をある時間断面で見ているにすぎない。実際の葉群は、葉の生産/枯死という回転が起こっている動的なシステムである。また、このような回転は窒素についても起こっている。窒素は根から吸収されて新しい葉を作るのに使われる。古い葉が枯死するときには、一部が回収されて新しい器官の生産に再利用され、残りはリターとともに植物から放出される。
 本研究では これまでの群落光合成モデルを改良し、葉群における葉と窒素の回転を記述するモデルを構築した。モデルの基本構造は以下の通りである。
ある葉面積と窒素をもった葉群     ↓  光合成による  新しい葉の生産   窒素の吸収     ↓        ↓   葉面積と窒素量が増加した葉群          ↓     窒素分配と葉面積の最適化     ↓        ↓  最適な葉面積と窒  リター放出による  素量をもった葉群  葉と窒素の放出  (ふりだしに戻る)
 このモデルでは個葉光合成の環境応答が導入されているため、葉群構造やその光合成速度が環境によってどのように変化するのかを予測することができる。また、種間で異なることが知られている性質(例えば、葉重/葉面積比)が葉群構造などにどのような影響を与えるかを予測することができる。さらに、葉の回転速度の逆数は葉の寿命であるため、葉の寿命についても予測ができる。そして、吸収窒素量あたりの成長量として定義される窒素利用効率についても情報を得ることができる。本講演では群落光合成・葉寿命・窒素利用効率が個体の諸性質とどのような関係にあるのかを考察する。
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モンゴル草原の植物群集構造におよぼす気候と遊牧の影響

U.G. Nachinshonhor1), S. Tserendash2), L. Jargalsaikhan3), Sh. Tsooj3), Ts. Tsendeekhuu4), Ch.Dugarjav3), 広瀬忠樹1)(1)東北大学・院・理・生物; 2)モンゴル畜産科学研究所; 3)モンゴル科学アカデミ植物研究所; 4) モンゴル国立大学)
モンゴル国は平均年降水量は300 mm、年平均気温は0℃に近く、国土全面積の79%の植生は草原である。モンゴル草原の北限は南シベリアタイガに接し、南端はゴビ砂漠に面している。伝統的な遊牧生産活動は、モンゴルの植生に大きな影響を与えている。われわれは、異なる気候条件、人間活動(遊牧)の大きさがモンゴル草原の植生に与える影響を植物群集構造の変化から解明することが目的として研究を行っている。調査地を、気候条件が異なる湿潤草原、典型草原、乾燥草原のそれぞれに1カ所ずつ選んだ。家畜の影響を排除するため、1999年6月に面積が100×100 mの柵を設け、柵内外にそれぞれ1×1 mの永久調査区を10カ所ずつに設置した。1999年と2000年の夏に植生調査及び層別刈り取りを行った。1999年に各調査地の出現種数は:Partizanで45種、Tumentsogtで46種、Bayan-Unjuulで18種であった。柵設置後40日の調査のため,各調査地における柵内外の地上部現存量と葉面積指数に目立った変化はなかった。2 m2までの種数ム面積曲線で、出現種数は典型草原のTumentsogt及び乾燥草原のBayan-Unjuulでは飽和状態に達したが、湿潤草原の Partizanではさらに増える傾向が見られた。2000年の各調査地の出現種数は前年とほとんど変わらなかったが、各調査地の地上部現存量及び葉面積指数は、柵外より柵内の方の値が高かった。その原因としては、家畜の採食の排除、およびリター集積による被覆による土壌水分の蒸発の低下などが考えられる。これまでの調査では、降水量の減少に従って種組成が変化し、イネ科の割合が増加した。同時に多様性指数の値は減少する傾向が見られた。同じ調査地でも、降水量の年次変化によって種の多様性の変動が見られた。
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高CO2下におけるオオオナモミの繁殖収量決定要因の解析

衣笠利彦・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 高CO2下での植物の成長についてはこれまで多くの研究が行われてきた。一般に高CO2下では光合成速度が増加するため、栄養成長は多くの場合促進される。一方繁殖収量の高CO2応答は栄養成長のそれに比べかなり多様で、収量の増加がみられないこともしばしばある。これまでの研究では繁殖収量を決定するメカニズムへの高CO2の影響を解析したものは少なく、どのような要因が繁殖収量の高CO2応答に作用しているかはわかっていない。
 一年草の繁殖収量は、1.繁殖期間の長さ、2.繁殖期間中の成長速度、3.繁殖期間中に獲得した光合成産物の繁殖器官への分配率、の三つの要因の積として表すことができる。われわれは一年草のオオオナモミ (Xanthium canadense)を用い、これらの要因が高CO2によってどのように変化するのかを調べた。さらにこれまで栄養条件に依存して高CO2応答が変化することが示唆されているため、二種類の栄養条件を設定した。CO2濃度は2種類(360、700ppm)とし、生育はオープントップチャンバーで行った。
 貧栄養条件では、繁殖収量にも繁殖収量を決定する3つの要因にもCO2上昇の影響はみられず、CO2上昇は全く植物の成長に影響を及ぼしていなかった。富栄養条件では繁殖収量は高CO2によって増加した。繁殖期間の長さにはCO2上昇の影響はなかったが、成長速度の促進がみられた。しかし繁殖器官への獲得光合成産物分配率は若干減少していた。そのため富栄養条件における高CO2による繁殖収量の増加は、個体成長促進から予想されるよりは小さかった。この結果から、高CO2では光合成産物の転流率が制限され、光合成が増加してもその結果が必ずしも繁殖収量の増加に結びつかないことが示唆された。
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葉の光合成光順化に解剖学的性質の変化は必要か?

小口理一・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 植物の葉は光環境の変化に対し様々な性質を変化させる(光順化)。明るい環境で 展開した葉ほど光合成能力・窒素含量・葉の厚さが大きいことが知られている。
 陽葉で葉が厚い理由については葉面積あたりの光合成器官を増やす必要があるためと考えられている。Evansは二酸化炭素の拡散が気層中よりも液層中で一万分の一と 低いことから細胞間隙から葉緑体までの拡散のコンダクタンスが葉緑体が細胞間隙に接する面積によって決まることを提唱している。実際、葉緑体は細胞表面に張り付くように存在する。また、葉緑体内でのルビスコ濃度は飽和状態にあると考えられている。この状況で葉が光合成能力を高めようとするには、葉緑体を増やすために葉を厚くし細胞表面積を増やす必要がある。
 葉の厚さは展葉前の光環境に依存し、展開終了後は大きく変化することはない。しかし、展開終了後の葉の光環境を変えると光合成能力が上昇することが知られている。この光合成能力の増加を可能にしているメカニズムは何であろうか?
 これを調べるため、弱光条件で生育したシロザの強光条件への移植実験を行った。移植から4日後に順化が完了した葉を採集した。移植によって光合成速度は11μ molm-2s-1から17μmolm-2s-1へと上昇した。しかし、展開以前から強光条件で生育した葉の27μmolm-2s-1にせまるものではなかった。葉面積あたりの葉緑体数、葉緑体 の幅、葉緑体の厚さ、葉緑体中のルビスコ濃度、ルビスコ活性に分けてこの順化を評価したところ、葉緑体の幅のみが有意な変化を示した。つまり細胞が細胞間隙に接す る部分を葉緑体が完全に占有してはいなかったため(78%)、強光へ移したあとにそ の部分を葉緑体が占有することで光合成速度の上昇が起きた。しかし、順化後は細胞 が細胞間隙に接する面積の約95%が埋まっており葉緑体をさらに増やすことが出来なくなったために、それ以上の光合成速度の上昇は起きなかったと考えられる。よって、葉の解剖学的性質が順化を制限する可能性が示された。また、順化の可塑性を残すために葉緑体が占有しない部分をあらかじめ残しているとも考えられるだろう。
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長期間高CO2で生育する植物の光合成能力が低下する要因について−異なる株齢、栄養条件で比較する−

小野田雄介・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 これまで大気CO2濃度上昇に対する、葉の光合成能力の応答についての研究は非常に多い。しかしその結果は様々である。栄養条件、温度、株齢(個体老化)や材料とした種間差の違いなどが、高CO2応答の変化をもたらすと示唆されてきた。
 今回私たちは、高CO2における光合成能力の変化がどのような環境要因によってもたらされているかを知るために、栄養条件と株齢の違いに注目して研究した。実験材料にはイタドリを用いて、オープントップチャンバーを使用して2種類のCO2濃度(36, 70Pa)で生育させた。野外で生育する植物では株齢の増加とともに、温度や光環境などの季節要因も変化してしまうが、私たちは純粋に株齢の違いのみによる影響を知るために、播種時期を変え、同時に異なる株齢の光合成測定を行った。
 光合成能力の指標であるVcmax(VcmaxはRuBPとCO2が飽和している時の光合成速度)は、高CO2、貧栄養、株齢の増加によって、それぞれ独立に低下していた。しかし栄養条件が悪いときだけ高CO2のVcmaxが低下するというような、高CO2と環境条件との相乗的な光合成能力の変化は見られなかった。
 光合成能力の低下の原因を知るために、N(窒素)量を測定し、Vcmaxとの関係を調べた。光合成のN利用効率(Nあたりの光合成能力)は、栄養条件の違いによらず一定であるが、高CO2や株齢が増加するとN利用効率は低下した。つまり貧栄養においては、N利用効率は一定のままN含量の低下によって光合成能力が低下しているのに対し、高CO2や株齢増加ではN含量の低下とN利用効率の低下の両方が影響していることがわかった。さらに高CO2によるN利用効率の低下は、株齢が進むとはっきりすることが分かった。つまり高CO2と株齢増加による相乗的な効果で、N利用効率が低下したと考えられる。これらのN利用効率の低下は、NをRubiscoに投資する割合の低下で全て説明できた。
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ブナ林を構成する上層種・下層種の窒素利用効率

安村有子・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 窒素は植物にとって欠くことの出来ない重要な資源であるため、植物は獲得した窒素をなるべく効率よく用いるように工夫しているかもしれない。植物の窒素利用はしばしば「窒素利用効率(NUE)」によって表現される。成長量/吸収窒素量と定義されるこのパラメーターは、植物が持っている窒素が単位量あたりどれだけ成長に寄与したかを相対的に表す。NUEを高めるには2通りの戦略があると考えられている。すなわち、単位窒素あたりの生産速度(NP)を高める方法と、植物が窒素を保持する時間(MRT)を長くする方法である。これまでのNUEに関する研究は、異なる栄養環境に生育する植物を比較したものが主流であり、同一群落内で共存する種には目が向けられていなかった。共存種がつくる階層構造は群落内に光強度の勾配を生み出す。光条件の違いは群落を構成する種の窒素利用にどのように影響しているのだろうか?
 本研究では、八甲田山のブナ林で共存する上層種(ブナ)と下層種(オオバクロモジ、タムシバ)の葉レベルのNUE、NP、MRTを測定しそれぞれの窒素利用の様子について調べた。上層種と下層種の光環境にはおよそ20倍の差があった。調査の結果、NPは上層種の方が高く、MRTは下層種の方が高かった。対照的なNPとMRTのパターンが互いに打ち消しあったため、NUEにそれほど大きな差は見られなかった。NPの差は種間の光合成能力の違いではなく光条件の違いそのものによって引き起こされていた。また、MRTの差は、上層種の葉が風によって落とされやすく、葉から貯蔵器官へ窒素を回収する老化過程を経ないまま離脱していく生葉の量が多いことによるようだった。一方、成熟葉と完全に老化した枯死葉の窒素含量から算出した潜在的な窒素回収効率は各種で同程度であり、窒素回収能力はMRTのパターン形成にはあまり関与していなかった。
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卵や種子を順次に生産するときの大きさと数のトレードオフ

酒井聡樹(東北大・院・理・生物)・原田康志(三重大・生物資源)
 卵や種子生産における大きさと数のトレードオフに関する理論的解析の多くは、卵や種子を一斉に生産することを仮定している。しかし、たとえばトンボのように、卵 を少しずつ産んでいく動物も多い。また、花序を着ける植物で、開花時期にずれがある場合も、種子は順次に生産されることになる。本研究では、卵や種子を順次に生産 するとき、大きさと数のトレードオフはどのようなものになるのかを解析した。また、卵(種子)の定着総数が最大となる最適な卵(種子)の大きさも解析した。
【仮定】親は、一定の貯蔵資源を使ってN個のコホートを生産する。貯蔵資源は、維持呼吸のため時間とともに目減りする。i番目のコホートはn(i)個の卵からなる。そして、時間ts(i)に発生を開始し、時間tc(i)に発生を完了する(発生時間tc(i) - ts(i)が長いほど卵は大きい)。卵の定着率は、卵の大きさのS字型の増加関数である。各コホートの卵数n(i)と発生開始時間tc(i)は制約として決まっており、各コホートの発生完了時間tc(i)とコホート数Nは戦略として変化するとする。
【予測】トレードオフ:卵一つあたりの生産コストは、後期のコホートの卵ほど大きい。つまり、同じ大きさの卵を作るためには、後期のコホートの卵ほど費用がかかる。これは、後期のコホートのために資源をとっておくと、維持呼吸による資源の目減りの度合いが大きくなるからである。
最適な卵の大きさ:最適な卵の大きさは、後期のコホートのものほど小さくなる。そして、単位体積あたりの維持呼吸速度が大きいほど、最適な卵の大きさは後期のコホートでより小さくなる。
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大きな個体ほど雄的になるのはなぜか?−高さ(散布効率)とサイズ(資源量)の効果の理論的解析−

酒井暁子・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
 高木性樹木やイネ科草本などで普通な雌雄同株-風媒花-風散布種子植物では、個体サイズが大きくなるほど♀機能に対する♂機能への資源投資比が増加する場合が多くみられる。その理由として、1.散布面積拡大の効果:サイズとともに植物高も高くなる。種子にくらべて花粉は小さいので、サイズが大きくなると風の影響を強く受け、散布面積はより広くなるだろう。そこで(植物高の高い)大個体では花粉を多く生産したほうが適応度が高くなる。2.資源量増加の効果:サイズとともに繁殖への資源投資量も増加する。花粉は風によって広く散布されるので♂適応度は花粉生産量とともに直線的に増加するが、種子の散布面積は限られているので♀適応度は種子生産量がある程度増加すると頭打ちになる。そこで(資源量の大きな)大個体では花粉をより多く生産したほうが適応度が高くなる、の2つの要因が考えられている。
 しかし、これまでの理論的検討は不十分なため、それらの効果はほんとうに性投資比に影響しうるのか、またどちらの効果がより重要なのかは不明である。
 演者らは、繁殖総量や花粉・種子の散布面積が異なる2タイプの個体が混在する植物集団を仮定し、それれのタイプの、性投資比に関する進化的安定戦略(ESS)を予測する理論モデルを開発した。これを用いて、1.と2.の効果が単独あるいは複合的に働いたとき、性投資比のESSは個体サイズに依存してどのように変化するかを解析した。
 その結果、2.の資源量増加の効果は大個体の性投資比を極端に♂に偏らせ、1.の散布面積拡大の効果が逆に作用して、その極端な♂バイアス傾向を緩和している可能性の高いことが明らかとなった。
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花の形態がポリネーターの訪花行動におよぼす影響−キバナアキギリを用いた野外実験

大橋一晴(東北大・院・理)
 一般に、ある植物個体を訪れたポリネーターはたくさんの花があっても少数の花しか訪れずに株を去る。このような訪花行動は隣花受粉を少なくするので、植物にとって都合が良い。そのため、植物が何らかの形でポリネーターの行動を「操作」し、株内訪花数を小さく抑えている可能性が示唆されてきた。しかし、具体的にどのような「操作」が可能かはわかっていない。
 演者は最適採餌モデルにもとづき、ポリネーターは同じ株に長くとどまるにつれて増大する「再訪花の危険」が、別の株への「移動のコスト」よりも深刻になったときに株を去る、と予測した(Ohashi and Yahara 1999)。これによれば、花あたりの採蜜コスト(時間)が大きければ、ポリネーターが同じ株上にとどまることの利益は減少し、より早めに株から立ち去るようになると予測される。多くの虫媒花では、細長い花筒や距、あるいはもっと複雑な構造の奥にポリネーターへの報酬を隠しているものがしばしばみられる。このような形態は、訪れたポリネーターの採餌コストを増大させ、ポリネーターに株を早く去らせているかもしれない。このことをたしかめるには、人為的に花あたりの採餌コストを変えてやる必要がある。そこで本研究では、キバナアキギリの雄蕊を切除して採餌コストを低くし、訪れるトラマルハナバチの行動および花粉の持ち越し量を測定した。また、報酬としての花蜜の分泌速度も測定した。これらの実験結果にもとづき、「花あたりの採蜜時間を長くする形態を持つことには、隣花受粉を小さく抑える適応的意義がある」という仮説の検証を試みる。
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短すぎる花の寿命は何故?−ヒメシャガの場合−

石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
 複数の花を持つ植物では、花の寿命は同時開花花数(ディスプレイサイズ)に強く影響する。例えば、花の寿命が長いときは個花の花期の重なりが増え、同時開花花数は大きくなる。この同時開花花数は、訪花昆虫の行動、しいては植物の適応度に強く影響する。このため(今まで着目されてこなかったが)花の寿命は、同時開花花数の影響を考慮したうえで理解すべき形質と言える。
 この考えのもと、以前私たちはキンコウカを用いて、花の寿命の研究を行った(99年学会)。その結果、個花の寿命は個花の送受粉に必要な期間よりもずっと長かった。これは一見、花の維持コストの無駄である。しかし、長い寿命は同時開花花数を大きくすることで、その後に咲く花の放出花粉量を増大させていた。この結果から、花の寿命が同時開花花数との関わりの中で進化していることが示唆された。
 一方、同時開花花数の増大は、上述のように、必ずしも植物にとって有益に働くわけではない。むしろ花当たりの利益を減らしてしまうことも多い。これは、同時開花花数の増大とともに、隣花受粉(自家受粉やpollen discountingを引き起こす)が増大するためである。このため、花の寿命の進化を包括的に理解するためには、同時開花花数の影響が異なる植物の研究もする必要がある。
 本研究では、多年生草本のヒメシャガにおいて、花の寿命が、同時開花花数や訪花昆虫の行動との関わりの中で、どのように進化してきているのかを調査した。その結果キンコウカとは対照的に、花の寿命はAshman and Schoen(1994)のモデルによって予測される寿命よりずっと短かった。これは、同時開花花数の増大とともに隣花受粉が増大してしまうこの植物の状況に、うまく対応していた。また、短い寿命は、同シュート内の花(花間の距離が近い)が同時に咲くことを防ぐことでも、隣花受粉を減らすことに役立っていた。これらの結果から、同時開花花数の影響に応じて、花の寿命が長くも短くも進化しうることが示唆された。
 本発表ではさらに、同時開花花数を減らすために、「花の寿命を短くしないまま個々の花の開花期間をずらす」という戦略が、何故進化してこなかったのかについても議論する。
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雌雄異株ヒメスイバにおける物質輸送の性差:13C を用いた検証

藤高照也(東北大・院・理・生物)・大川茂範(東北大・院・農・植物栄養生理)・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
 しばしば雌雄異株植物には、性による形質の違い(性的2型・性差)が見られる。我々は、先行研究において、雌雄異株性のクローン植物ヒメスイバには、ラメットの配置やラメット間の地下茎長に性による違いが見られることを示した。すなわち、オスは、メスに比べて有花ラメットの周囲に無花ラメットを叢生させる傾向にあった。またラメット群(地下茎の同じ基点から分岐したラメットのまとまり)同士の地下茎長は、オスの方がメスに比べて長かった(オス約25cm・メス約14cm)。このような雌雄での違いを物質輸送の観点から明らかにするために、我々は、13C によってラベルされたCO2添加実験を行って、同化産物の輸送の様態を調べた。
 野外において、自生するヒメスイバ60個体(雌雄各30)を選び、単独で生えている無花ラメットに13CO2を与え、その後、地下茎ごと個体を採取した。地下茎は、添加実験した無花ラメットからの距離に応じて切り分け(5cm間隔)、それらの乾重を計測した。地上部は、繁殖器官と栄養器官とに分け、それぞれの乾重を計測した。また、地下茎と繁殖器官については、含まれる炭素中の13C 比からその含有量を推定した。地下茎中の13C 量は、雌雄とも添加した無花ラメットから離れるにつれて急速に減少し、20cmを越えると、ほとんど検出されなかった。添加した無花ラメット以外の無花ラメットを切除しておいた場合でも、輸送距離については同様の結果が得られた。このことから、物質輸送の距離が限られていることが示唆された。いっぽう繁殖器官における13C 量は、メスの方がオスよりも多かった。
 これらのことから、繁殖に要する資源は、メスでは有花ラメット自体の同化産物のみならず、離れた場所に位置する無花ラメットからも供給されている事が示された。オスでは、離れた場所の無花ラメットには依存せず、有花ラメットとその隣接の無花ラメットから供給されることが示唆された。また我々は、このような物質輸送の性差が、雌雄でのラメット群同士の地下茎長の違いをもたらしているものと推測する。
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ヒメシャガにおける個体サイズに依存した自殖戦術

木村崇史・石井博・酒井聡樹(東北大・院・理・生物)
 両性花をつける植物は自家花粉で種子をつくる自殖が可能である。自殖は、植物個体の適応度や集団の遺伝的構造に影響を与える。このため、植物集団の遺伝的構造の動態を知る上で、集団中の各個体毎の自殖に対する応答を知ることは重要である。
 そこで本研究では、アヤメ科の多年生草本のヒメシャガに強制的に自家受粉・他家受粉を施し、自殖・他殖に対する各個体毎の応答を調べた。その結果、他家受粉を施した個体では、個体サイズ(シュート数または葉の数)と稔実率(種子数/胚珠数)に相関はなかったのに対し、自家受粉を施した個体では、大きい個体ほど稔実率が高いという傾向があった。また同じ花茎内で、先に咲く花と後に咲く花で受粉処理を変える実験も行った。その結果、自家受粉(または他家受粉)を先に咲く花と後に咲く花の両方に施した個体は、個体サイズによらず先に咲く花の稔実率が高かった。他家受粉を先に咲く花、自家受粉を後に咲く花に施した個体も、個サイズによらず先に咲く花の稔実率が高かった。しかし、自家受粉を先に咲く花に、他家受粉を後に咲く花に施した場合、大きい個体では先に咲く花の稔実率が高かったのに対して、小さい個体では、先に咲く花と後に咲く花の稔実率は同程度であった。つまり大きい個体はどちらの花粉でも実らせていたが、小さい個体は他家花粉を優先させて実らせていた。
 ヒメシャガは、花数(個体サイズと強い正の相関)の増加とともに隣花受粉が増加し、自家受粉の割合が高まる(石井and酒井2001学会ポスター)。そのため、小さい個体は他家花粉を受け取りやすいと期待できるので自家花粉は実らせない。大きい個体は自家受粉の割合が高まってしまうため、他家花粉をあまり期待せずに自家花粉でも実らせてしまうのかもしれない。サイズによって自家受粉をしたときの実りやすさが異なるのは、花粉獲得の状況に対応した戦略かもしれない。
 この結果は、集団中の各個体が同じ繁殖戦略をとっているのではなく、個体毎に自殖の戦略が異なっている事を示している。今後は、各個体の追跡調査によって、稔実率が遺伝的に決まっているのかどうか等を調べていきたい。
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[研究紹介]//[ホームページ]