日本生態学会第49回大会;発表要旨


コナラ・アベマキにおける奪葉後の窒素経済

彦坂幸毅・高島輝之・壁谷大介・広瀬忠樹(東北大・院・生命科学)・鎌田直人(金沢大・院・自然科学)

 植食者は植物の成長や分布に大きな影響を及ぼしていると考えられる。植物は被食を回避するために様々な防御機構を持つ。化学的な防御としては、タンニンなどの二次代謝物質の蓄積、窒素濃度を低下させることによって葉の価値を下げることなどがよく見られる。二次代謝物質の蓄積量や窒素濃度は種間だけではなく、種内でも大きく変化する。強い被食の後に残された葉、あるいは新たに出現した葉で、二次代謝物質の蓄積や葉の窒素濃度の低下が見られる。このような被食応答は誘導防御と呼ばれ、さらなる被食を回避するための応答と考えられている。

 誘導防御を引き起こす仮説はいくつか知られているが、その中の有力な仮説として炭素−栄養塩バランス(CNB)仮説がある。葉は他器官よりも高い窒素濃度を持つため、個体レベルで見ると、葉を失うことは窒素不足・炭素過剰状態をもたらす。植物はこの状態への応答として窒素濃度を下げたり、炭素化合物であるタンニン量を増やしたりすると考えられている。窒素施肥や被陰など、人為的にC/Nバランスを変化させる研究では、葉窒素濃度やタンニン含量にCNB仮説が予測するような変化が報告されている(例外もあるが)。

 植物生理生態学では、C/Nバランスについてより詳細な研究が行われている。例えば窒素栄養条件が変化すると地上部/地下部比など様々な形質に変化が起こる。最適化モデルを用いた理論研究などにより、これらの応答の適応的意義も示されている。我々は生理生態の手法を被食防御応答の解析に応用することにし、コナラとアベマキの当年生実生を異なる栄養条件で(0, 0.1, 1 g N/wk)で育成し、奪葉処理(100%奪葉)を行った。当年生実生を用いたのは、個体レベルでの解析を意図したためである。これまでの研究では、比較的大きな個体を用いているため、地上部/地下部比などの解析があまり行われていない。

 奪葉処理後の個体は、予想に反し、高い窒素濃度を持った。葉の窒素濃度は奪葉前を上回り、個体窒素濃度ですら非奪葉個体の値を上回った。驚くことに、この結果は無施肥個体でも見られた。これらの結果は、奪葉によって窒素を失う以上に、葉がない期間中の呼吸による炭素損失が大きかったことを示唆する。さらに、個体窒素濃度=を個体C/Nバランスの指標とし、地上部/地下部比などのアロメトリーを比較した。奪葉個体の挙動はC/Nバランスの変化だけでは説明できず、別の観点が必要であることが示唆された。

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気候と遊牧がモンゴル草原の植物群落に及ぼす影響

U.G. Nachinshonhor1)、 S. Tserendash2)、 L.Jargalsaikhan3)、 Sh. Tsooj3)、 Ts. Tsendeekhuu4)、 Ch.Dugarjav3)、広瀬忠樹1)(1)東北大学・院・生命科学; 2)モンゴル畜産科学研究所;3)モンゴル科学アカデミ植物研究所; 4) モンゴル国立大学)

 モンゴルはユーラシア大陸の東部、アジアの内陸に位置する.北部はシベリアタイガ、南部はゴビ砂漠に接し、東西はそれぞれヒャンガーン山脈(Hiangan Davaa)とアルタイ山脈(Altai Uul)に囲まれている.平均海抜高はおよそ1580 m.年平均気温は0 0Cに近い、平均年間降水量は北から南にかけて減少している、北部の山地では400 mmを超えるが、南西部のゴビ砂漠では場所によって0 mmまでに落ちることもある.植物の年間平均成長期がおよそ4ヶ月しかない.このような乾燥と寒冷な大陸性気候条件の下、モンゴルでは植生の80%近くは草本植物が優占する草原である.この地域では、遊牧生産活動がおよそ2000年以上前から営まれて来たと言われている.モンゴル高原の遊牧とは、時間的、空間的に一定のルートをもった移動式牧畜生産活動で、自然資源を有効且つ持続的に利用出来る生産方式である.

 この研究は、モンゴル草原における植物群落に及ぼす気候と遊牧活動の影響を明らかにすることを目的にした.モンゴルと似た自然条件を持つ中国の内モンゴルでは、人口が大幅に増加し、国は定住政策を進めてきた.その結果、家畜を移動させずに放牧し、つい最近まで持続的に利用して来た草原の退化と砂漠化が起こされている.同じタイプの草原をもち、且つ畜産業を国の主な産業とするモンゴル国において、この研究の意義は大きい.

 我々はモンゴル草原において、異なる気候条件を持つ植物の群落を調査すると同時、異なる草原で遊牧生産活動をしている遊牧民に聞き取り調査を行った.その結果、モンゴル草原では北から南にかける湿度の減少に伴って、草原群落の高さを始め、地上部乾燥重量、群落における種の豊富性と多様性等群落の生産性を示す指標の値が減少する傾向がある.都会に近い草原では、遊牧の形態が市場経済による影響が大きい.都会から離れた草原では、遊牧のための移動距離が家畜の頭数と正の相関を示した.生産の低い草原では、群落における採食圧の影響がより顕著である.このような情況が継続すれば、草原の植生に大きなダメージを与え、その退化を起こす可能性がある.

 草原の利用はモンゴル国の持続的発展戦略に密接な関連がある.本研究は異なる気候条件と遊牧がモンゴル草原に及ぼす影響を調べ、草原の持続可能な利用について議論をする.

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一年草の一生におけるエネルギー消費 −呼吸消費も考慮に入れた物質分配−

衣笠利彦・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・生命科学)

 植物個体における物質分配の評価には、多くの場合純生産量(現存量)が用いられる。しかしこの方法は、必ずしも植物の物質分配を正しく評価しているわけではない。なぜなら純生産による解析には、器官の維持や合成にかかる呼吸消費が考慮されていないからである。これまでにも呼吸消費を考慮した総生産による物質分配の解析が行われていたが、その多くは栄養成長における解析にとどまり、繁殖成長への総生産の分配を解析したものは少ない。繁殖収量は個体の適応度に直結する重要なパラメータであるため、繁殖器官への物質分配と呼吸消費を明らかにすることは植物の最適繁殖戦略の解析に大きく貢献すると考えられる。そこで我々は、個体の発芽から枯死にいたるまでの総生産の分配を推定し、繁殖器官への総生産の分配と他器官からの資源回収を明らかにすることにした。

 本研究ではまず一年生草本オオオナモミを野外環境で生育し、生育期間中に10回の刈り取りを行い器官毎の純生産量の変化を明らかにした。刈り取りと同時に各器官の呼吸速度とその温度依存性を測定し、温度気象データと併せて生育期間中の呼吸消費量を算出した。さらに呼吸消費量を純生産量に積み上げることにより、総生産量を器官毎に推定した。

 枯死時の繁殖器官への純生産の分配率は約40%であった。呼吸速度はどの器官も時間の経過とともに減少し、やがて一定になった。繁殖器官は特に呼吸低下が大きく、枯死時にはほとんど呼吸していなかった。その結果総生産の分配量に対する呼吸消費量の割合は、葉、茎、根では70%前後であるのに対し、繁殖器官では40%に過ぎなかった。そのため枯死時の繁殖器官への総生産の分配率は、純生産による見積もりより3割以上小さい30%弱であった。これは繁殖への物質分配の評価において、呼吸消費の考慮が重要であることを示している。

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高CO2における葉重/葉面積比の増加は成長増加につながるか?

石崎伸二郎・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・生命科学)

 植物の葉重/葉面積比(LMA)は高CO2条件下では増加することが知られている。これまで、このLMA増加は単に過剰に生産された光合成産物の蓄積によるもので、成長にとって有益なものであるとは考えられてこなかった。しかし、LMA増加は葉面積あたりの窒素含量(Narea)の増加を通じて、葉面積あたりの成長速度(NAR)を増加させるという利益をもたらす可能性がある。本研究は、高CO2におけるLMA増加の成長における意義を、定常成長モデルを用いた感度分析によって解析した。NareaとNARの関係を関数化するため、多年生草本のイタドリを2つのCO2条件(低CO2:370ppmと高CO2:700ppm)および3つの栄養(N)条件の組み合わせで生育した。LMAは高CO2により有意に増加した。一方、個体重に対する葉重量率はCO2による影響をあまり受けなかった。そこで、それぞれのCO2におけるLMAの観測値を、両方のCO2での定常成長モデルに入力し、相対成長速度(RGR)の感度分析を行った。低CO2の場合、高いLMA(高CO2における観測値)を与えたときのRGRは低いLMA(低CO2における観測値)を与えたときとほとんど変わらなかった。しかし、高CO2の場合では、高いLMAは低いLMAに比べ、平均13%のRGR増加につながった。この結果は、高CO2におけるLMA増加が、Nareaの増加を通して植物個体の成長増加に貢献していることを意味する。

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木本3種の光合成光順化における葉の解剖学的変化

小口理一・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・生命科学)

 林内の多様かつ変動的な光環境に対する植物の応答は、森林の構成・更新を考える上で重要な意味を持つと考えられる。ギャップ形成などで光環境の改善が起きた場合には、新たな光環境に葉を順化させ光合成能力を高めた方が、素早い成長が期待できる。しかし、種によって成熟葉の光順化の可塑性が異なることが知られている。なぜ、種によっては光順化を行わないのだろうか? この説明として、成熟葉の光順化の可塑性を保つために、何らかのコストが必要になることが考えられる。

 先に演者らはシロザ完全展開葉の光順化を調べた。シロザの弱光展開葉を強光に移植すると、光合成能力が増加する。この増加を可能にしたのは、葉肉細胞の表面付近にある葉緑体が存在しない隙間であった。強光に移植するとその隙間を埋めるように葉緑体が大きくなり光合成能力の増加をもたらした。このことは光順化の可塑性を残すためには、余分な隙間を持つ厚い葉を作る必要があることを示唆する。しかし、葉を厚くするためにはバイオマスの投資が必要であり、もし光環境の改善が起こらなければ、投資は全くの無駄になってしまう。

 本研究では、光順化しない種がなぜ存在するのかを、葉肉細胞表面の隙間によって説明する仮説を立てた。光順化の可塑性の高い木本では、葉緑体占有率を下げて可塑性を保っている。光順化の可塑性の低い木本は、コストを抑えるために細胞表面の葉緑体占有率を上げており、光順化が起こらない。以上の仮説を検証するため、遷移系列上で出現時期の異なる3種の木本を用いて、移植実験を行った。先駆種であるダケカンバはシロザと同様の応答を示した。これに対し後期種であるブナは、光合成の光順化を示さず、葉緑体占有率が100 %に近いとはいえないが他の種に比べて高い値を示した。これらの結果は上の仮説と矛盾しない。一方で中間種であるウリハダカエデでは、葉の厚さが増えることで順化を示した。これは、光順化のために葉肉細胞の形態的可塑性を保っている種が存在することを示唆した。

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発芽時期がイタドリの光合成特性に及ぼす影響

小野田雄介・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・生命科学)

 野外で生育する草本の発芽時期はしばしば長期間にわたることが知られている。発芽が遅れた植物は、発芽が早かった植物とは異なる季節環境で生育することになる。そのような発芽時期の違いは、植物の光合成特性にどのような影響を与えるのだろうか?これまで季節環境が植物の光合成に与える影響については多く研究されてきた。しかしその研究のほとんどは、ある時期に展開した葉を継続的に調査する方法をとってきた。本研究のように、異なる時期に発芽し、展開する葉の光合成特性についての研究は多くない。

 本研究では、5月と8月に発芽させたイタドリを野外でそれぞれ約80日間生育させ、 8月と10月に展開した葉の光合成特性を調べた。25度の飽和光強度で測定した光合成速度は10月の葉で有意に高かった。光合成速度の変化の原因を調べるために、光合成速度を1) 窒素含量と、2) ルビスコへの窒素分配率、そして3) ルビスコ活性の積として評価した。それによると、季節変化は葉の窒素含量とルビスコ活性にはそれほど影響していなかったが、ルビスコへの窒素分配率に大きく影響した(8月: 20%→10月: 26%)。つまり10月の葉はルビスコへの窒素分配率を増加させることにより光合成速度を高めた。

 ルビスコへの窒素分配率の増加は、他のタンパク質への窒素分配率の減少を意味する。ガス交換から推定される炭酸同化速度と電子伝達速度の比は、ルビスコ以外の光合成タンパク質が減少しているという結果は示さなかった。一方で、ルビスコへの窒素分配率の上昇と共に、葉の構造部分の量を示す構造LMA(デンプンを差し引いた葉重/葉面積比)は低下した。これらの結果は、10月の葉が構造部分を減少させ、光合成に多くのタンパク質を分配したことを示唆する。

 なぜ8月と10月の葉の窒素分配は変化したのだろうか? 10月に展開した葉の寿命は8月に展開した葉の寿命よりも大幅に短かった。10月の葉は短い期間で、冬の生存率を上げるために少しでも多くの炭素を獲得しなければならない。そのために力学的な強度を犠牲にして、光合成により多く投資するという戦略を取っているのかもしれない。

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ブナ林構成種の異なる光環境に展開する葉からの窒素回収

安村有子・小野田雄介・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・生命科学)

 植物は枯死していく葉から窒素を回収し再利用する。窒素は植物にとって必要不可欠でありしかも限られた資源であるため、窒素回収は生態学的に重要な機構である。窒素回収の程度は、窒素回収効率(REFF、生葉に含まれる窒素のうち回収された窒素の割合)と・窒素回収熟達度(RPROF、回収によって到達する枯葉の窒素レベル)によって表現される。REFFは投資した窒素のうち相対的にどのくらい回収したのかを、RPROF は窒素ロスを最小限にとどめるためにどれだけ選択圧がかかってきたかを示すと考えられている。これまで、窒素回収を葉の生育光環境と関連づけた研究はほとんどない。しかし、光環境によって葉の窒素含量は大きく変化するため、窒素回収も光環境によって変化する可能性がある。

 本研究では、青森県八甲田山のブナ林において、落葉性高木種ブナ、および低木種オオバクロモジ、タムシバの異なる光条件のもとに展開する葉でREFFとRPROFを測定し、種内で比較した。またブナにおいては、成木と稚樹の間の比較も行った。その結果、REFFは、成木ブナ、稚樹ブナ、オオバクロモジ、タムシバのいずれのカテゴリーにおいても異なる光条件に展開する葉の間に有意な差が見られなかった。また、稚樹ブナは成木ブナよりもREFFが有意に低かった。一方、RPROFではカテゴリー内で有意な差が見られた。また、RPROFにおいても稚樹ブナの方が成木ブナよりも有意に低かった。これらの結果より、REFFは、同一群落に生育する同一種では、光条件に関わらず一定であるが、個体の成熟度の違いによって変わりうることが示唆された。また、RPROFは葉の生育光環境によって変わることが明らかになった。

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マルハナバチにおける採餌株限定行動の個体差と経日変化〜閉鎖系での追跡実験からわかったこと〜

牧野崇司・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

 マルハナバチやハチドリといったポリネーターの多くが、訪れる植物個体をポリネーター個体ごとにしばしば限定して採餌していることは古くから知られている。なぜこうした採餌株限定行動を行うのかについては、遭遇報酬の分散を小さくするため、他個体の排除するためなどの説明がなされている。

 マルハナバチの採餌株限定行動に関する過去の研究例をみると、ごく少数の株を繰り返し訪問する個体から数多くの株を訪問する個体まで、その採餌株限定の程度には著しい個体差がみられる。この個体差は、採餌における戦略や植物の送受粉に与える影響が、マルハナバチの個体ごとに異なる可能性を示唆するものである。それにもかかわらず、採餌株限定の個体差に着目した研究はこれまでほとんど行われていない。そのため、個体差が生じる理由や限定の程度に関連した行動の特徴などについて詳しいことはわかっていない。

 そこで本研究では、マルハナバチの採餌株限定行動についての基礎的な情報を集めることを目的として、閉鎖系において実験を行った。実験では、縦20m×横20m×高さ2mのテント内にキバナコスモス37鉢を規則的に配置し、そこで採餌するクロマルハナバチの行動をのべ17日にわたって追跡した。

 その結果、主に以下の3つのことが明らかになった。1)限定が強まる方向の変化 だけではなく、限定が弱まる方向の変化も起こる。2)マルハナバチ個体は互いに異 なる植物個体を訪れる傾向にある。3)植物集団の平均花数が多いと限定の程度が弱 くなる。これらの結果は、他個体との競争や平均花数などの環境に応じて、マルハナ バチが採餌株限定の程度を変えていることを示唆するものである。植物集団の平均花 数が多いと限定の程度が弱くなる理由としては次のことが考えられる。マルハナバチ は株内の全ての花を訪れるわけではないため、花数が多いときほど報酬量の多い花の 確率が高くなる。その結果、花数が多いときほど互いの採餌領域に対する学習・侵入 が起こりやすくなるため、採餌株限定の程度は弱くなるのではないだろうか。

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ツリフネソウにおける集団密度に依存した性投資

岩泉正和・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

 植物集団の大きさや個体密度は、集団内での交配相手の数などに影響を及ぼす。そのため、これらの集団特性に依存して、個体の繁殖戦略は集団間で分化しているかも知れない。本研究では、生育地が幾つもの小集団に分断されているツリフネソウを対象に、集団特性と性投資の関係を調べた。

 調査は、宮城県仙台市・鈎取山治山の森の6集団を対象に行った。各集団40個体をマークし、根際直径を測定し、1個体当2花と1花序分の果実を採取した。そして、集団の個体数・生育地面積・密度と、集団の個々の花の各器官重との関係を検証した。調査は、2000年と2001年の2年間行った。

 その結果、個体密度の大きい集団ほど、花当のめしべ重・おしべ重・花びら重が小さかった。一方、果実当たりの重量には、集団の個体密度との間に明瞭な相関関係は見られなかった。また、個体サイズと花の各器官の重量の間にも相関関係は見られなかった。よって、花の大きさは個体サイズに依存していないと考えた方がよい。

 2000年と2001年のデータを比較すると、花の各器官重は2年とも同じような傾向を示した。このことからこの集団における性投資パターンの傾向には、ある程度の再現性を見出せると考えられる。

 Cresswellら(2001)は、密度の大きい集団において、個体当の花数が減少したものの1花当の重量は変わらなかったという報告をしている。しかし今回の結果は、今まであまり見られなかったパターンを示している。

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カエデ属はどのようにして光を獲得しているか?−成長様式と葉身・葉柄・当年枝への資源分配の関係−

大場信太郎(東北大・院・生命科学)

 カエデ科カエデ属の植物は、その分枝パターンから、(1)単軸分枝伸長型(ウリハダカエデ・ヒトツバカエデなど)、(2)仮軸分枝拡大型(オオモミジ・ハウチワカエデなど)、(3)単軸分枝拡大型(イタヤカエデ・テツカエデなど)の3つの成長様式に分けられる(Sakai 1987)。カエデ属の植物を一見すると、それぞれの成長様式ごとに当年シュート構成の特徴が異なるようである。例えば、単軸分枝伸長型のフェノロジーは順次展葉型であるのに対し、仮軸分枝拡大型は一斉展葉型である。また、単軸分枝拡大型は葉柄の長さの変異が大きいようである。この違いは、それぞれの生育環境に応じた最適の資源投資の結果なのであろうか? カエデ属は、当年シュートの各器官(葉身・葉柄・当年枝)への資源投資を種間・季節間で変化させることによって、与えられた環境で光獲得を最適化しているのであろうか?

 本研究では、カエデ属12種において、当年シュートの各器官(葉身・葉柄・当年枝)への資源投資比をシーズン初期・シーズン後期の2回に分けて調べた。そして、各器官への資源投資と季節変動の適応的意義を考察した。さらに、感光フィルムOPTLEAF(大成化工)を用いて個葉の光環境の測定結果を行い、資源投資と光環境の間の関係を調べた。

その結果、(1)単軸分枝伸長型では、シーズン初期には資源投資を各シュートに均等に行い、シーズン後半には光環境の良いシュートの当年枝に大きく資源を投資していた。また、基部から数えて1節目のユニット(春葉)と2節目以降のユニット(夏葉)では、1節目のユニットが葉身に資源を大きく投資しているのに対し、2節目以降のユニットは当年枝に資源を大きく投資していた。シュート内の個葉の光環境は先端ほど明るかったが、先端の葉(夏葉)の葉面積が小さいため、実際には1節目の春葉が光を多く獲得していた。(2)仮軸分枝拡大型では、シーズン間で資源投資比に違いが見られず、当年枝内の節の位置による投資比の変動は小さかった。シュート内の個葉の光環境はほぼ一定だった。(3)単軸分枝拡大型では、他の2型とくらべ、葉柄に多く投資していた。シュート内の個葉の光環境はほぼ一定だった。これらのことから、カエデ属では3つの成長様式間で異なる資源投資戦略を持っていることが示された。

 (1)単軸分枝伸長型は、個々のシュートの光環境がシュート伸長にダイレクトに影響し、さらに同一シュート内でも1節目は葉群の維持、2節目以降は伸長成長と明確に機能分化していると考えられる。また、(2)仮軸分枝拡大型は、シーズン初期に当年枝による受光体制を構築し、その体制を長い期間維持すると考えられる。(3)単軸分枝拡大型は、葉柄を駆使して受光体制を構築し、翌年以降の受光体制に可塑性を持たせていると考えられる

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雌雄異株低木ミヤマヤナギにおける繁殖への資源分配〜標高と雌雄による違い〜

佐々綾子(東北大・理・生物)・酒井暁子・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

 一般に,標高が高くなるほど,植物個体あたりの繁殖への資源投資量は減少する.これは,標高が高くなるほど生産速度が低下したり,個体サイズが小さくなることによって資源量が減少するためと考えられる.また一般に,雄器官に比べ雌器官のほうが生産コストがかかる.これらのことから,雌雄異株植物では標高が高くなるにつれ,雄個体に比べ雌個体で,繁殖への資源投資量が減少することが予想される.しかしこれまで,標高と雌雄の2つの面から繁殖への資源分配について調べた例はほとんどない.

 そこで本研究では,ミヤマヤナギを材料に,標高間・雌雄間でどのように繁殖への資源投資量が変化するか,およびその要因について調べた.調査は,青森県北八甲田の標高850mから1500mの間の5地点で行なった.各調査地で,個体ごとに花・葉・当年枝・昨年枝の乾燥重量を測定し,繁殖努力〔花/(花+葉+当年枝);Reproductive Effort〕,相対生産速度〔(葉+当年枝)/昨年枝〕を推定した.

 その結果,相対生産速度は,標高・個体サイズ・雌雄で違いがなかった.しかし繁殖重量は標高が上がるにつれて雌雄とも減少していた.これは,標高とともに個体サイズ(資源量)が低下することに加えて,繁殖への資源分配(RE)が減少する(図1)ためである.また,個体が大きくなるほどREは増加する(図2)が,同サイズでも,標高が上がるとREは減少することがわかった.雌雄で比較すると,REは雌個体のほうが有意に高かった.しかし,標高に沿ったREの減少の割合は雌雄でほぼ同じであった(図1).

 山地帯から高山帯まで分布するミヤマヤナギにおいては,雌雄ともに繁殖より栄養器官への資源分配を優先させることで広い分布域に適応しており,このために,標高が高くなるほど繁殖への資源投資量が減少していることが示唆された.

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キバナアキギリの花序サイズを決める要因はなにか?〜花序の開花可能期間とディスプレイサイズの影響〜

三宅康子(東北大・理・生物)・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

 花序をつける植物では一般に、ディスプレイサイズ(同時開花花数)が大きいほどポリネーターを誘引する効果が強い反面、連続訪花による隣花受粉が起こりやすいことが知られている。では、植物個体は、自身のもつ繁殖資源量に応じてどのような花序サイズ(1花序がもつ花数)の花序をいくつ作ることが有利なのだろうか。

 本研究では、垂直な花序を1〜複数もつキバナアキギリを用いて花序のディスプレイサイズや個花の開花時期などを記録し、あわせてポリネーターの訪花行動を観察した。 

 その結果、花序の開花可能期間が限られているので、大きな花序はディスプレイサイズを大きくすることで開花可能期間内にすべての花を開花させていた。そして、ディスプレイサイズの大きな花序ほど、ポリネーターの花序内での連続訪花が増加した。しかし、キバナアキギリでは個体内の連続訪花が隣花受粉を引き起こすことが確認されており(Ohashi 投稿中)、大きな花序をもつことは適応的といえない。一方、花序数が増えても、ポリネーターが同個体内の花序間を移動することによって起こる連続訪花はそれほど増加しなかった。つまり、花序間で開花時期をずらす必要はなく、花序数を増やすことへの制約はみられないようである。したがって大きな花序をつくるよりも、小さく最適な花序サイズを保ったうえでその個体のもつ資源量に応じて花序数を増やすほうが適応的であると考えられる。

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両性植物における花序内の資源分配パターン

板垣智之(東北大・院・理・生物)・石井博・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

 花序を形成する両性花植物において、同じ花序内の花であっても雌雄の繁殖器官への資源投資量が異なることが明らかになってきている。花序内の花間で資源分配が異なる要因として、雌雄異熟性・花序サイズの変化などが影響していると考えられている。しかし、これらの要因がどれだけ一般性があるものなのかはわかっていない。

 そこで、繁殖様式や花序の形態が異なる23種の両性花植物について、花序内の各花の雌雄の繁殖器官への資源投資パターンを調べた。また、concentrated changes test(Maddison 1990)を行い、花序内の資源投資パターンがどのような繁殖様式・花序の形態に影響を受けて進化したのかを調べた。

 その結果、花序内の資源分配には様々なパターンがあることがわかった。これまで、開花順とともに花あたりの胚珠数・花粉数が減少する種があることは知られていた。しかし、今回はそのようなパターンに加えて、開花順とともに増加する種があることが明らかになった。さらに、開花順によって差がない種や、花粉数と胚珠数どちらか一方が減少する種も見つかった。また、それらのパターンの進化に関連していると推定できる繁殖様式・花序の形態は見出せなかった。つまり、花序内の資源分配の変化の進化を説明する今までの仮説は全て棄却されると結論した。

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