日本生態学会第50回大会;発表要旨


冷温帯林における人工ギャップ形成後の林床植物の光合成光順化

○小口理一1、彦坂幸毅1、日浦勉2、広瀬忠樹1 (1東北大院・生命科学、2北大・苫小牧研究林)

 ギャップ形成による光環境の突然の改善は、森林の更新に欠かせないイベントである。林床に存在する実生の多くは、このイベントがなければ成熟することができない。また、この光環境の改善に対する植物の応答の種間差は、種の共存・多様性の維持に重要な働きを持つと考えられている。

 植物はギャップ形成による突然の光環境の改善に対して、既存の葉で応答するために成熟葉の光順化を行う。しかし、その順化能力には種間差がある。なぜ種によって順化能力が異なるのかは、そのメカニズム、生態学的意義ともに明らかになっていない。これまでの研究では、植物が一生で経験する光環境の幅が順化能力に影響するという考えから、遷移系列上の出現時期によって順化能力が異なるのではないかという提案がなされた。しかし、研究によって順化能力と遷移系列との間の傾向は異なり、種間差の生態学的意義を説明できているとは言い難い。

 本研究では、北大苫小牧研究林において多種の実生が存在する閉鎖林分で人工的にギャップを形成し、光環境の改善に対する実生の応答を調べた。成熟葉の順化能力と他の生態学的特性との関係を調べるため、遷移先駆種(ホオノキ、ハリギリ)、遷移後期種(ミズナラ、イタヤカエデ)、亜高木種(アオダモ、ハウチワカエデ)、つる植物(ツルアジサイ、イワガラミ)という生活様式の異なる8種について光合成能力の変化を追跡した。その結果、生活形や遷移系列と光応答のパターンはおおまかに一致していた。先駆種では、光合成能力には有意な増加が見られたが、窒素含量には有意な変化が見られなかった。後期種、亜高木種では光合成能力、窒素含量ともに有意な増加が見られた。つる植物は光合成能力、窒素含量とも有意な変化が見られなかった。講演では、葉の形態的制限を考慮に入れて、順化能力の種間差のメカニズムについても議論したい。

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雪田植物チングルマにおいて,開花フェノロジーが種子生産と性投資に与える影響

○辻沢央・酒井聡樹(東北大学・院・生命科学)

 一般に、冬季の積雪量が多く雪解け時期が遅い高山帯の雪田環境では、雪解けが遅れるほど種子の成熟に費やせる期間が短くなる。そのため、種子生産に投資できる資源量が制限を受け、そのことが雌雄器官への性投資比に影響する可能性がある。しかし、雪田植物の繁殖について、種子生産との関連から性投資比を評価した研究は少ない。

 そこで本研究では、雪田に生育する両性花植物チングルマ(Sieversia pentapetala)の雪解け時期の異なる3集団において、種子への資源投資量と花期の性投資比を調べた。調査は、青森県八甲田大岳の標高約1300mに位置する 薬谷雪田にて行い、それぞれの集団においてフェノロジーの記録、開花時のシュートと散布直前の種子の採集、各器官毎の乾燥重量の測定を行った。

 雪解けが遅い集団ほど種子成熟期間は短かった。種子成熟期間の長さとシュートあたりの平均種子重量(総種子重量/種子数)の間には正の相関が見られた。しかし、種子の数とS/O比に集団間で有意な差が見られなかった。ポリネーター量は雪解けが早い集団ほど少ないのに対し、開花期間の長さは雪解けが早い集団ほど長かった。開花期においては、雪解けが遅いほど雌器官への資源投資量は減少したが、雄器官への資源投資量は変化しなかった。

 種子の大きさは種子生産期間の長さに強く依存する事から、雪解けが遅い集団では花期に雌器官へ投資しても十分に大きな種子を生産できず、その見返りが小さくなる。そのため、花の雌器官への投資は雪解けが遅い集団ほど減少したと考えられる。一方、雪解け時期が早い集団では、開花期間の長さを延ばすことによって少ないポリネーターによる花粉不足を補っている事がわかった。また、雪解けが遅い集団ほどポリネーター量が増加したにも関わらず、花期の性投資量は雌雄両器官で増加しなかった。以上より、チングルマの花期の性投資量はポリネーター量に影響を受けない事が示唆される。

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種子の大きさと数のトレードオフ:ウバユリを用いた、Sakaiand Harada (2001) モデルの検証

酒井 聡樹・酒井 暁子(東北大・生命科学)

ウバユリを用いて、種子の大きさと数のトレードオフに関する Sakai and Harada (2001; Am. Nat. 157:348-359) モデルの検証を行った。このモデルは、仔の大きさと数のトレードオフは非線型であり、一腹の仔の総重量は、個々の仔が大きいほど減少し、仔の数が多いほど増加すると予測する。これは、仔の生産中の維持呼吸による資源消失が、大きな仔を作るほど多くなり、仔の数が多いほど少なくなるためである。

【方法】宮城県青葉山のウバユリ二集団を対象に以下の測定を行った。親個体の根際直径を測定し、花期終了時と種子生産完了時の個体重量を推定した。種子散布直前に各個体から種子を回収し、種子重量と生産種子数を測定した。また、花期終了時と種子生産完了時の個体重の差から、種子生産期間中の呼吸量を推定した。

【結果】親個体の大きさ(種子生産に投資する資源量)の違いの影響を排除して解析を行った結果、以下のことがわかった。
・種子の大きさと数のトレードオフを検出することができた。
・個々の種子が大きいほど種子の総重量は小さかった。また、呼吸による資源消失量は多かった。
・生産種子数が多いほど種子の総重量は大きかった。また、呼吸による資源消失量は少なかった。

【結論】結果は、Sakai and Harada モデルを支持する。資源利用効率という点では、個々の種子を大きくすることよりも種子数を増やすことの方が有利である。

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窒素利用に着目した、オオバコにおける光合成系の温度順化の解析

○彦坂幸毅(東北大・院・生命科学) 

 温度−光合成曲線は同一種でも生育条件によって変化し、光合成速度の最適温度は、低温で育てた植物ほど低くなる。温度−光合成曲線が変化するメカニズムはまだ不明な点が多く、いくつか仮説が出されている。Hikosaka (1997, Ann Bot 80: 721-730)は、光合成系タンパク質間の窒素分配の変化が温度−光合成曲線の変化をもたらしうることを理論的に示したHikosaka et al. (1999, Plant Cell Environ 22: 841-849)

は、異なる温度で育成した常緑広葉樹シラカシのガス交換特性を解析した。光合成系を二つの部分反応 (RuBP carboxylationと regeneration) に分け、それぞれの能力を比較したところ、両反応間のバランスが生育温度によって変化することが明らかになった。この結果はHikosaka (1997) の理論的予測を支持する。

 本講演では、光合成系タンパク質の量や葉内の窒素分配がどのようになっているかを調べた結果を紹介する。本研究では多年生草本オオバコを用い、ガス交換解析と光合成系タンパク質の測定を行った。シラカシでも見られたように、オオバコでも二つの部分反応のバランスが変化していた。同じ窒素含量で比較すると、RuBPcarboxylationの能力は生育温度による違いはなく、RuBP regenerationの能力は低温生育葉で高かった。RuBP carboxylaseへの窒素分配率は生育温度によって影響を受けなかったが、クロロフィルへの分配率は低温生育で低下した。高温生育葉ではクロロフィルa/b比の低下なども見られ、高温順化と弱光順化に共通点が多いことが示された。

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異なる光・窒素条件で生育したシロザの葉からの窒素回収効率

○安村有子・小野田雄介・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大学・院・生命科学)

 植物の成長は個体の窒素含量に大きく依存する。自然生態系では窒素は限られた資源であることが多く、このため植物は枯死する器官から窒素を回収し新しい器官へ転流して再利用する。特に、葉は窒素含量が高く他器官よりもターンオーバーが速いため、葉からの窒素回収は植物の窒素経済を考える上で重要であるとされている。葉からの窒素の回収効率(REFF;生葉がもっている窒素のうち回収される割合)は、種によって異なるだけでなく、同一種でも栄養条件などの生育条件によって変化する。しかし、そのパターンは研究によってまちまちであり、生育条件の勾配に沿ってREFFがどう変化するか予測するのは困難であった。回収される窒素は、窒素のシンク器官へ輸送されるため、REFFは個体の窒素のシンク・ソース関係に依存して変化して

いると予想される。本研究では、この仮説を検証するために一年生草本シロザ(Chenopodium album)を用いて実験を行った。異なる光(強光HL・弱光LL)と窒素条件(富栄養HN・貧栄養LN)で生育させたシロザを、定期的に刈り取りし、葉の窒素回収と個体の窒素のシンク・ソース関係を測定した。

 生育期後期に枯死した葉のREFFは、44〜81%と、生育条件によって大きく異なっていた。LL-HNで最も低く、LL-LN、HL-LN、HL-HNの順に高くなっていた。この順序は、相対的なシンク力の強さと関係していた。つまり、繁殖器官(シンク)に対する葉+腋芽(ソース)の窒素量が少ないものほどREFFが高いという傾向がみられた。この時の枯葉の窒素濃度は、HL-HN、HL-LNでは0.6%以下と低いものであったが、LL-HNではその4倍以上、またLL-LNでも2倍以上と高かった。これより、シロザはシンクからの窒素要求に応じて葉の窒素を大幅に減らし損失を防ぐことができるが、シンクでの需要が低い場合には葉に窒素が残存していても回収しないまま枯らしてしまうことが示唆された。

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ショウジョウバカ マにおける開花時期に依存した自家受粉率の変化 -ポリネーターと個体サイズの影響-

○森長真一1・辻和希2・酒井聡樹1(1東北大・院・生命科学、2琉球大・農)

 多くの植物集団において、開花時期には個体間で違いがあり、果実数・種子数などが開花時期に依存して変化することが知られている。しかしながら、自家和合性植物においては、開花時期に依存して種子の数だけでなく遺伝的性質(自家or他家)も変化する可能性がある。

 本研究では、早春に開花する自家和合性草本ショウジョウバカマをもちいて、開花時期に依存した個体の自家受粉率の変化を推定した。また自家受粉率変化の要因となりうるポリネーターと個体サイズの影響を調査した。富山市呉羽丘陵(2001年)と仙台市青葉山(2002年)の二集団において、それぞれ数十個体の開花時期を記録した。結実期に各個体の種子を回収し、マイクロサテライトDNAマーカーにより各個体ごとに自家受粉率を推定した。またポリネーターのフェノロジーと行動を観察した。さらに個体サイズと開花時期・種子生産(自家or他家種子数/果実・自家受粉率)の相関関係を調査した。

 その結果、自家受粉率は遅咲き個体ほど低下することがわかった。果実あたりの自家受粉種子数は開花時期に依存しないが、果実あたりの他家受粉種子数は遅咲き個体ほど増加した。また、果実あたりの総種子数も遅咲き個体ほど増加した。ポリネーター相は季節変化し、初めはハエ類のみであったが、シーズン後期ほどハチ類が増加した。ハエ類はハチ類に比べて花や植物個体に長くとどまる性質があり、自家受粉を促進させることを示唆した。一方、個体サイズと開花時期・種子生産に有意な関係はみられなかった。

 これらの結果は、1.開花時期に依存して種子の遺伝的性質が変化する、2.遅咲き個体は近交弱勢がはたらかない他家受粉種子を多くつくるため、雌適応度において早咲き個体よりも有利である、3.開花時期に依存した自家受粉率の変化は、ハエ類からハチ類へのポリネーターのシフト(ポリネーター相の季節変化)による可能性が高く、個体サイズの影響は低いことを示唆している。

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雄性先熟種ヤマオダマキにおける、花序内の花間の雄期・雌期の長さの変異と性投資の違い

板垣智之・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

 開花期間の長さは雌雄の繁殖成功に影響しうる。すなわち、開花期間が長いほど多くの花粉を送受粉できると期待される。花序内の花間で開花期間の長さが異なる場合、繁殖成功も異なることが考えられる。そのため、期待される繁殖成功に応じて、花間の資源投資量も異なるのではないだろうか?そこで、雄性先熟のヤマオダマキを材料に、花序内の開花の早い花と遅い花とで、雄期間・雌期間の長さ、雌雄の繁殖器官への資源投資量、および雌雄の繁殖成功を比較した。

 その結果、開花の早い花・遅い花とも雄期間が長くなるほど多くの花粉が放出されていた。このことから、雄期間が長い花ほど雄繁殖成功が高いといえる。また、開花の早い花ほど雄期間が長く、花あたりの花粉数も多かった。したがって、これらの花は、雄期間が長いために多くの花粉を放出し、高い雄繁殖成功を得ていると考えられる。

 一方、雌期間の長さと種子数とには有意な相関がなかった。したがって、雌期間の長さは雌器官への資源投資に影響しないことが示唆される。しかし、開花の早い花ほど雌期間も長く、花あたり胚珠数・種子数も多かった。雌繁殖器官への資源 投資量および雌繁殖成功には、雌期間の長さ以外の要因(花間の資源獲得のしやすさなど)が影響していると考えられる。

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八甲田山田代平のCO2springにおけるCO2環境と植物の生理生態学的特性

○小野田雄介・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大院・生命科学)

  大気CO2濃度増加が植物に及ぼす影響については、これまで多くの研究があり、個体の生理特性や成長の高CO2応答はかなり理解が進んできている。しかしながら、これらの実験結果を自然生態系に応用するためには、まだ明らかでない点がいくつかある。1つは、植物の高CO2順化には長い時間がかかることが知られており、実験系では実現できない長期間の高CO2に対してどのような応答をするか分からないこと。2つめに、高CO2環境では、高CO2に適応した遺伝型が選択されてくる可能性があり、それらは現在の植物と異なる応答を見せる可能性があること。3つめに、植物だけでなく、捕食者、分解者も存在する自然生態系に高CO2がどのような影響を及ぼすのか分からないことである。

  これらの困難な問題は、CO2 spring周辺の植物を研究することによって解き明かすことができる。CO2 springでは、長年に渡り火山ガス由来のCO2が湧き出しているため、付近の植生は高CO2に順化または適応していると考えられる。私たちは、青森県八甲田山田代平において、天然の植生が多く残っており、さらに有害なガス(H2SやSO2)を出していない良好なCO2 springを調査した。

  6月から10月までの5ヶ月間、毎月3-4日間、高さ1mにおけるCO2濃度の観測を複数の地点で行った。5ヶ月間の観測の平均値は、CO2 springに近い場所で高く(677ppm)、約50m離れると370ppmに低下した。CO2濃度勾配に従って、調査地区をHC(平均640ppm)、MC(平均440ppm)、LC(370ppm)の3つに分け、それぞれから自生している3種の植物(ノリウツギ、チシマザサ、オオイタドリ)の葉を採取した。光合成タンパク質含量の指標である窒素含量は、HCで低かった。また光合成産物であるデンプンは、HCで高い傾向があった。つまり高CO2サイトでは、低い光合成タンパク質量であっても、高い光合成速度を維持できたことを示唆する。これらの結果は、これまでの多くの制御環境実験の知見と一致する。本研究ではまたオオイタドリについて調べた光合成特性も報告する。

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個体間相互作用がマルハナバチの採餌範囲を狭めているのか?〜閉鎖系における他個体除去実験による検証〜

○牧野崇司・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

 マルハナバチの採餌範囲に影響する要因を調べたMakino TT & Sakai S (now preparing)は、マルハナバチが互いに異なるような採餌範囲を持つ傾向にある可能性を示した。もしハチ個体間の相互作用が採餌範囲の決定に関わるならば、同時に採餌するハチ個体の数が多くなるほど採餌範囲が狭くなり、ハチ個体数が少なくなるほど採餌範囲が広くなることが予測される。本研究では、閉鎖系における他個体除去実験を行い、この予測の検証を行った。

 実験は、縦 20 m×横 20 m×高さ 2 m の網製テントの中に植物(ブルーサルビア )を配置し、そこに農業用クロマルハナバチを放して行った。まず、テント内で採餌している20頭前後のマルハナバチのなかから数頭をランダムに選び、その株間移動を追跡した。さらに、その中から比較的狭い採餌範囲を持つ1個 体を選び、それ以外のハチ個体を全て取り除いた。そして、個体間相互作用のない状況下で、対象ハチ個体の採餌範囲がどのように変化するのかを調べた。これを、5個体のハチについて行った。

 他個体を除去すると、マルハナバチは、これまでほとんど訪れなかった株にも訪れるようになった。つまり、いちど採餌範囲を狭く限定したハチ個体でも、他個体との相互作用がなくなると、その採餌範囲を広げることがわかった。この結果は、ハチ個体間の相互作用がマルハナバチの採餌範囲の決定に関わることを裏付けるものである。また、結果は、マルハナバチが他のハチ個体の採餌状況に柔軟に対応し、その採餌範囲を調節できることを意味している。この相互作用は植物上の資源量を介して行われていると考えられるが、詳しくは不明であり、その解明が今後の課題である。

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