日本生態学会第53回大会;発表要旨


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種子食害量が予測不能な環境における、最適な種子の大きさと数

酒井聡樹1・原田泰志2(1東北大・生命科学, 2三重大・生物資源)

発達中の種子の一部は、食害などによって死亡することが多い。これに対抗して植物は、余剰の胚珠を作り、種子数を適応的に調節しているという視点の研究がなされている。しかしそれだけではなく、種子の大きさを適応的に調節することも有利となるのではないだろうか?本研究では、大きさと数のトレードオフを取り入れ、食害数が予測不能な環境における、最適な種子の大きさと数を解析した。

【モデル】親植物は、ある量の資源を使って種子生産を行う。初めに、この資源の一部を使いある数の胚珠を作る。胚珠の一部は、種子への発達中に食害により死亡する。親植物は、非食害胚珠の一部を中絶することもできる(食害数が少なかった場合など)。食害・中絶により死亡した胚珠へ投資されていた資源は失われる。残りの資源を残った胚珠間で分けあい、種子が完成する(多くの胚珠を残すほど種子は小さくなる)。この仮定の元で、発芽定着する種子数が最大となる、初期胚珠数・中絶胚珠数・種子サイズを解析する。

【結果】余剰胚珠を作ることが有利な場合と作らないことが有利な場合がある。

作る場合:種子数の上限が存在する。非食害胚珠数がこの上限より多い場合は、「非食害胚珠数 - 上限数」個の非食害胚珠を中絶し、上限個の種子を作る。食害数に関わらず種子数が一定となるため、種子サイズも一定となる。非食害胚珠数が上限数より少ない場合は、中絶せずに、すべての非食害胚珠を種子に発達させる。この場合、種子数が少ない(非食害胚珠数が少ない)ほど、種子サイズは大きくなる。

作らない場合:食害数に関わらず、すべての非食害胚珠が種子へと発達する。

進化条件:平均食害数が少ない環境や、食害種子一つあたり失われる資源量が多い環境(食害が、種子発達の後期に起きる環境など)では、余剰胚珠を作らないことが有利となる。


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植物群集の生物間相互作用:獲得資源の定量化による相互作用の理解

彦坂幸毅(東北大・院・生命)

植物群集内における植物種間・個体間の相互作用は、多少の例外を除けば、ほとんどが資源獲得をめぐる競争である。植物が必要とする資源は、光・栄養塩・水などとほぼ全ての種にわたって共通であり、資源をより多く、あるいは効率よく獲得できた種/個体がその植物群集内で生存・成長・繁殖できると考えられる。しかしながら、植物群集内において各種/各個体がどれだけの資源を獲得したかを定量的に評価した研究は驚くほど少ない。多くの研究では成長量の大小から獲得資源の多寡を推定しているが、これは以下の二点で問題がある。一つは、獲得すべき資源は複数種類(光・窒素など)あり、成長の解析だけでは(何らかの操作実験をしない限り)着目した資源が成長を律速していたのかが不明であることである。もう一つは、獲得資源をいかに効率よく成長に利用できたかは種・条件によって異なることである。わかりやすい例としては、C3植物とC4植物のように光合成における資源(光や窒素)利用効率が異なる場合を挙げることができるだろう。我々は相対成長速度(サイズあたりの成長速度)を、資源獲得効率(サイズあたりの資源獲得量)と資源利用効率(獲得資源量あたりの成長量)の積として表すことで植物の資源獲得競争とその成長に対する影響を分離し、定量的に評価することを試みてきた。本講演では、もっとも単純な実験系である一年草の純群落を用いた光と窒素の獲得・利用の解析(Hikosaka et al. 1999Oecologia, Hikosaka and Hirose 2001 Oecologia)と環境応答が個体間相互作用に与える影響の解析(Nagashima et al. 2003 Global Change Biol, Hikosaka et al. 2003 Funct Ecol.)などを紹介する。


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植物個体のシュート間の生理的統合性と個体の生産性の関連:2つのシュートを持つ個体の葉群動態モデル.

○長田典之・彦坂幸毅(東北大学大学院生命科学研究科)

一般に植物の地上部は複数のシュートからなる。近年、多くの研究で、個体内の光条件の悪いシュートから良いシュートへと光合成産物の転流がおこっている可能性が指摘されている(生理的統合)。しかし、こうした生理的統合の有無が個体の生産性や葉の性質に及ぼす影響は不明である。

本研究はHikosaka (2003)による葉群動態モデルを拡張することで上記の疑問に答えることを目的とした。Hikosaka (2003)のモデルでは、ある環境条件において1本のシュートを持つ植物個体の生産性を最大にするような着葉面積および窒素分配様式の時間変化を考え ることにより、環境に応じた葉寿命などの葉の特性の違いが説明できた。本研究ではさらに2本のシュートを持つ植物個体について、シュート間の炭素と窒素 転流の有無を考えた。設定はStoll & Schmid (1998)にならい、まず暗条件下に2本のシュートを持つ植物(個体全体が暗い環境におかれた場合)を考え、その後片方のシュートを明条件に変えたとき(ギャップ形成)、シュート間の生理的統合が個体の生産性や葉寿命に与える影響に着目した。

この結果、シュート間の炭素転流は生産性にあまり影響を及ぼさなかったものの、窒素転流は大きく影響した。個体の窒素吸収速度が低いときには暗いシュートから明るいシュートへの窒素転流に伴って暗いシュートは死亡した。2本のシュートが共存するためには光条件の変化にともない個体の窒素吸収速度を上げる必要があった。2本のシュートが共存したとき、葉寿命は明るいシュートで短く、暗いシュートで長くなった。とくに炭素転流率が大きいほど暗いシュートの葉寿命は長くなった。以上の結果は、炭素が転流する場合と窒素が転流する場合では個体の生産性や葉寿命への影響が異なる可能性を示している。


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葉の枯死は個体の炭素獲得を増加させるか?

及川真平(東北大学大学院生命科学研究科)

葉の寿命は種間で大きく異なる。また、同種でも環境によって大きく変わる。葉の寿命がどのように決まっているかについては古くから多くの説が提唱されてきたが、いまだ統一的な説明はされていない。葉の最も重要な役割は炭素を獲得することである。ゆえに、その植物がおかれた環境において、より多くの炭素を獲得できる葉寿命が有利であると考えることができる。このような観点から、葉の寿命が決まるメカニズムを明らかにするために、富栄養条件(HN)と貧栄養条件(LN)で生育させた一年生草本オオオナモミ群落内において葉の動態と炭素収支、そして光合成タンパク質の主要な構成元素である窒素(N)の動態を調べた。葉の日炭素獲得量は展開直後に最も高く、その後低下した。HNでは、日炭素獲得量がほぼ0になるまで葉は維持された。この結果は、葉は、その維持がもはや植物の成長に貢献しなくなったときに枯れることを示唆する。しかし、LNでは、炭素獲得がまだ正であるのに葉は枯死した。この結果は、葉の寿命は必ずしも『個葉』の炭素獲得を最大にするように決定されるわけではないことを示している。

葉が老化するとき、タンパク質は分解され多量のNが回収される。回収されたNは新しく作られる器官で再利用される。古い葉から回収されたNが群落上層にある若い葉に転流され、そこでより高い光合成速度を実現するならば、古い葉がまだ正の日炭素獲得を維持していてもその葉を枯らしたほうが『個体』の炭素獲得は大きくなる。オオオナモミの群落では、葉は、個体の炭素獲得を増加させるときに枯れたのだろうか?数理モデルを適用することによってこの仮説を検証した。LNのいくつかの葉では、その枯死によって個体の炭素獲得が増加した。しかし多くの葉では、個体の炭素獲得を減少させた。これは、新葉を作るためのN要求が、土壌からのN供給では満たされず、古葉からのN回収を促進したためかもしれない。HNでは、葉の枯死は個体の炭素獲得を増加させるにも関わらず、葉は生きていた。これは、炭素が葉の生産をより律速したためかもしれない。炭素は、葉の生産において骨格を提供する主要な構成元素である。以上の結果は、葉の寿命が決まるメカニズムが、植物の成長を最も律速する資源に依存して変わることを示唆している。


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環境変化に対する生態系の応答-生物間相互作用の視点から

及川真平1・岩田智也2(1東北大・院・生命科学, 2山梨大・工)

生態系は食物網を構成する多様な生物の進化的適応とそれら種間の相互作用あるいは物質循環によって成立している。温暖化や大気CO2濃度の上昇といった環境変化は、個々の生物・物質への影響を介して生物間の相互作用と物質循環に波及効果を及ぼすと考えられる。このような生物間の相互作用と物質循環の変化は、生態系の構造や機能をどのように変化させるのだろうか。

環境変化と生態系の応答に着目したこれまでの研究は、ある環境(例えば温度)の傾度に沿った物質量、種組成の多地点比較がほとんどであった。これらの比較はある一時間断面における調査によるものが多く、生態系の構造・機能変化をもたらす生態プロセスについては十分に明らかにされてはこなかった。そのため、なぜ環境の変化が生態系の変化を引き起こしたのか、どうすればその変化を事前に予測し保全に役立たせるかといった、生態プロセスを基本とする考察が十分にできないのが現状である。

本シンポジウムでは、環境変化に対する生態系の応答を、このような変化プロセスとして着目し研究している方々に講演していただく。生物間の相互作用と物質循環について、群集から個体、水系から陸系、長期野外観察から操作実験まで様々なスケールの研究を紹介していただき、環境変化に対する生態系の応答を生物間の相互作用と物質循環の変化という視点から理解を深めたい。


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高CO2における一年草シロザ群落の炭素バランス

○アラマス, 彦坂 幸毅, 広瀬 忠樹

我々は、高CO2(700 オmmol mol-1)で生育した一年草シロザ(Chenopodium album)群落の炭素収支を調べた。群落光合成モデル(Hirose and Werger, 1987)を使用し、シロザ群落の葉群光合成速度(Pcan)を計算した。さらに、茎と根の呼吸速度を測定した。高CO2生育は群落成長を促進した。通常CO2と比べ、高CO2は群落の総バイオマスを54%増加させた。群落の成長量と炭素獲得(葉群光合成-茎根呼吸)の間には相関が見られ、我々のモデルは群落の炭素収支を正確に予測できたことを示唆した。群落炭素獲得は生育期間全体にわたって高CO2で促進された。群落炭素獲得における呼吸消費の割合はCO2間で有意的な変化がなく、群落の炭素収支の高CO2促進は主に群落光合成の促進により決定されていた。Pcan は、成長初期に高CO2により80%促進されたが、この促進率は成長後期に55%まで低下した。感度分析から、高CO2における群落炭素収支の増加は主に葉光合成能力促進に帰せられた。また、成長初期では、葉面積も群落光合成の増加に貢献すると示唆された。高CO2におけるPcanの促進率の低下は、群落構造(葉面積)および葉光合成能力の両方の複雑な変化によってもたらされていた。


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オオヤマオダマキにおける花序内の機能分化:開花の遅い花の種子生産は補償的か?

○板垣智之(東北大・院・生命科学)・木村恵(東北大・院・農)・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

繁殖器官への投資量の花序内の花間での違いに対する繁殖補償的な機能の影響を調べた。花序内の花間で補償的な機能の違いがあるなら、気象条件や花粉親の違いなどの繁殖成功への影響が花間で異なるのではないだろうか。花序内に2−3個の花を持つオオヤマオダマキを材料に、青森市八甲田山で2000年から5年間調査を行った。花序内で1番目と2番目に開花する花で、花あたり胚珠・花粉・種子・放出花粉数を比較した。また、繁殖成功に影響すると考えられる要因として、個体サイズ(個体の花茎数・花数)、花粉親の違い(強制他家受粉vs.強制自家受粉)、ポリネーター数、各年の気象状況を調べた。

その結果、胚珠・花粉・種子・放出花粉数は、2番目の花に比べて1番目の花で多かった。種子生産は、1番目の花のみで年間に有意差があった。一方、放出花粉数は年間で違いがあったが、花間で違い方に差はなかった。

繁殖成功に影響すると考えられる要因のうち、開花中の平均気温が低い年は1番目の花の種子生産が少なかった。さらに、平均気温と各花に訪れたポリネーター数とに正の相関があった。このことから、1番目の花の雌繁殖成功が高いのは気温が影響しているのではないかと考えられる。それに対して、個体サイズ、花粉親の違いの影響は見られなかった。一方、これらの要因は雄繁殖成功には影響していないようだった。

一般に、花序構造の制約や成熟期間の長さのため、開花の早い花の方が種子生産が多いと考えられている。オオヤマオダマキでも1番目の花の種子生産は多い。2番目の花の種子生産は少ないが気象条件の影響を受けにくく、気象条件が悪い場合に補償的に機能するのではないか。


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雪田に生育する二型花柱性植物において、開花時期の違いが花の形と性投資に与える影響

○辻沢央・酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

雪田では、植物の開花フェノロジーは消雪時期に強く依存する。消雪時期が異なる集団間では、植物に訪花する昆虫の種構成や量が異なることが知られている。二型花柱性植物は、葯と柱頭の相補的な空間的配置によって、花柱型間の送受粉を促進している。消雪時期が異なる集団間では、訪花する昆虫種が変化することから、花柱型間の送受粉のバランスが変化すると考えられる。その結果、各花柱型の性分配やハーコガミーが消雪時期の異なる集団間で異なるかもしれない。そこで本研究では、消雪時期が異なる2集団間において、二型花柱性植物であるヒナザクラとイワイチョウの性分配、およびハーコガミーを比較する。調査は、青森県八甲田大岳の標高約1300mに位置する薬谷雪田にて行った。消雪時期が7月下旬と8月中旬の2集団を設定し、各集団で花の各器官の大きさ・胚珠数・花粉数測定した。

ヒナザクラ

イワイチョウ

ヒナザクラでは、消雪時期の違いは性分配には影響を及ぼしていたが、ハーコガミーには影響がなかった。一方、イワイチョウではヒナザクラと逆のパターンを示した。これら2種で消雪時期の違いに対する応答が異なったのは、花の形状の違いによるのかもしれない。ヒナザクラの雄蕊は筒状の花冠に合着しているため、皿状の花をもつイワイチョウよりも、葯の位置が変化しにくいだろう。そのため、ヒナザクラは性分配を変化させているのかも知れない。


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閉鎖花植物における表現型可塑性の遺伝的背景を探る

森長真一(東北大・院・生命科学)

閉鎖花植物は、完全に開花せず受精する花(閉鎖花)と通常の花(開放花)を環境に応じて咲き分けるという表現型可塑性を示す。この可塑性は様々な系統で独立に進化しており、適応進化の産物であると考えられている。では、このような表現型可塑性は、どのような遺伝的背景によりもたらされているのだろうか。表現型に着目したこれまでの研究だけでなく、遺伝的背景をも知ることにより、進化メカニズムの詳細を明らかにできると考えられる。本研究では、シロイヌナズナに近縁なコカイタネツケバナを材料に、生態学とゲノム学の手法をもちいて、閉鎖花植物における表現型可塑性の遺伝的背景を明らかにすることを目的とした。

その結果、栽培実験により、成長期における低温期間が長いほど個体サイズが小さくなり、花弁と雄しべ2本が欠失した閉鎖花を咲かせることがわかった。さらに、閉鎖花と開放花原基を含む花序組織を用いたヘテロロガスマイクロアレイにより、閉鎖花と開放花で1.5倍以上発現量が変化する遺伝子を少数同定した。この候補遺伝子をシロイヌナズナでノックダウンさせたところ、雄しべ2本が欠失し、閉鎖花様の花を咲かせた。

これらの結果より、本種における閉鎖花形成は、低温期間の長さに伴う個体サイズの変化に対応した適応的な資源分配戦略であることが考えられた。また、開放花と閉鎖花の表現型の違いは、低温によって誘導される少数遺伝子の微小な発現量変化によるものであり、実際1遺伝子で雄しべの発生が抑制されていると考えられた。現在は、花弁の欠失に関与すると考えられる候補遺伝子についての解析も進めている。今後は、これらの遺伝子の機能と進化を解明し、野生生物における適応進化の理解を目指す。


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フキの3つの花序型の進化的意義:訪花昆虫の誘引と繁殖成功に違いはあるか?

○鈴木由佳・板垣智之・牧野崇司・辻沢央・酒井聡樹(東北大院・生命科学)

フキは雌雄異株植物といわれている。しかし、オスメス花序という両性個体(雄頭花[雄小花のみ]とオスメス頭花[雄小花+雌小花]を含む)が低頻度で存在することが、色々な集団で確認されてきている。オスメス花序は消えていき、完全な雌雄異株になるのであろうか?それとも新しい性表現へと進化していくのであろうか?本研究では、雌花序・雄花序・オスメス花序の繁殖成功を比較し、オスメス花序が集団内で広がりうるのかを検討した。

調査は、五城目町(04,05年)と仙台市の川内と青葉山(04年)で行った。雄繁殖への投資の指標として、雄花序とオスメス花序の花粉数と雄小花重を調べた(五城目05年のみ)。また、各花序型の3時間あたり昆虫訪問数と1訪問あたり滞在時間を調べた(五城目04年:5日間、五城目05年:10日間、川内:3日間、青葉山:2日間)。雌繁殖成功の指標として、雌花序とオスメス花序の結実率(五城目04,05年)と種子重(五城目05年)を調べた。

その結果、花粉数と雄小花重は、雄花序とオスメス花序で変わらなかった。訪問数は、以下の通りであった。五城目04年:雌花序<オスメス花序。五城目05年:雌花序<雄花序≒オスメス花序。川内:雌花序≒雄花序<オスメス花序。青葉山:花序型間で変わらなかった。滞在時間は、花序型間で変わらなかった。結実率と種子重は、雌花序>オスメス花序だった。

これらのことからオスメス花序は、雄花序と同等もしくはそれ以上の雄繁殖とわずかな雌繁殖を行っていることがわかった。そのため、オスメス花序が集団から消えていくことはないと考えられる。フキは新しい繁殖システムへ進化する初期段階にあるかもしれない。


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装飾花の適応的意義〜オオカメノキとノリウツギの装飾花は繁殖成功に寄与しているのか?〜

○内野祐佳・酒井聡樹(東北大学・院・生命科学)

装飾花とは、花弁や萼が大きく発達する一方で、性的機能(雄しべや雌しべ)が退化した花のことである。一般に装飾花は、花序の外周部分に存在し、花序全体を視覚的に目立たせることで訪花昆虫の誘引に貢献していると言われている。しかし、装飾花が繁殖成功に本当に貢献しているのか調べた研究はない。

私たちは昨年の大会で、オオカメノキ装飾花が繁殖成功に影響を与えていないことを報告した。これは、オオカメノキに限ったことなのか、それとも装飾花一般に共通することなのか?それを確かめるべく、オオカメノキとは系統も生育環境も違うノリウツギを用いて、装飾花が繁殖成功に与える影響について調べた。

調査は、2005年7月〜10月に、青森県八甲田山実験所で行った。装飾花の誘引効果を調べるために、装飾花のある個体と除去した個体を人工的に作った。それぞれの個体について、花序の結果率(果実数/真花数)・花の結実率(種子/胚珠)・花序への訪花頻度を調べた。

その結果、装飾花の有無によって、花序の結果率と花の結実率に有意な差は見られなかった。また、訪花頻度は装飾花の有無に関わらず高く、どちらの花序にも多くのアブやハチが訪れ、装飾花の効果はなかった。以上のことから、ノリウツギの装飾花はメスの繁殖成功に貢献していないことがわかった。訪花頻度に差がなかったことから、オスの繁殖成功にも貢献していないことが示唆された。

このように、ノリウツギにおいてもオオカメノキにおいても、装飾花は繁殖成功に貢献していなかった。ではなぜ、装飾花は存在するのか?装飾花の存在の意義について、今後考えていきたい。


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ヒメシャガの花と果実への食害が繁殖に与える影響

○小黒芳生・酒井聡樹(東北大・院・生命)

植物の繁殖成功は、訪花量だけではなく、花の食害量にも依存している。そして、それぞれの影響の大きさは花期の進行とともに時間変化する可能性がある。植物は、個々の花の開花時期をずらすことにより、両方の影響に備えているのではないだろうか?

ヒメシャガは、2〜3個の花をつけた花茎を何本か作り、花茎内で時期をずらして開花する。また、蕾の時期から果実の成長中まで、花に食害を受ける。本研究では、ヒメシャガを用い、開花時期に依存して食害や訪花量の影響の大きさがどう変化するのかを明らかにする。

2005年に仙台市の青葉山で、花の位置ごとに食害率(食害花数/蕾数)・開花率(開花数/蕾数)・結実率(果実数/蕾数)・種子数・種子重を計測した。また、花粉制限の影響をみるため、別個体の全花に人工授粉を行い、同様に結実率・種子数・種子重を計測した。

開花順が遅い花ほど食害率が高く、そのため、開花率は低くなっていた。しかし、自然状態での結実率は遅く咲く花ほど高かった。人工授粉を行った花は自然状態よりも結実率が高く、開花順による差もなかった。よって、自然状態では花粉不足であり、遅く咲く花で結実率が高いのは、受粉量がより多かったためと考えられる。また、種子数、種子重には開花順による違いは見られなかった。

今回、遅く咲く花ほど食害率が高い一方、結実率も高かった。これは、花期の進行により訪花量が増加する割合が、食害量の増加する割合よりも大きかったためであろう。このことはヒメシャガは花期の終わりに一斉に開花した方がより多くの種子を残すことができ、適応的だということを示している。だが、食害量や訪花量の時間変化は、場所や年により変動する可能性がある。ヒメシャガは花茎内で開花をずらすことで、食害量や訪花量の時間変化の形が変わっても、安定して繁殖が行えるようにしているのかもしれない。


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ニッコウキスゲ・エゾリンドウにおける蜜分泌戦略:蜜量・蜜濃度を開花順・開花からの時間経過によっていかに変化させるか?

○加藤真也・酒井聡樹(東北大・院・生命)

植物は、ポリネーターを誘引するために蜜を分泌する。花の開花順や時間経過によって訪花要求量が異なるため、要求量に応じた蜜分泌戦略をとる必要がある。また、蜜分泌のための資源は有限であり、蜜量・濃度を訪花要求量に応じていかに変化させるかは植物にとって重要である。

本研究では、ニッコウキスゲ・エゾリンドウを用い、蜜量・蜜濃度が、開花順・開花からの時間経過によってどのように変化するのかを明らかにする。早咲き・中間・遅咲きの花それぞれについて、ニッコウキスゲでは開花日の11時・17時・23時に、エゾリンドウでは開花1日目・3日目・5日目に蜜量・濃度を測定した。それぞれの花への資源投資量を比較するために、ニッコウキスゲでは花粉・胚珠数、エゾリンドウでは蕾の乾燥重量を、各開花順の花について測定した。

その結果、以下のことがわかった。

ニッコウキスゲでは

エゾリンドウでは

以上の結果から、両種ともに、開花からの時間が経過すると蜜量を維持したまま濃度を減少させていることが明らかになった。また、ニッコウキスゲでは早咲きの花に蜜を多く投資していると考えられる。この蜜分泌戦略の適応的意義は、早い時期にポリネーターに質の高い蜜を提供することで誘引効果を大きくし、時間が経過するにつれて誘引効果を保つために蜜を出し続けるが、濃度を低くして資源を節約することにあると考えられる。


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異なる標高における湿原植物群落の構造と種多様性

○神山千穂・及川真平・彦坂幸毅(東北大・院・生命)

IPCCはこの先100年で、地球の平均気温が3〜5度上昇すると予測している。高層湿原は温暖化による衰退が懸念されている生態系の一つである。本研究は標高傾度を利用して、温度が植物群落の構造にどのような影響を与えているかを推定することを目的とした。青森県八甲田山の標高600mと1300mに位置する高層湿原を調査地として、群落構成種およびその地上部重量から、群落構造を調べた。各標高に調査区を4ヶ所設置し、地上部バイオマスを地際部からすべて刈り取り、種を同定後、種別、高さ別(地際部から5cm間隔)、器官別(同化または非同化部分)に分類し、乾燥重量を測定した。

低標高では種多様性が主に低く(9〜16種)、地上部生産性が高かったが(266〜718g/m)、高標高では、種多様性が高く(11〜17種)、生産性が低い(210〜341g/m)傾向がみられた。この結果、群落構成種数と地上部バイオマスの間に、負の相関関係が示された。また、群落構成種の機能的な分類における標高間比較から、高標高では、常緑種の群落全葉重量において占める割合が平均15.1%で、低標高の平均6.7%に比べ高いことが示された。以上の結果は、温度環境変化に伴い、群落内の温暖化が高層湿原の生産性を上げる一方、種多様性を低下させ、種組成を変化させる可能性を示唆している。


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CO2噴出地におけるオオバコの進化:生理生態的特性

○中村伊都1・小野田雄介2・河田雅圭1・彦坂幸毅1(1 東北大・院・生命, 2 Dept. of Plant Ecology, Utrecht Univ.)

近年、人間活動により大気CO2濃度は急激に上昇しており、将来の高CO2濃度環境下において、現在の植物とは異なる形質が進化するのかは重要なテーマである。我々はこの問題にアプローチするために、山形県丹生鉱泉の天然CO2噴出地(CO2 spring)付近で生育している植物の集団遺伝学的、生理生態学的調査を行ってきた。本研究では、天然CO2噴出地周辺で生育しているオオバコを用いて、長期間高CO2濃度環境下で生育してきた個体がどのような生理的、生態的性質を持っているのかを調べた。集団遺伝学的調査については、本大会一般講演(河田雅圭ら)において発表する。

CO2噴出地付近からCO2濃度の勾配に沿って5地点のオオバコの集団を移植し、2つの異なるCO2濃度に設定したOpen Top Chamber (OTC) 内で育成した。オオバコを水耕栽培することにより、同一個体の成長の変化を非破壊的に追跡して成長解析や光合成測定を行い、生育終了後に一部の個体を刈り取った。

相対成長速度(RGR)を単位面積あたりの成長速度(NAR)と個体重あたりの葉面積(LAR)に分けて解析したところ、高CO2濃度生育地由来の個体ほど、RGR、LARは高い傾向にあり、NARや単位重あたりの窒素量は低い傾向にあった。また、全個体をプールすると、NARとLARの間にはトレードオフの関係があった。高CO2濃度では、LARを増加させるように、低CO2濃度ではNARを増加させるような選択圧がかかっていることが考えられた。


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CO2噴出地におけるオオバコの進化:遺伝子流動と局所適応

○河田雅圭、中村伊都 、横山潤、松島野枝、彦坂幸毅(東北大・院・生命)

地球環境変化による生態系の変化を予測する上で、大気CO2濃度増加によって植物が進化的にどのように変化するのかを明らかにすることは重要なテーマである。この問題にアプローチをするために、天然のCO2噴出地(CO2 spring)周辺の植物の調査を行ってきた。CO2噴出地での植物の進化の研究は、進化学的に2つの重要な問題を提供する。一つは、長期間高濃度のCO2環境下で、植物 はどのような性質を進化させているのか、2つめは、周りからの遺伝子流動に抗して、局所的な環境に適応することができるのか、という問題である。われわれは、山形県丹生鉱泉の天然CO2噴出地において、オオバコを対象に、(1)高CO2環境下と低CO2環境下でどのような性質の違いがみられるのか、(2)遺伝子マーカーを用いて、高CO2環境と低CO2環境の集団で、どの程度の遺伝子流動があるのか、を調べた。(1)については本大会ポスターにおいて(中村伊都ら)発表し、本講演では、(2)について述べる予定である。

オオバコの6つマイクロサテライト遺伝子座をもちいて、1つの高CO2集団と連続する4つの低CO2集団の集団遺伝学的解析を行っ た。その結果、高低CO2集団と他の4つの低CO2集団との間で高いFSTの値を示し、高CO2集団と他の集団との間での遺伝子流動が低下していることが明らかになった。また、野外での親子個体から採集した種子から推定した自殖率はどの集団でも0.5から0.7と高い値を示した。しかし、野外の集団から推定したFIS(集団内で平均近交係数)の値は、高CO2集団のみで有意に高い値を示した。これらのことから、高CO2集団では、種子の中で自殖による個体の生存率が他殖でできた個体よりも高いためと考えられれた。このような高い自殖率によって、他集団からの遺伝子流動にもかかわらず局所適応が可能になったと考えられた。


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