日本植物学会大会第63回大会;発表要旨


光合成の窒素利用効率の種間差に対する葉内二酸化炭素拡散と光合成系への窒素分配の影響

彦坂幸毅 ・川崎智之・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 植物によって葉の光合成能力(飽和光下の最大光合成速度)は大きく異なる。特に、草本植物に比べ常緑木本植物の光合成能力は低い。それぞれの種内では、葉窒素含量と光合成能力との間に強い相関が見られる。しかし、その依存性は種によって異なり、同じ窒素含量で比べても常緑木本植物の光合成能力は低い。これは、植物にとって貴重と考えられる窒素資源の利用効率が低いことを意味する。これまでに演者らは一年生草本シロザと常緑木本シラカシの光合成特性の比較を行い、シラカシでは鍵酵素リブロース二リン酸カルボキシラーゼ(RuBPCase)への窒素の投資の割合が低いことと、RuBPCaseあたりの光合成能力が低いことを示してきた(Hikosaka et al. 1998, Func. Ecol.)。RuBPCaseあたりの光合成能力が低い原因としては、二酸化炭素の拡散が制限されることにより、葉緑体における二酸化炭素濃度が低くなっていることが考えられた。本研究では、クロロフィル蛍光を利用して葉緑体における二酸化炭素濃度を推定し、この仮説を検証した。今回は種数を増やし、シロザ(一年生草本)、シラカンバ、クヌギ(落葉木本)、アラカシ、マテバシイ、ヤブツバキ(常緑木本)の比較を行った。その結果、最も窒素あたりの光合成能力が低いヤブツバキが最も低い葉緑体二酸化炭素濃度を示した。葉緑体二酸化炭素濃度とRuBPCaseあたりの光合成能力の間には相関が認められ、当初の仮説が正しいことが示された。葉の形態観察結果と比較することにより、二酸化炭素拡散が葉によって異なる原因について考察する。
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群落内の競争下における個体の力学的安定性

長嶋寿江 (東北大・院・理・生物)
 草本群落では、上部に露出した個体の高さが比較的均一にそろっていることがよく見られる。しかし、バイオマスや種子生産の大部分を占める上層個体は、このように高さは均一でも、茎直径や個体重のばらつきが比較的大きい。演者の実験により、この‘背ぞろい’は植物が積極的に隣接個体と同様な高さとなるように高さ成長を調節している結果であることがわかってきた。しかし、個体重が異なるにもかかわらず、なぜ背ぞろいをするのだろうか。茎の高さは光の競争に重要であり、茎の太さは個体が倒れないための力学的安定性に重要である。上層個体は、隣接個体との光の競争に負けないだけの高さ成長をして、あとは力学的支持に投資するのではないだろうか。
 群落内の個体の力学的安定性を、倒伏に対する安全率によって評価した。倒伏安全率は、葉を取り除いた茎の先端に重りを付け、茎が90度曲がるときの重りの重量を、葉の生重量で割ることによって求めた。シロザの実験群落では、成長して高さが高くなるにつれて倒伏安全率は低下したが、上層の個体間では倒伏安全率に大きな違いはなかった。これは、茎が太くなるほど支持可能な重量が大きくなるが、負荷である葉量も大きくなるからだった。また、台風通過直後のオオオナモミ自然群落では、明らかに倒伏安全率が低い個体が倒伏したことから、この倒伏 安全率は個体の力学的失敗のよい指標になることが明らかになった。オオオナモミの場合も、茎が太い個体ほど葉量が大きいために茎の太さと倒伏安全率に相関は見られず、実の量のばらつきが倒伏安全率や実際の倒伏を左右していた。これらのことから、上層個体の茎の太さのばらつきは、力学的安定性の違いには反映しないことが示された。背ぞろいの生態学的意義として、今後は、周囲から突出することがどのように力学的負荷をもたらすのかを明らかにしたい。
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日本植物学会第62回大会;発表要旨


常緑広葉樹シラカシにおける光合成の温度順化

彦坂幸毅 ・村上綾子・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 光合成の温度依存性は生育温度によって変化することが知られている(温度順化)。一般的には、低温で育てた植物ほど光合成の最適温度が低い。Hikosaka (1997, Ann Bot 80: 721-730) は、光合成の温度依存性の変化が、光合成系のタンパク質の量比(バランス)の変化によって起こりうることを理論的に示した:温度依存性の異なる二つの酵素のどちらかが光合成速度を律速すると考える。低温で活性が高い酵素を増やし、高温で活性が高い酵素を減らすと光合成の最適温度は高温にシフトする。この予測の妥当性を調べるために、温度依存性が変化することが知られている常緑広葉樹シラカシ(Quercus myrsinaefolia)を異なる温度(15・30C)で生育させ、ガス交換特性を調べた。本研究では二つの部分反応として、RuBPのcarboxylationとregenerationに着目した。この二つの反応はCO2濃度を変えたときの光合成速度から比較的容易に推定できる。その結果、生育温度が変わると、RuBPのcarboxylationとregenerationの両反応とも、温度依存性が変化することがわかった。また、大気条件の光合成速度がどちらの反応に律速されているのかを調べたところ、15Cで生育した葉では10Cから35Cまで全ての温度範囲でcarboxylation反応に律速されていたが、30Cで生育した個体では、22C以上ではcarboxylation反応に律速されていたが、22C以下ではregeneration反応に律速されていた。このことから、二つの部分反応のバランスの変化が光合成速度の温度依存性の変化をもたらす要因の一つであることがわかった。
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異なる光・栄養条件で生育した一年生草本シロザにおける光阻害感受性の解析

加藤真晴 ・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
 植物の葉の光阻害耐性は生育光環境によって異なる。光阻害は消費・放散しきれなかった過剰な吸収光エネルギーが原因で起こる。光合成は吸収光エネルギーの主要な消費系であり、光合成能力は生育光環境によって異なる。このことから、生育光環境の違いによる光阻害耐性の変化は光合成能力の変化に大きな原因があると考えられている。一方、生育光環境が変わると、いくつか知られている光阻害回避系も変化し、光阻害耐性に影響を及ぼすことも考えられる。本研究では、栄養条件を変えることにより同じ生育光環境でも光合成能力の異なる葉を比較し、光阻害耐性に変化をもたらす要因を明らかにすることを目的としている。材料としてはシロザ(Chenopodium album L.)を用いた。
 弱光生育の葉は光阻害耐性が低かったが、同じ光合成能力を持った強光貧栄養生育の葉は高い光阻害耐性を持っていた。光阻害は光化学系UのD1タンパクの傷害として起こるが、D1タンパクの速い再合成が光阻害回避に大きく貢献 することが知られている。そこで、光阻害耐性の違いに対するD1タンパクのターンオーバーの関与を調べるために、タンパク合成阻害剤を用いて実験を行った。阻害剤によりD1タンパクの合成を止めると、光合成速度が同じであっても、弱光生育の方が強光生育の葉よりも強い光阻害が起きた。また、D1タンパクの合成能力は強光生育の葉で高かった。栄養条件が異なる場合は、光合成能力が大きく異なっているにもかかわらずこれらの特性の差は小さかった。これらの結果から、光阻害耐性に違いをもたらすメカニズムについて考察する。
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日本植物生理学会1999年度年会;発表要旨


異なる光・栄養条件で生育した一年生草本シロザにおける強光耐性の解析

加藤真晴 ・彦坂幸毅・広瀬忠樹(東北大・院・理・生物)
光阻害は消費・放散しきれなかった過剰な吸収光エネルギーが原因で起こると考えられているが、葉の強光耐性は同一種内であっても生育光環境によって異なる。光合成は吸収光エネルギーの主要な消費系であり、光合成能力は生育光環境によって異なる。このことから、光合成能力の違いが強光耐性の違いをもたらすと考えられてきた。一方、近年は様々な光阻害回避系が着目されている。しかし、各光阻害回避系が強光耐性の可塑性にどれだけ貢献しているのかはよくわかっていない。我々はこれまでに一年生草本シロザを材料に、強光耐性の可塑性について調べてきた。特に光合成能力の違いが持つ意味を明らかにするため、強光・富栄養で生育させた光合成能力が高い葉(A)、弱光生育のために光合成能力が低い葉(B)、強光生育だが貧栄養のために低い光合成能力を持つ葉(C)の比較を行っている。これまでに、強光耐性もD1タンパクの修復能力も生育条件で決まることを明らかにし(A=C>B)、光合成能力以外の光阻害回避系の重要性を示唆した。今回はクロロフィル蛍光の解析により熱放散能力を調べた結果を報告する。
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日本哺乳類学会1998年度大会;発表要旨


シバ群落を利用するシカの群落利用と採食行動の季節変化

伊藤健彦 (東北大・院・理・生物)・高槻成紀(東大・総合研究博物館)
 宮城県金華山島にはニホンジカが高密度で生息しており、密度は森林よりも草原、特にシバ群落で高い。シカは夏にシバ群落をよく利用し、行動圏内に占めるシバ群落の割合も夏に最大であった。シカがなぜそのような群落利用をするのかを解明するために、成獣メス2個体(a, b)の個体追跡を行い、利用している群落と行動を記録した。調査は1997年11月に開始し、1998年8月に夏のデータを取って終了する。
 秋・冬・春を比較すると、観察時間のうちシバ群落に滞在した時間の割合は、2頭とも秋に最大(a. 94.6%, b. 92.7%)で冬減少(a. 24.9%, b. 37.7%)した。冬と春はイヌシデ林やモミ林などの森林をよく利用するようになった。観察時間のうち採食に費やす割合は秋(a. 29.1%, b. 46.0%)よりも冬に大きくなり(a. 71.0%, b. 62.7%)、逆に休息時間の割合は冬小さかった(秋: a. 48.1%, b. 41.1%, 冬: a. 18.2%, b. 0.0%)。
 また、同じシバ群落で採食していても、季節によって利用する植物が異なっていた。シバ群落での採食を(1)シバ、(2)低木、(3)低木下の草本に分けると、秋・冬には低木下の草本がよく使われたが(秋: a. 64.6%, b. 31.6%, 冬: a. 26.8%, b. 33.9%)、春にはほとん ど使われなくなり(a. 0.0%, b. 1.5%)、低木の割合が増加した(a. 13.3 %, b. 1.5%)。
 夏は秋と同様にシバ群落をよく利用するが、シバを採食する割合が高いものと予想される。この点については発表時に報告する。
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