植物生態学講座・2003年度講座セミナー要旨 (04.03.15更新)


○開花時期・繁殖コスト・繁殖収量

広瀬忠樹

オオオナモミを用いて、栄養条件・発芽時期・開花時期・CO2濃度が繁殖収量にあたえる影響について調べたこれまでの研究を振り返る。繁殖収量は乾物生産量と、その繁殖器官への分配によって決まるが、窒素は2つの点で重要ななたらきをする。ひとつは葉の窒素が乾物生産量を決めること、他は種子自身が成長に多量の窒素を必要とすることである。ここから、1年草の繁殖のコストは栄養器官とくに葉からの窒素の転流であると結論し、繁殖収量決定のモデルを提案する。


○ヤマオダマキにおける、花序内の花間の雄期・雌期の長さの変異と性投資の違い

板垣智之

ひとつの花序(花茎上の花の集まり)内でも花ごとに雌雄の繁殖器官への資源分配が異なることがいくつかの両性花植物で知られている。これは、花序内の花ごとに送受粉環境が異なり、雌雄の繁殖成功の違いがもたらされるからと考えられる。その要因として、これまでに雌雄異熟性、ポリネーターの行動、および花序サイズの変化などが示されている。しかし、これらの仮説にあてはまらない植物もあり、花間の性投資の違いをもたらす要因についての研究は充分ではないだろう。

本研究では、開花期間の長さと雌雄の繁殖成功との関係に着目した。一般に、開花期間が長いほど多くの花粉を送受粉できると期待される。そのため、花序内の花間で開花期間の長さが異なる場合、繁殖成功も異なることが考えられる。その場合、期待される繁殖成功に応じて、花間の資源投資量も異なるのではないだろうか?そこで、ヤマオダマキを材料に、花序内の開花の早い花と遅い花とで、雄期間・雌期間の長さ、雌雄の繁殖器官への資源投資量、および雌雄の繁殖成功を比較した。

その結果、開花の早い花・遅い花とも雄期間が長くなるほど多くの花粉が放出されていた。このことから、雄期間が長い花ほど雄繁殖成功が高いといえる。また、開花の早い花ほど雄期間が長く、花あたりの花粉数も多かった。したがって、これらの花は、雄期間が長いために多くの花粉を放出し、高い雄繁殖成功を得ていると考えられる。

一方、雌期間の長さと種子数とには有意な相関がなかった。したがって、雌期間の長さは雌器官への資源投資に影響しないことが示唆される。しかし、開花の早い花ほど雌期間も長く、花あたり胚珠数・種子数も多かった。雌繁殖器官への資源投資量および雌繁殖成功には、雌期間の長さ以外の要因(花間の資源獲得のしやすさなど)が影響していると考えられる。


○異なる光・窒素条件で生育したシロザの葉からの窒素回収

安村有子

※イントロ&マテメソ 窒素は植物の成長に欠かせない重要な資源であるとともに、不足しがちな資源でもある。このため、植物は枯れゆく葉から窒素を回収し他器官へ転流するという再利用機構を備えている。葉からの窒素回収の程度は一定ではなく、生育条件などによって変化することが知られている。
では葉からの窒素回収の程度はどのような機構によって決定しているのであろうか?本研究では、窒素回収が、植物個体の「窒素の需要と供給のバランス」と「個体内に再利用可能な窒素がどれだけあるか」によって決定していると仮説をたて検証した。
2002年、圃場にて一年生草本シロザを異なる光・窒素条件で生育させ、定期的に層別刈り取りと個葉(下から10、18、25番目の葉)のサンプリングを行った。これらのデータをもとに解析を行った。

※結果&結論 個葉の窒素回収の程度は、処理などによって変化した。一般的に、窒素回収効率は、「窒素の不足量(需要-供給)」に対して「個体内の再利用可能な窒素」が多いほど低くなるという傾向が見られた。また、もともと生葉の窒素含有量に関わらず、窒素の回収が終了した枯葉の窒素含有量はある一定の値より低くならないようだった。

・・・これらの結果をもとに、考えられる窒素回収決定機構の概要を描く(予定)。


○冷温帯林における人工ギャップ形成後の林床植物の光合成光順化

小口理一

 ギャップ形成による光環境の突然の改善は、森林の更新に欠かせないイベントであ る。林床に存在する実生の多くは、このイベントがなければ成熟することができな い。また、この光環境の改善に対する植物の応答の種間差は、種の共存・多様性の維 持に重要な働きを持つと考えられている。

 植物はギャップ形成による突然の光環境の改善に対して、効率よく光合成を行うた めに葉の光合成光順化を行う。しかし、その順化能力には種間差がある。なぜ種によ って順化能力が異なるのかは、そのメカニズム、生態学的意義ともに明らかになって いない。これまでの研究では、遷移系列上の出現時期によって順化能力が異なるので はないかという提案がなされたが、研究によって順化能力と遷移系列との間の傾向は 異なり、種間差の生態学的意義を説明できているとは言い難い。

 植物の光環境への応答は大変に敏感なものであるにもかかわらず、これまでの光順 化の研究のほとんどが温室や人工気象室などの人工的な実験条件下で行われてきた。 これらの条件は自然条件で植物が経験するようなギャップ形成などによる光環境の変 化を忠実に再現できておらず、植物の自然条件での応答を評価できていないことが考 えられる。そこで、本研究では北大苫小牧研究林において多種の実生が存在する閉鎖 林分で人工的にギャップを形成し、自然環境における光環境の改善に対する実生の応 答を調べた。

 また、演者のこれまでの研究により、成熟葉が光環境の改善に対して順化するため には、あらかじめ葉を厚くするか、展開終了後も葉の厚さを厚くできるために葉肉細 胞の形態的可塑性を保っている必要があることが示唆された。そこで、光合成光順化 に対する葉の形態学的制限がどこまで一般的に見られるのか、種の生態学的地位とは どのような関係が見られるのか、別の順化の方法はあるのかを調べるため、葉の解剖 学的性質の変化を追跡した。

 セミナーでは、遷移先駆種(ホオノキ、ハリギリ)、遷移後期種(ミズナラ、イタ ヤカエデ)、亜高木種(アオダモ、ハウチワカエデ)、つる植物(ツルアジサイ、イ ワガラミ)という生活様式の異なる8種についての結果を中心に、ギャップ形成後の 応答を紹介する。前半で生理的性質の応答を紹介し、後半は時間が許せば形態的性質 の応答(まだ解析途中)を紹介する。


○トウホクサンショウウオのオスにおける2つの個体群間での異なる繁殖行動について

太田宏

 サンショウウオ類の成体は、普段は林床の落ち葉の下や土の中で生活している。このため、あまり人目に触れることがないが、繁殖期には水系にまとまった個体数が集まり、比較的目につきやすい。こうした理由からサンショウウオ類の非繁殖期の生態については未知の部分が多いが、繁殖行動については、ある程度研究されてきた。有尾目全体では体内受精のクループが多く見受けられるが、サンショウウオ科は体外受精であり、生涯に多数回繁殖し、また、オスは1繁殖期に何度も放精することが可能である(メスは1シーズンに1回繁殖)。このため、オスが繁殖成功度を上げるためには、できるだけ繁殖池に長く滞在し、なるべく多くのメスの産卵に遭遇して、卵嚢を確保して放精することが効果的であると推測される。カスミサンショウウオ、ホクリクサンショウウオでは、この推測通りオスが好適な産卵場所に縄張りを作り、そこを訪れるメスを独占しようとすることが報告されている。一方、クロサンショウウオでは明確な縄張り行動は見られず、一匹の産卵メスの周りに多くのオスが取り付いてメイティング・ボールを形成することが知られている。この繁殖様式の違いがそれぞれの種に特有なものなのかどうかは、はっきり分かっていない。私はトウホクサンショウウオ(Hynobius lichenatus)の繁殖池への出現の様子について、仙台市郊外の2地点、上愛子の岩元山国有林(標高200m)、泉ヶ岳中腹の三ツ峰山国有林(標高800m)で、観察を続けているが、同一種内においてもオスの繁殖行動に違いがあるのではないかと思われる結果を得たのでお話しする。

 岩元山の繁殖場所は約30mの間に5つの水溜が連続している場所で、一部のオスは産卵が本格化する3〜4週間前に確認された。これらの個体は5つの水溜間を移動せず、各々同じ水溜で繁殖期を通して再捕された。この様に、岩元山ではオスが単に長く産卵場所に留まるだけでなく、狭い特定の場所に執着することが分かった(縄張りの形成)。泉ヶ岳の繁殖池は山間の湿地で、岩元山に比べて、個体数が多く、卵嚢数も多かったが、オスの再捕率が低く、大部分のオスが一度しか捕獲されなかった。よって、泉ヶ岳では岩元山と異なって、オスの産卵池での滞在期間が短く、縄張りも形成されていないと考えられた。クロサンショウウオの様なメイティングボールが形成されているかどうかは確認できていないが、少なくとも、固定した縄張りを形成するという行動は同一種でも環境によって変化することが明らかになった。

 このオスの振るまいの違いの要因であるが、泉ヶ岳のオスは岩元山のオスに比べて体サイズが小さいので、これが原因かと考えたが、岩元山の中でも必ずしも大きなオスが長期間、池に留まっているとは限らず、単純に体サイズだけでオスの滞在期間が決まっているとは考えにくい。また、両地点でのオスの個体数(密度)の差について考えて見たが、良い解答が得られず、次にメスの個体数(オスにとっての繁殖機会)について考えあわせてみた結果、以下のような考察をするに至った。オスは何度も放精可能であるとはいえ、持っている精子の量には限りがあるので、そもそも放精可能な回数にも制限がある。泉ヶ岳では岩元山よりも一晩あたりにより多くのメスが産卵するので、オスの一晩あたりの放精回数もよりも多いと考えられる。その上、泉ヶ岳のオスの方が体サイズが小さいために、持っている精子の量も少ないから泉ヶ岳ではオスの繁殖池での滞在期間が短くなっていると考えられる。また、仮に体サイズの大きいオスがより多くの繁殖機会を得られるとするならば、多くのメスが短期間に出現する環境下では、体サイズの大きなオスの方が、かえって短期間のうちに精子を枯渇させて繁殖池から去っていき、繁殖機会を得られなかった小さめのオスの方がいつまでも残っているということも考えられる。このことが、滞在期間の長さと体サイズが単純に相関しない理由で、滞在期間が短く、見かけ上、あまり繁殖成功していないようなオスも実は十分に(能力いっぱい)繁殖に参加しているのかも知れない。


○河畔性樹木オニグルミの繁殖特性と遺伝子流動

木村恵(東北大学大学院農学研究科)*川渡

近年、河畔林はその公益的機能が注目されていながらも、河川改修工事や堰堤工事により伐採や分断化が進んでいる。このような立地環境の変化や生育地の分断化は、河畔に生育する樹木の繁殖成功(種子生産・実生の更新)や個体群の遺伝的構造(遺伝的多様性)に大きな影響を与え、ひいては河畔林の存続に影響を与えていることが予測される。本研究では河畔林の保全・管理を行うための基礎的知見を得ることを目的として、河畔林構成種であるオニグルミJuglans ailanthifoliaの繁殖ステージに着目し調査を行い、以下の結果を得た。

 1)開花フェノロジーの調査からオニグルミは1つの集団内に雌性先熟個体と雄性先熟個体の2つの開花タイプが存在するheterodichogamyであることがわかった。また、雌性先熟・雄性先熟タイプそれぞれの雌花の開花時期が他方のタイプの雄花の開花時期と同調することから両タイプ間で相補的に交配しているものと考えられた。
 2)2つのタイプ間で繁殖努力(開花量)と繁殖成功(結実量)の比較を行ったところ両タイプ間で差はみられなかった。
 3)雄としての繁殖成功量(花粉親としてどれだけ種子を生産したのか)には開花フェノロジーと開花量、個体間距離、開花期間の一致度合いなどが影響していた。
 4)さらに、開花個体密度の異なる北海道の林分において花粉流動解析を行ったところ、局所的な開花個体密度がタイプ間での交配の割合に影響を与えていることがわかった。

 これらの結果からオニグルミでは雌性先熟、雄性先熟の両開花タイプ間で相補的に開花・交配しており、効率的に繁殖を行っていることが推察された。しかし、河畔林の分断化などによって開花タイプの存在比に偏りが生じたり、個体間距離が増加した場合には繁殖が阻害されやすいと考えられ、河畔林の維持に影響を及ぼす可能性が示唆された。


○マイクロサテライトマーカーを用いた親子解析によるブナの実生更新に関する研究

丸山薫 (生物共生科学研究室)*川渡

 ブナは日本の落葉広葉樹林を構成する代表的な樹種である。わが国における森林資源の持続的な維持管理を行うためには、ブナ林の遺伝的多様性維持機構や天然更新メカニズムに関する知見を集積する必要がある。しかし、その基礎的な情報である実生更新の実態、すなわち「ブナの親個体(成木)は子ども個体(実生)をどれだけ生産し、どのような場所に分布させているのか」ということを、個体レベルで理解するのはこれまで不可能だった。そこで本研究では、出現直後のブナ実生に付着した種子親由来の組織である果皮のDNAとブナ成木のDNAを用いてマイクロサテライトマーカーによる個体識別を行い、ブナ天然林における種子親−実生間の親子関係を明らかにした。

 調査区として宮城県栗駒山麓のブナ天然林に90m×90mの方形プロットを設置し、調査区内に発生した1258個体のブナ当年生実生について、調査区およびその周辺域(150m×150m)に生育する全成木(253個体)の中から種子親を特定した。

 分析に用いた3つのマイクロサテライト遺伝子座はいずれも高い多型性を示し、調査区内のすべての成木を異なる遺伝子型を持つ個体として識別することができた。種子親解析の結果、1013個体の実生の種子親が特定され、種子親ごとの実生生産数および実生の分布パターンが明らかになった。そして、個体サイズが大きいほど実生生産数は多い傾向があることが分かった。また、多くの実生は種子親の周囲20m以内の位置に出現するが、中には50m以上離れた場所で出現する個体も見られた。さらにその分布パターンから、実生の分布には種子段階での風による散布や、げっ歯類の貯食行動を介した長距離散布が関わっていることも示唆された。

 今後は実生の生残過程を継続して調査し、その生存に関わる要因について調べていきたいと考えている。実生の生存には、主に2つの要因が影響していると考えられる。一つはどの家系に由来するのかという遺伝的な要因、もう一つは光環境などの非生物的環境および下層植生とそれにともなう草食動物の活動性といった生物的環境などの環境要因である。そこで、調査地における家系ごとの実生生存率や異なる光条件に設定したコントロール環境下における家系ごとの実生の成長量を解析することにより、実生の生存には遺伝的要因と環境要因がどの程度関わっているのかを明らかにしたいと考えている。これらの情報はブナ林における天然更新の初期段階を理解する上で重要であると考えられる。


○気候と草原の生産力からみるモンゴルの遊牧

ナチン

 乾燥と半乾燥地では,潜在蒸散量が降水量を上回るため,水分は植物生育の主な制限要因である.このような地域では,植物の生産が降水量と正の相関を呈する(Lieth 1973).生産力の低いシステムは採食圧に敏感であり,いったんダメージを受けると,その回復が生産力の高いシステムより遅いといわれている(Crawley 1997).モンゴル高原の平均海抜高は1000 mを超えている.気候は一年を通して乾燥し,植物の生育に適する温暖な季節が4ヶ月しかない.植生は北から南に減小する降水量の勾配を沿って,タイガ,森林草原,典型草原,乾燥草原,ゴビと分布している.高原面積のほとんどを占める自然草地に,遊牧が幾千年にわたって営まられて来たと言われている(To'morjav 1989).遊牧とは,草原の生産力を効率的且つ持続的に利用するため,家畜を時間的,空間的に移動させる生産様式である.

 この研究は気候条件と草原の生産力の観点から,モンゴル草原に遊牧が成り立つメカニズムを明らかにすることを目的とする.そのため,異なるタイプの草原の生産力と草原群落の種の多様性,放牧圧,そこで営まれている牧畜の形態を調べ,次のような結果が得られた:

a. 草原の生産力が気候条件の影響を強く受けている.
b. 遊牧が気候条件と共に変動する草原の生産力に依存している.特にイネ科の牧草に対する依存性が高い.
c. 遊牧は草原の生産力の変動にあわせて,採食圧を調整する機能がある.

 遊牧は気候による草原生産力の年々変化に適応した生産様式である.また,採食圧の時間的と空間的の調整を通じて,草原の生産力の年々変動に柔軟に対応し,草原の持続性の維持に貢献していることが示唆された.


○ショウジョウバカマにおける開花日に依存した自殖率変化 -ポリネーターと個体サイズの影響-

森長真一

 多くの植物集団において、開花日には個体間で違いがあり、種子の生産量が開花日に依存して変化することが知られている。しかしながら、自家和合性植物の場合、開花日に依存して種子の生産量だけでなく遺伝的質(自殖or他殖)も変化する可能性が考えられる。自殖種子は他殖種子に比べ適応度が低いことから、開花日の進化を考える上でも種子の遺伝的質を考慮することは重要である。

 本研究では、早春に開花する自家和合性草本ショウジョウバカマをもちいて、「開花日に依存して自殖率は変化するのか?」調査した。また自殖率変化の要因として「ポリネーター(の季節変化)と個体サイズ(依存の繁殖特性)の影響」を評価した。

 その結果、遅咲き個体ほど自殖率が低下した。これは、自殖種子は開花日に依存せず、他殖種子は遅咲き個体ほど増加したためであった。また、シーズン初期では自殖促進型のハエのみであったが、シーズン後期ほど他殖促進型のハチが増加した。一方、個体サイズと開花日・種子生産に有意な関係はみられなかった。

 これらの結果は、1. 開花日に依存して種子の遺伝的質が変化すること、2. 遅咲き個体は近交弱勢がはたらかない他殖種子を多くつくるため、雌適応度において早咲き個体よりも有利であること、3. 開花日に依存した自殖率の変化は、ハエからハチへのポリネーターの季節変化による可能性が高く、個体サイズの影響は低いこと、4.開花日の進化を考える上で、自殖or他殖を区別することや、ポリネーターとの相互作用を考慮に入れることが重要であることを示唆している。


○高CO2条件下における様々な一年草の繁殖収量決定のメカニズム

宮城佳明

背景 大気のCO2濃度は80年後には現在の倍の700ppmに達すると予測されている。このような流れの中で、植物が高CO2環境に対してどのような応答を示すのかを調べることは非常に興味深い。高CO2条件下では一般的に光合成速度が上昇する。しかし、その光合成速度上昇の度合いは、種間や種内において差がある。また、中には減少する個体もいる。高CO2条件下で光合成能力が低下する原因にはいくつかあるが、今回は「シンク・ソースバランス」について説明する。葉をソース、光合成産物の消費器官をシンクと考えたときに、高CO2条件下で光合成速度が上がり光合成産物が多く作られても、それを受け取るシンクが不足するために光合成速度が減少するというものである。それならば、高CO2条件下では植物はシンクを大きくしようとするはずであるが、シンクを形成するためには炭素の他に窒素も必要であり(窒素はタンパク質の主な構成要素である)、窒素が制限要因になることが多い。

仮説 種子を窒素のシンク器官と考えたとき、種子タンパク質濃度が種子のシンク能力を決定しており、高CO2処理の影響は種子タンパク質濃度と密接に関係している。

実験方法 様々な種子タンパク質濃度をもつ一年草を10種類用いて、OTC内で育てる。各種ともambientとHighCO2のchamberで2ペア配置する。開花時と繁殖終了時にサンプリングをし、各器官の乾燥重量と窒素濃度を測定する。栄養条件はすべて一定。

結果 当日は9月17日までの実験結果をお見せします。


○ヤマユリの花の香り:その時間・サイズ依存変化が繁殖成功に与える影響

太田彩子

Introduction 植物の中には香りを用いて送粉者を誘引しているものがいる。先行研究では種(集団)間での香りの送粉シンドロームは言われてきている。集団間で送粉者がちがえば花の香りの種類も異なっている。では花の香りが異なるのは集団間だけであろうか。それとも集団内の個体間でも香りに変異があるのだろうか。先行研究で、昼夜の送粉者の違いにより香りも変化していることがわかっている。また、開花からの日数に応じて、訪花の要求量も低下することがわかっている。訪花の要求量が変化すれば、誘引形質である香りも変化すると予想される。昼夜、開花からの日数などの時間的な要因の他にも、集団内の個体間で大きく差の出る要因がある。それは個体サイズだ。繁殖形質(e.g.性比)が個体サイズに依存して変化する事はよく知られている。香りは送粉者誘引に大きく関わる形質であることを考えると、個体サイズに応じて香りを変化させていることが予想される。 

目的 花の香りは、時間(昼夜・開花からの日数)依存的に変化するのか。また、花の香りは、個体サイズ依存的に変化するのか。もし変化するのなら、花の香りの変化は、繁殖成功にどのような影響を与えるのかを明らかにすること

実験方法 ヤマユリ(ユリ科)を用いて以下の実験を行った。
1.送粉者の昼夜変化(昼夜の送粉者を特定)
2.香りの時間依存変化(香りの種類と量を、昼夜・開花からの日数で比較)
3.香りの個体サイズ依存変化(香りの種類と量を個体サイズとの関連で比較)
4.性比(性比を、個体サイズとの関連で比較)
5.繁殖成功(各種袋がけ処理を行い繁殖成功を比較)
なお、香りの採集は開花日から2日目、5日目の個体から、昼(12-13)夜(19-20)の間に採集。

結果 当日は現在までの解析結果をお見せします。


○「シロザにおける低温下での強光耐性の順化」 

小野広善

興味 生物の一生の間では環境は大きく変化するが、植物は移動できないため環境の変化の影響を受けやすい。植物の環境は常に好適ではなく、植物体を傷つけることもある。移動できないからこそ植物は、そのような環境変動に屈しないため積極的に形態的・生理的特徴を変化させる。 

背景 光合成には光が必要であるが、光が強すぎると利用しきれないエネルギーが生じ、光合成系の光化学系IIが傷害を受け、光合成能力は低下してしまう。これを光阻害と呼ぶ。これに対して植物は光化学系IIを修復する機構(修復機構)と傷害が起こらないようにする機構(光防御機構)を複数持っており、これらが働かなければ光合成能力が維持できない。環境が変化すると光阻害の起こり易さも変化するので、植物は光防御・修復機構の能力を変えることによって環境に馴化する。この馴化の方法は生育条件の違いや環境変化の仕方によっても異なることが、近年わかってきた。環境が悪化したときに、どの程度どのような速さで馴化を起こせるかは、変化する環境での光合成量を決める重要な要素になると考えられる。

実験概要 高温で育てた植物を低温にさらすと光阻害が起こり易いが、これに対し数日〜数週間その低温下で育った個体は、低温での光阻害に対する耐性を上昇させて低温に馴化することが知られている。そこで、この低温下での光阻害耐性の変化が、光化学系IIの傷害の防御・修復機構のうちどれがどのくらいの期間でどの程度変化することによって起こるのかを、人工気象器で生育させたシロザの光合成速度やクロロフィル蛍光の測定から分析する。


○異なるPNUE(光合成の窒素利用効率)をもつ種間における葉内窒素分配の比較
A comparison of nitrogen allocation in leaves among species with different PNUE(photosynthetic nitrogen-use efficiency)

重野亜紀

 窒素はタンパク質や核酸などの主要な構成元素であるが、自然環境下では不足気味で植物は窒素を効率よく利用しなければならない。植物体中で特に窒素濃度が高いのは葉で、その中でも葉の窒素の多くは光合成系タンパクへ分配されている。そのため、同一種内では光合成速度と窒素含量は強い相関を持つ。光合成の窒素利用効率(PNUE:photosynthetic nitrogen-use efficiency)は同一種内では大きく変化することはない。
 しかし種間ではPNUEは大きく異なる。葉の寿命が長い種ほど光合成速度、PNUEが低く、LMA(葉重/葉面積)が高く、Nmass(乾燥重量あたりの窒素濃度)が低いということがReichら(1991)などの研究によって明らかにされた。
 なぜこのようにPNUEは多様なのであろう。種間でのPNUEの違いの原因は以下の四つに分けられることをField and Mooney(1986)は指摘した。
1)葉緑体内までのCO2拡散
2)葉の窒素のどれだけを光合成系に分配するか
3)光合成系の窒素をどのように分配するか
4)Rubiscoの比活性(酵素の量あたりの反応速度)
 上記の2)と3)に着目し、近縁な種を用いたtakashimaら(2003)の実験では、落葉樹に比べ常緑樹はPNUEが低く、Rubiscoへの窒素分配が低いことが明らかにされた。また、細胞壁に関与する構造性タンパクへの窒素分配が落葉樹よりも常緑樹で高いことが示された。つまり、常緑樹は落葉樹に比べ、構造に多くの窒素を投資しているため、PNUEが低下していることが示唆された。
 しかし、それは近縁な種間において明らかにされたことであり、また、実験環境下で生育された植物を用いた実験である。野外に生育する、様々な種間においての葉内窒素分配はどうなっているのであろう。
 そこで本研究では、野外においてのPNUEの違いと葉内窒素分配を調べる。上記のような葉内窒素分配が、野外に生育している植物でもみられるのだろうか。それを検証するために、野外に生育している植物26種を用いる。調査する種を近縁な種でなく幅広く設定することで、より一般性が言えると考えている。

結果 当日までの結果をお見せします。


○個体群内で競争する個体のサイズと繁殖収量の関係について

明地浩氣

同年齢個体群において、同一条件下に育つ植物は同じような成長をすると考えられる。しかし実際の群落では個体群の密度が高いと時間と共に大きなサイズの違いが見られる。そして、最終的に繁殖量(花や果実)にも差が出てくる。そこで、どのようにサイズ差が形成されるのか?という疑問が生じ、これに対して栄養成長期間における個体サイズ差の形成過程や、決定機構について研究がなされてきた。しかし、それらの研究は繁殖量の個体サイズ差についてや、どのように繁殖量に差が生じているのかを示したものではなかった。そこで、当初の疑問に対する答えとして、繁殖量の個体差を説明することは重要だと思われる。

繁殖量は以下のように表すことができる。

繁殖量 = 繁殖期間の成長量 × 繁殖期間への資源転流率
    = (繁殖期間の成長速度 × 繁殖期間の長さ)× 繁殖期間への資源転流率

ここで、繁殖量、繁殖期間の成長量、資源転流率の個体サイズに対する変化を見ることで、サイズの違う個体間で繁殖量が何によって決まっているのか調べることが出来る。また、成長量は光合成速度に依存するため、光合成速度を決める要因の差異からも繁殖量差の決定について調べることが出来る。

このようにして、本研究ではサイズ差のある個体間で繁殖量の決定要因は何か、ということについて調べていく予定です。

当日は研究内容の紹介という形になります。
よろしくお願いします。


○異なる緯度から得たオオバコ遺伝型間における温度と光合成の関係

石川数正

 異なる温度環境に生育する植物は、それぞれの生育地の温度域で光合成を効率的に行う。そのため、生育地によって温度と光合成の関係が異なる。また、同一種と分類されている植物でも、遺伝型によって温度と光合成の関係が異なることが知られている(Slatyer 1977)。
 種(遺伝型)間に、温度と光合成の関係の違いがどのようなメカニズムによってもたらされるのかはよくわかっていない。この違いをもたらすと考えられるメカニズムの一つのとしてHikosaka(1997)理論がある。これは光合成速度を決める2つの部分反応のバランスに注目したものである。RuBP再生能力が相対的にルビスコ能力よりも高くなると光合成の最適温度が低温にシフトし、逆にルビスコ能力が相対的に高くなると光合成の最適温度が高温にシフトするというものである。つまり、種(遺伝型)間で生育温度(habitat)が低い植物は相対的にRuBP能力が高く、生育温度(habitat)が高い植物はルビスコ能力が高くなっていると予想される。
 この仮説を検証するために本研究では、北海道・仙台・静岡・沖縄からオオバコを採取し、グロースチャンバーで生育させた。生育温度は15℃と30℃に設定した。このようにして、温度-光合成曲線の違いをもたらすメカニズムを調べている。

本日の発表では、研究内容を中心に発表します。


○Age の異なるブナにおける被食応答

岡本絵里

 移動することのできない植物は常に被食(食べられること)の脅威にさらされている。植物にとって食べられることは利益にならない。植物は被食によって成長に悪影響が出ないように2種類の応答をすることが知られている。誘導防御と補償的光合成である。誘導防御に関しては、そのメカニズムは炭素−窒素バランス仮説(Tuomi et al. 1984)によって説明できるとされている。しかし、補償的光合成に関しては、それがどういう種あるいはどういう条件で起こるのかほとんどわかっていない。
 Hikosaka et al. (投稿中) は補償的光合成も炭素−窒素バランス仮説の当てはめることができることを示唆した。誘導防御は木本で起きることが多く、補償的光合成は草本で起こることが多いとされてきた。しかし、木本でも実生は補償的光合成をすることから、呼吸による炭素の消費が被食応答に関わっているのではないかと考察した。そこで、呼吸活性の高い個体では、補償的光合成が起こりやすく、呼吸活性の低い個体では、誘導防御が高いという仮説が立てられた。
 この仮説を検証するために、本研究では、同じ種の木本でAge の異なる実生と稚樹を使って奪葉実験を行っている。呼吸活性の違いから被食応答の違いをみている。

当日は、測定が済んでいる結果の紹介をします。


○親個体の資源栄養バランスが種子の数と大きさに与える影響

藤岡宏太

種子の大きさと数のトレードオフに関する有名な古典的研究としてSMITH&FRETWELL(1974)のモデルがあります。このモデルは以後の種子のトレードオフの研究に大きな影響を与えてきましたが、その1つとしてSMITH&FRETWELL(1974)のモデルに維持呼吸による資源の目減りの効果を考慮したSAKAI&HARADA(2001)モデルがあります。私の研究の目的は、「種子の大きさと数のトレードオフにおける維持呼吸の重要性を  明らかにしたい」ということです。

どのような研究をするかというと親個体が維持呼吸による資源の目減りをなるべく抑えようとするなら、親個体が種子に使える資源中の栄養バランス(炭素Cと窒素Nの割合)を変えてやるとそれに応じて種子の大きさと数を変えるだろう、というものです。つまりC/Nが大きければ、Cに余裕があるので維持呼吸による資源の目減りがあっても大きな種子が作れるだろうし、C/Nが小さければ、Cを無駄にはできないので維持呼吸による目減りを抑えようと小さい種子を作るだろう。ということです。

窒素施肥によってC/Nの大きさに変化をつけました。まだほとんど全くデータが取れていませんががんばって発表するのでよろしくお願いします。


○ヒメシャガにおける花被片の機能的分化

森長真一

花の形は多様であるが、その多様性の大部分は花弁(花被片)の多様性であるといえる。そのため、もし花の形の進化を理解しようとするならば、花弁の形とその機能を理解することが必要がある。同じ形の花弁(花被片)からなる花における花弁(花被片)の機能は古くから数多く研究されており、「ポリネーターの誘引に加え、オスやメスやオスかつメス繁殖成功に関係している」と報告がされてきた。しかしながら、異なる形の花弁(花被片)からなる花の場合、単純に花弁(花被片)の機能を議論することはできない。なぜならば、花弁(花被片)ごとの形の違いが、機能の違いと関係しているかも知れないからである。

そこで本研究では、
2種類の形の花被片からなる花をもつヒメシャガを材料に、
 1. それぞれの花被片の長さを人為的に変えることにより、その対ポリネーター的・性的機能を調査した。
もしそれぞれの花被片で「性」が異なっていたら、
 2. 「性」の異なる花被片ごとに、「花被片への投資 と オスor メスへの投資(性投資)」の相関関係が変化するか調査した。(予測: 花被片Aがオスであった場合、「花被片Aへの投資 と オスへの投資」の相関は強く、「花被片Aへの投資 と メスへの投資」の相関は弱い)

その結果、
 1. 外花被片は、ポリネーターの誘引と着花に必要で、オスとメス繁殖成功に貢献しており、現在の長さが適応的であった。一方、内花被片は、ポリネーターの誘引に必要で、オス繁殖成功に貢献しており、現在よりも短い長さが適応的であった。なぜ内花被片が現在より短くならないのかは、今の所わからない。しかし、花被片ごとに「性」が異なることを検出したことは画期的であると考えている。
 2. 「性」の異なる花被片ごとに、「花被片への投資 と オスor メスへの投資(性投資)」の相関関係は変化しなかった(予測はハズレた)。その理由のひとつに、外花被片と内花被片の間には強い表現型相関があることがあげられる。今後は、この予測の一般性を検証するために「他の植物ではこれらの相関関係がどう変化するのか?」調査する必要がある。


○Dynamics of flower constancy in individual bumblebees.
 (Implication of different temporal forms of memory for flower choice)
 マルハナバチの各個体における定花性の動態(花選択と記憶メカニズムとの関連)

石井博(北大)

 マルハナバチなどの多くのポリネーターは、後天的な花選好性(=Flowerconstancy: 定花性)を持つことが知られている。例えば、同じコロニー由来の別のハチ個体が、同じ採餌場で、しばしば異なる種類の花を選択的に好んで採餌する。このFlower constancyは、植物にとって同種間の花粉移動を促進するといった重要な意味を持つ。
 Flower constancyが起こるメカニズムについては、主に2つの仮説が議論されてきた。一つはDarwin's interference hypothesis(ポリネーターが、いくつもの花に対応した採餌技術を同時に記憶しておくことができないため、1つ又は少数の種類の花に専門化することで効率的に採餌している)、もう一つはSearch image hypothesis(ポリネーターが花を効率的に見つけ出すためにサーチイメージを使っている為、サーチイメージに使っている花のみを効率的に見つけだしている)である。この2つの説に共通しているのは、記憶や認知といった神経系の制約が、constancyの原因になっているということである。しかし、神経系のメカニズムとconstancyを結びつけて解析した研究はほとんどない。
 ハチの神経系のメカニズムに関しては、近年Menzel (1999)などによって階層的な記憶構造の存在が明らかにされつつある。たとえばミツバチには「短期記憶」から「長期記憶」までの、少なくとも5種類の記憶形態があるようだ。長期の記憶は多くの記憶が蓄えられるが検索に時間がかかり、短期の記憶は容量は小さく変化しやすいが容易に検索できる。
 以上のメカニズムを考慮しChittaka et. al. (1999)は、長期記憶はconstancyを説明するには容量が大きすぎるため、短期記憶がconstancyの原因になりうると推測している。つまり、ハチが同じ種類の花ばかりを連続で訪問するのは、直前に訪れた花の情報が最も呼び出しやすい情報として短期記憶に蓄えられているからだと推測している。しかし、ハチがかなり長いブランクの後でも好みの花を選択し続けるという観察例もあり、一概に決め付けることはできない。
 そこで本研究では、マルハナバチの各個体を8-16往復(巣箱-採餌場)にわたって追跡し、異なる記憶形態が花選択行動に与える影響を抽出することを試みた。ここでは、2種類の人工花序(青花花序●と黄花花序○)を交互に配置した採餌場を用意し、そこを一匹のハチ(=エゾオオマルハナバチ)が自由に採餌できるようにした。また、ハチ個体が巣と採餌場の間を2往復するごとに花序の密度を変えた。この実験で以下の結果が得られた。
 1)各個体の花選好性は数往復にわたり維持された(例:青花を好む個体は一度巣に戻った後も青を好むことが多い)。2)花序密度が小さい時の一往復内での訪問順序は「●●○●●○●●○●」とか「○○●○○●○○●○」になる傾向にあったが、3)花序密度が大きい時は「●●●●○○○●●●」とか「○○○○●●●○○○」になる傾向にあった。
 1)は花選択行動への「長期/中期記憶」の影響を、3)は「短期記憶」の影響を示唆する。また、2)と3)の比較から、ハチが「花序間距離」に対し、異なる花選択行動をとっていることもわかった。今回の結果から、「短期記憶」「長期/中期記憶」「花序間距離」が、同時に影響しあってハチの花選択行動が決定されていることが示唆された。


○キバナアキギリの花序の大きさと数を決める要因はなにか?
 〜マルハナバチの訪花行動と他殖率が与える影響と花序への資源投資コストからの評価〜

三宅康子

  花が複数ありそれを分散させて配置させるとき、花の集まりを「花序」とよぶ。個体が同じ数の花を咲かせていても、開花花序の大きさと数が異なると、ポリネーターの株訪問頻度が異なると報告されている( Fishbein & Venable 1996 の花数操作実験等)。しかし、訪問頻度に対して、開花花序の大きさが効いているのか、数が効いているのか、それとも両方が効いているのか、ということは未検証である。また、花序の高さや密度といった相対的な位置関係も、訪花行動に影響を与えている可能性がある。
  一方、花序を支えている花茎の構成に必要な資源は、花序の大きさ(花序あたりの花数)によって異なり、植物にとってコストとなっている。どのような大きさと数の花序を作れば、花茎への資源投資コストを低く抑えられるのだろうか。

  本研究では、多年生草本キバナアキギリを用いて、花序の大きさと数と以下の3点との関係を調べ、これらのうち、なにが花序の大きさと数を決める要因となっているのかを探ることを目的とした。
 1.マルハナバチの訪花行動(2001〜2003年:訪問頻度と連続訪花)
 2.個体の繁殖成功(2003年:他殖率と結実率)
 3.花茎への資源投資コスト(2002・2003年)

  その結果、
1.開花花序の大きさと数に対して、マルハナバチがつねにどちらか一方のみを強く好むということはなかった。

2.他殖率と結実率は、開花花序の大きさとは正の相関を示したが、数とは相関がなかった。2003年は、開花花序の大きさ(同時開花数)が増えると、株訪問頻度と同様に連続訪花(自家受粉につながる)まで増えていたが、得られた種子はほぼすべて他殖由来のものだった。よって、連続訪花によってもたらされる負の影響よりも、訪問が多く多様性の高い花粉が供給されることによってもたらされる正の影響のほうがはるかに大きいようだ。
  また、高さの低い花序では花序あたり、個花あたりの訪問頻度が低く、他殖率も低かった。小さい花序ばかりを多数作ることは大きさと高さの減少による他殖率の低下につながり、不利となる。

3.花序の大きさの増加とともに、花茎重は比例的に増加したが、花茎長の増加は飽和的だった。つまり、花数を増やしても花茎の長さはあまり伸ばせないことになり、花序を大きくしすぎることには制約がかかっている。

  以上2.と3.の制約の中で、花序の大きさと数が決まっていると結論する。


○個体サイズ依存の最適な繁殖資源分配〜実生の姉妹間競争の影響

高橋邦彦

<イントロ>
 植物は同一種内において、繁殖への資源分配パターンの多様性が見られる。このような現象に対して、繁殖への資源分配と植物の個体サイズ(特に栄養器官の重さ)との間に相関があることが指摘されてきた。そして最適な繁殖資源分配パターンを個体サイズから説明しようと数多くの理論的・検証的な研究が行われてきた。
 そのなかで、繁殖への資源分配の増加とともに「実生の姉妹間競争(sib-competitionもしくはLocal resource competition)」の影響が大きくなり、繁殖への資源分配が頭打ちになるだろうという理論的な報告がある。「実生の姉妹間競争」とは繁殖への資源分配が増えるほど、局所的に散布された種子数が増加し(局所密度の増加)、お互いに競争してしまう結果として親個体の適応度が期待される値よりも低下してしまう現象である。
 理論的には報告されていたが、検証的な報告はほとんどなく、「実生の姉妹間競争」が検出されたという報告はない。しかし個体サイズ依存の最適な繁殖資源分配パターンを調べる上で、「実生の姉妹間競争」を定量化することは重要である。
 本研究では、シソ科のミヤマタムラソウを用いて「実生の姉妹間競争」を定量化し、これを考慮して個体サイズ依存の最適な繁殖資源分配パターンを検証することを目的とした。

<材料>
シソ科アキギリ属:ミヤマタムラソウ
花期:6−8月(マルハナバチ媒花)
種子散布: 重力散布(特別な散布体を持たない)
      種子は散布後すぐに発芽(休眠するものもある)

<実験方法および結果>

1.散布実験

方法>
2001年の7月(花期終了時)に野外から19個体を圃場に移植。各個体から種子を自然散布させ、当年の秋に発芽した実生の位置を座標として測定。2002、3年の秋、各個体ごとに昨年発芽した実生の生死を確認(2003年に関しては、開花した個体の開花数も測定)。

結果>
実生の密度が高くなるほど、実生の死亡率が高くなった。また生産種子数が多い個体ほど、実生の密度が高くなる傾向があった。

以上より、生産種子数の増加とともに「実生の姉妹間競争」の影響が大きくなることが示唆された。

2.個体サイズ依存の繁殖資源分配パターンの調査

方法>
2003年に、野外にて合計268個体をマーキング。追跡調査を行う。11月、個体が越冬する直前に根際から採取。栄養器官・繁殖器官に分けて、乾重を測定。

結果>
解析中より、当日(12/5)に発表したいと思います。

<結論>
 当日(12/5)に発表したいと思います。


○雪田植物チングルマにおいて、開花時期の違いが資源分配の個体サイズ依存性に与える影響

辻沢央

<イントロ>
植物の繁殖器官に対する資源分配は、しばしば個体サイズの影響を受ける。個体サイズと繁殖努力(RE: Reproductive Effort)や性分配との相関関係に関しては、これまでに数多くの報告がなされてきたが、その関係のパターンは様々である(正・負の相関、或いは個体サイズに対して独立)。このような様々なパターンが見られるのは、繁殖器官に対する資源分配のサイズ依存性が、遺伝型や個体が置かれた環境の影響を受けるためであると考えられている。

雪田では、数百m以内の狭い範囲で明瞭な消雪時期の傾度が見られる。このような環境においては、そこに生育する植物の繁殖戦略が、同じ種であっても消雪時期によって変化することが知られている。これらの変化は、消雪時期の差異がもたらす物理的・生物的環境(気温、土壌栄養量、ポリネーター活性など)の変化によってもたらされる。

よって、繁殖器官に対する資源分配のサイズ依存性のパターンが、消雪時期が異なる集団間で異なることが予測される。消雪時期によるサイズ依存性の変異があるのなら、消雪時期が異なる集団間で資源分配パターンを比較するときに注意が必要である。なぜなら、集団間で個体サイズの分布が異なるため、集団間で資源分配量に差異があっても、それが個体サイズの差異によるものなのか、或いはそれ以外の何らかの環境要因によるものなのか区別する事ができない。ゆえに、消雪時期が異なる集団間でサイズ依存性のパターンが異なるか否かを知る必要がある。

本研究では、雪田に生育するチングルマを用いて、以下の問題を検証する。
消雪時期によって、繁殖器官への資源分配のサイズ依存パターンは変化するのか?
サイズ依存性を考慮した上で、繁殖器官への資源分配は集団間でどのように変化するのか?

<結果>
消雪時期が早い集団では、花への資源投資量のサイズ依存性が見られなかった。一方、遅い集団では、サイズ依存性が見られた。集団間での比較すると、消雪が遅い集団ほど花への資源投資量が少なかった。これらの結果は、花への資源投資量は消雪時期が遅い集団ほど資源制約を受けやすいことを示している。性分配(雌雄器官への資源投資比)にはサイズ依存性が見られなかった。


○光合成の温度順化 オオバコ編

彦坂幸毅

 温度は植物の分布を決定する最も重要な要因の一つである。光合成の温度依存性(温度−光合成曲線の形)は種によって大きく異なり、種の分布決定に大きな影響を持つと考えられる。また、同一種内でも光合成の温度依存性は生育条件によって変化する(温度順化)。光合成の温度依存性が変化するメカニズムは、種内にせよ種間にせよ研究例がそれほど多くはない(例えば光順化に比べると)。種内の変化、つまり温度順化の研究は進みつつあるが、どうやら種によって温度依存性の変化のメカニズムが異なるようである。もちろん、包括的な理解はできていない。

 私は東北大に来てから温度順化の研究を始めた。手始めに光合成系の光順化のモデル(Hikosaka and Terashima 1995)を改良することによって、温度順化が光合成系タンパク質の組成変化で説明することが理論的に可能であることを示した(Hikosaka 1997)。次に、暖温帯の常緑樹シラカシを異なる温度で育成し、ガス交換レベルではモデルが予測するような変化が起こることを発見した(村上さんの卒論・Hikosakaet al. 1999)。

 ひき続き、地中海性気候に分布する常緑低木セイヨウキョウチクトウについて調べた。セイヨウキョウチクトウを用いた理由は、1)暖温帯よりも暖かい地域に生育する植物を扱うこと、2)生化学的実験が容易であること(シラカシではガス交換を調べただけで、タンパク質の量などは調べなかった)の2点である。残念ながらセイヨウキョウチクトウではモデルの予測を支持する結果は得られず、温度順化のメカニズムが多様であることが示唆された(Hikosaka and Hirose 2001)。

 セイヨウキョウチクトウの結果を報告した国際光合成会議では、ある研究者から「ヨーロッパのオオバコもシラカシ同様の温度順化をする」という情報をいただいた。そこで、日本のオオバコを用いてシラカシでは調べられなかったタンパク質レベルの解析を行った。様々な紆余曲折の結果、オオバコではやはりシラカシ同様の温度順化が起こることを確認し、葉内の窒素分配の変化も起こっていることが明らかになった。今回はこの結果を報告する(昨年の生態学会で発表したネタです)。


○タイトル:雌雄異熟集団における、開花時期の異なる個体間の性投資の違い(仮)

平賀智之

<研究の背景>
雌雄異熟集団では開花時期によって集団の性比が異なる。例えば、雄性先熟集団では初期に♂が多く、後期に♀が多い。この時、Brunet and CharlesWorthは、ESSモデルを用いて、以下の結論を導きだした。初期は♀成功が、後期は♂成功が大きいことが期待されるので、「初期は♀に、後期は♂に多く投資する戦略」が有利である(雌性先熟は逆)。

これまで、この理論を検証するような、研究は少ない。また、モデルでは考察されていないが、♂期間、♀期間の長さも繁殖成功に影響する。♂、♀期間の長さを調査した研究はいくつかあるが、データの取り方が不適切である。

<研究の目的>
雌雄異熟集団において、開花時期の異なる個体間で
             1.♂、♀成功は異なるのか?
             2.♂、♀への投資は異なるのか?
             3.♂、♀期間の長さは異なるのか?
                        を明らかにする。

<材料>
春:ミズバショウ (雌性先熟)
夏:ヤナギラン (雄性先熟)    


○Does photosynthetic acclimation contribute to carbon gain under seasonal environment in the evergreen understorey shrub Aucuba japonica?

Onno Muller

The photosynthetic capacity of A. japonica was measured monthly for a full year of plants growing in a gap and in the understorey of a deciduous and evergreen tree canopy. Leaf nitrogen content was determined and found highest in the gap and lowest under the evergreen canopy. The photosynthetic capacity decreased in wintertime for plants growing in the gap and maintained similar during the year for plants under tree canopies. Leaf nitrogen content increased at wintertime in each habitat. Daily calculated carbon gain changed with the seasons in each habitat and was highest around spring time. The seasonal change in leaf nitrogen content contributed significantly to the yearly carbon gain. The optimal leaf nitrogen(Hirose,1984),that maximizes the daily carbon gain per unit nitrogen, was positively correlated with the actual leaf nitrogen content. This indicate that the increase in leaf nitrogen content during winter time, is not only a storage function, but also functionally active for the carbon gain of an understorey plant.


○東北地方におけるフキの性表現と繁殖戦略

鈴木由佳

1.はじめに
 花は植物にとって次世代を残すために重要な器官であり、種ごとの多様な花の形態や性表現は繁殖戦略に大きく反映する。フキは、小花の集合体である頭花(以降「小花序」 )が集まった花序をもつ雌雄異株植物であるメス花序は、多数のメス小花に花粉がなく雌しべが不稔の両性小花の加わるメス小花序で構成される。オス花序は、花粉があり雌しべが不稔の両性小花のみのオス小花序で構成される。フキの花序のほとんどはこの2つの表現型であるが、中には花粉があり雌しべが不稔の両性小花に加えてメス小花を 少数持つ「オスメス小花序」を有する花序(「オスメス花序」と呼ぶ)も出現する。本研究ではフキの花の形態および有性繁殖、無性繁殖について調べた。よって本研究ではフキを対象として花の形態と性表現および有性生殖と無性生殖について基礎的な調査を行った。

2.調査方法
 1) 花序表現型の分布
 9調査地を秋田県の5か所、岩手県の2か所、宮城県の2か所の計9か所とし、花序の表現型ごとの分布を調べた。これらの調査地の計398花序を観察して花序表現型を記録し、計数した。
 2) 花の構造
 観察した花序から花序表現型ごとに3花序ずつ計9花序を抽出し、小花序と小花序に含まれる小花をそれぞれの表現型ごとに計数した。
 また、小花には花冠等に変異のある多型が存在した。そこで、各花序表現型における小花の多型の出現傾向を知るために、花序表現型それぞれから抽出した1花序ずつ計3花序を対象と して、小花の多型を分類した。

3.結果と考察
 1) 花序表現型の分布
 オスメス花序は9か所中5か所で見られたため、特定の地域に限定的な表現型ではないと考えられる。
 2) 花の構造
 小花序あたりの小花数は、オス花序<オスメス花序<<メス花序であった。
 小花の多型は、メス花序で最も多くみられた。オス花序では、すべての小花が同一タイプの両性小花だった。オスメス花序では、メス花序ほどではないものの多型があった。ただしオスメス花序では、オス花序と同タイプの両性小花が多く出現した。

 これらのことから、オスメス花序の構造は、メス花序よりオス花序に極めて近いといえる。


○異なる緯度から得たオオバコの遺伝型間における温度と光合成速度の関係

石川数正

 異なる温度環境に生育する植物種間では、温度と光合成速度の関係が異なり、光合成速度の最適温度はその生育地の温度に近いことが知られている。このような違いは、生育標高の異なる遺伝型間といったかなり近縁な集団間でも見られる。しかし、温度と光合成速度の関係の遺伝的な違いが、どのような生化学的違いに由来するのかはよくわかっていない。

 生化学的に考えると、光合成速度は二つの律速要因であるRuBP炭酸同化能力とRuBP再生能力のどちらか一方によって決定される。 そこで本研究では、材料として生息地が異なる4つのオオバコのエコタイプ(北海道、仙台、静岡、沖縄)を用いた。これらエコタイプ間で、温度と光合成速度の関係がどのように異なるのか、さらに光合成速度を決める2つのパラメーターであるRuBP炭酸同化能力とRuBP再生能力の違いを調べた。

 エコタイプ間で温度と光合成の関係を比較したところ、光合成速度の最適温度には違いは見られなかったが、同じ温度で測定した光合成速度は、北海道、仙台、静岡、沖縄の順に高かった。RuBP炭酸同化能力とRuBP再生能力も同様の傾向を示した。RuBP炭酸同化能力とRuBP再生能力の温度依存性には地域差がなかった。以上から、光合成速度が北海道から沖縄にかけて高くなっていたことは、RuBP炭酸同化能力とRuBP再生能力が北海道から沖縄にかけて上がっていることで説明できると思われる。


○ヤマユリの花の香り:その時間・サイズ依存変化が繁殖成功に与える影響

太田彩子

Introduction
植物の中には、香りを用いて送粉者を誘引しているものがたくさんいる。たとえ、人間には分からないほどの微弱なものであっても送粉者はそれを嗅ぎ分け、植物のもとにたどりつく。先行研究によって、送粉者の異なる集団間では同じ種でも花の香りの種類が異なっていることがわかっている。それでは、集団内の個体間では花の香りに全く差はないのだろうか。集団内の個体間では個体サイズに大きな変異が見られる。繁殖形質(e.g.性比)が個体サイズに依存して変化する事はよく知られている。香りもまた繁殖形質の一つであることを考えると、個体サイズに応じて集団内の個体間で香りを変化させていることが予想される。また、個体内では香りは変化しないのだろうか。先行研究で、昼夜の送粉者の違いにより香りの種類も変化していることがわかっている。また、開花からの日数に応じて、訪花の要求量も低下することがわかっている。訪花の要求量が変化すれば、誘引形質である香りも変化すると予想される。昼夜、開花からの日数などの時間的な要因で個体内でも香りを変化させていることが予想される。香りには種類と強さの二つの側面があると考えられ、この二つはどちらも送粉者誘引に大きく関わっていると考えられるので、本研究においては香りの種類と強さの二つについて時間・個体サイズ依存変化を調査することにした。

目的
本研究の目的はは以下の問いを明らかにすることである。
1.花の香りは、時間(昼夜・開花からの日数)依存的に変化するのか
2.花の香りは、個体サイズ依存的に変化するのか
3.もし変化するのなら花の香りの変化は、繁殖成功にどのような影響を与えるのか

実験方法 
ヤマユリ(ユリ科)を用いて以下の実験を行った。
1.送粉者の昼夜変化(昼夜の送粉者を特定)
2.香りの時間依存変化(香りの種類と強さを、昼夜・開花からの日数で比較)
3.香りの個体サイズ依存変化(香りの種類と強さを個体サイズで比較)
4.繁殖成功(昼袋がけ処理、夜袋がけ処理等袋がけ処理を行い種子成熟率、花粉放出率を比較)
なお、香りの採集は開花日して2日目、5日目の個体から、昼(12-13)夜(19-20)の間に採集。
ただし、香りの種類の分析は未終了である。

結果
1.送粉者の昼夜変化
昼にはカラスアゲハ(Papilio bianor Cramer)夜にはスズメガの一種であるエゾシモフリスズメ(Meganoton analis scribae)が訪花していた。
2.香りの時間依存変化
時間(昼夜・開花からの日数)依存的に香りの強さが変化していた。
開花初期は昼よりも夜の方が香りが強くなり、開花後期には昼夜の変化はなくなった。
3.香りの個体サイズ依存変化
個体サイズ依存的に香りの強さが変化していた。
個体サイズが大きいものほど、強い香りを出していた。(2日目夜のみ)
4.繁殖成功
種子成熟率、花粉放出率共に、昼夜で違いはなかった。

考察
昼夜で繁殖成功に違いがないことから、夜香りを強くしているのは、夜の送粉者の方が送受粉の能力が高いからというわけではないようだ。夜は昼に比べて視覚的ディスプレイ効果が劣るのでその補完のためか、もしくは送粉者の好みに合わせて夜に香りを強くしているのではないだろうか。開花してから時間が経つにつれ香りが弱くなっていくのは、訪花要求量が時間とともに減っていくのに対応した結果だと考えられる。個体サイズが大きいものほど香りが強くなっていたのも、個体サイズが大きければ資源量も多く、それだけ訪花要求量も大きかったためだと考えられる。開花して間もない夜のみしか個体サイズの影響が見られなかったのは、訪花要求量の個体サイズによる違いが開花してから時間が経つにつれて小さくなるためであると考えられる。

今後のこと
当日は、今後の実験計画について皆様からの助言をいただきたいです。


○Age の異なるブナにおける被食応答

岡本絵里

 移動能力を持たない植物は常に草食動物による被食(食べられること)の脅威にさらされている。植物は被食によって成長に悪影響が出ないように様々な防衛戦略を進化させてきた。その戦略は窒素利用の点から大きく2つに分けることができる。1つはPNC(植物体の窒素濃度)を低く保ち、tanninなどの防御物質を蓄積する誘導防御。もう1つはPNCを高くして、LNC(葉の窒素濃度)の高い葉をつけることにより光合成能力を増加させて被食による被害を補償する補償的光合成である。

誘導防御は木本で起きることが多く、補償的光合成は草本で起こることが多いとされてきた。しかし、木本でもコナラ実生は補償的光合成をする(Hikosaka et al. (投稿中))ことから、呼吸による炭素の消費が被食応答に関わっていると考えられる。そこで、呼吸活性の高い個体では、補償的光合成が起こりやすく、呼吸活性の低い個体では、誘導防御が高いという仮説を立てた。

この仮説を検証するために、本研究では、同じ種の木本ブナでAgeの異なる実生と稚樹を使って奪葉(100%奪葉)実験を行っている。実験はまだ途中であり、2004年に葉が展開してからさらに測定を行う。現段階で、実生は稚樹よりも呼吸速度が速いことは分かった。しかし、2003年には実生・稚樹ともに富栄養条件では葉を展開したものの、貧栄養条件では葉を展開しなかったため、それぞれでどのような応答が起こっているのかはまだ分からない。

今回は富栄養条件での実生と稚樹の奪葉後のPNC変化についてのみ考察をしていく。実生では奪葉後にPNCは低下し、稚樹では上昇した。これは、実生は根からNが吸収されなかったが、稚樹では根からNが吸収されたためである。

まだデータがそろっていないため、十分な考察はできませんが、残りは今年葉が出てからのお楽しみということで・・・。


○個体群内で競争する個体のサイズと繁殖量の関係について

明地浩氣

 密度の高い同齢個体群において、個体は同じような成長をするわけではなく、時間と共に大きなサイズの違いが見られるようになる。そして、最終的に繁殖量にも差が出てくる。これまでサイズ差の形成機構については特に栄養成長期間について研究がなされてきた。しかしサイズ差がどのように繁殖量に影響するかについてのメカニズムに基づいて調べた研究例は少ない。1年草では特に次の世代に残るものは繁殖量のみなので、サイズ差のある個体間の繁殖量の決定要因を調べる事は重要と思われる。

 繁殖量は繁殖期間の成長量(繁殖期間の成長速度 × 繁殖期間の長さ)と繁殖器官への分配率の2つのパラメーターの積として表すことができる。さらに成長速度は平均葉面積とNAR(成長速度/平均葉面積)のパラメーターの積として表される。これらのパラメータが個体間でどのように異なるのか、また生育段階によってどのように変化するのかを調べ繁殖量の決定要因の解析を目指した。

 実験は1年草のオオオナモミ(Xanthium canadense)を用いて行った。圃場で同齢個体群を育て、刈り取り区と追跡区を分けて8/29の花芽形成時から約1ヶ月ごとに個体の高さ、乾燥重量、繁殖部位乾燥重量、群落の光環境、葉面積、受光量、N量、光合成量、について測定した。

 3回の測定時の個体サイズとそれぞれの個体の最終刈り取り時の繁殖量を比較したところ、8/29,9/27時点でのサイズの大きい個体は最終刈り取り時点での繁殖量が必ずしも大きいわけではないという結果が得られた。

 測定期間を<期間1>と<期間2>に分けてそれぞれで解析を行った。それぞれの期間では繁殖部位増加量が大きくなる個体のパラメーターの特徴が異なった。期間1、2とも繁殖部位増加量はサイズの大きい個体で大きい傾向があったが、同じサイズでもおおきなばらつきがみられた。期間1でのばらつきは主にNARのばらつきで説明された。期間2でのばらつきには葉面積のばらつきの影響が見られた。サイズの大きな個体ほど大きな葉面積をもつ傾向があったが葉の枯れるスピードに個体差があるようだった。この結果は繁殖量には各個体の環境だけでなくフェノロジーなどの個体差が影響していることを示唆する。


○シロザにおける温度低下に伴う光阻害耐性の変化

小野広善

 低温の、植物に対する影響は様々である。その中でも光阻害は、光合成系の最も上流にある明反応の光化学系IIが傷害を受けることで起こる。

 光阻害は吸収したエネルギーのうち消費しきれず余ったエネルギーによりPSIIが傷害を受けることで起こる。その程度は条件によって異なる事が知られている。特に弱光生育の植物が強光にさらされた時や、ストレス環境下で強光にさらされた時はひどく傷害を受ける。低温条件では植物体の生理活性は全体的に下がる。当然消費できるエネルギーも減少するので、低温条件では過剰なエネルギーも多く光阻害の程度も大きく致命的になり得る。

 そこで私は、温度低下に伴って光阻害耐性を変える能力は、その環境に優占する植物種を決める大きな要因になっているのではないかと考えた。低温での光阻害耐性の順化についてのほとんどの先行研究は、光阻害耐性を決める機構のうち単一の機構に注目したものである。しかし光阻害耐性を決める機構は複数あるので、それぞれの影響を総合的に判断する必要がある。

 本研究では25度・弱光条件で生育した葉を15度に移した際、15度での光阻害耐性が変化するのか。また、変化するならばどの機構がどのように変化しているのかをクロロフィル蛍光測定から調べた。

結果、低温に移して5日目以内に低温での光阻害耐性が上昇した。更なる実験で、どの機構が何日目に変化するか、どのくらい変化するかを調べようとしたが再現性が得られていない。今後、条件設定を改善し更に実験を進めたいと考えている。


○親個体の資源栄養バランスが種子の大きさに与える影響

藤岡宏太

 ある繁殖資源を種子生産に使う時、大きな種子を作ればそれだけ種子の生存率は上がるが、数が少なくなる。逆に小さな種子をたくさん作れば、種子の生存率が低くなり多くの種子が死んでしまうかもしれない。ではどんな大きさの種子を作れば有利になるのか?このような問題を種子の大きさと数のトレードオフといい、最初に古典的モデルのSMITH-FRETWELLモデルを紹介します。

 次にSMITH−FRETWELLモデルに維持呼吸の影響を取り入れたSAKAI&HARADAモデルを紹介します。この2つのモデルは共に呼吸で消費されるC資源の分配を考えていました。しかし、今回の研究では、種子生産に使う資源としてC資源とN資源を考え、その割合N/Cによって種子の大きさに違いが出てくるだろうという予測のもと実験を行いました。

 実験方法は大まかに言うと、N施肥した個体としていない個体間で種子の大きさに違いが出るかどうかを測定しました。結果は、窒素施肥個体の各器官のN/Cがコントロールに対して有意に差がなく、次に、もともとある個体間のN/Cのばらつきと種子の大きさについて解析してみました。結果はモデルから導かれる予想とは違っていました。

 このことから種子生産資源のN/Cにばらつきがあっても、種子の大きさもN/Cも変化しないということが分かりました。


○異なるPNUE(光合成の窒素利用効率)をもつ種間における葉内窒素分配の比較 A comparative study of nitrogen allocation in leaves among species with different PNUE(photosynthetic nitrogen-use efficiency)

重野亜紀

 窒素はタンパク質や核酸などの主要な構成元素であるが、自然環境下では不足気味で植物は窒素を効率よく利用しなければならない。植物体中で特に窒素濃度が高いのは葉で、その中でも葉の窒素の多くは光合成系タンパクへ分配されている。そのため、同一種内では光合成速度と窒素含量は強い相関を持つ。光合成の窒素利用効率(PNUE:photosynthetic nitrogen-use efficiency)は同一種内では大きく変化することはない。

 しかし種間ではPNUEは大きく異なる。葉の寿命が長い種ほど光合成速度、PNUEが低く、LMA(葉重/葉面積)が高く、Nmass(乾燥重量あたりの窒素濃度)が低いということがReichら(1991)などの研究によって明らかにされた。

 なぜこのようにPNUEは多様なのであろう。種間でのPNUEの違いの原因は以下の四つに分けられることをField and Mooney(1986)は指摘した。

1)葉緑体内までのCO2拡散
2)葉の窒素のどれだけを光合成系に分配するか
3)光合成系の窒素をどのように分配するか
4)Rubiscoの比活性(酵素の量あたりの反応速度)

 上記の2)と3)に着目し、近縁な種を用いたTakashimaら(2003)の実験では、落葉樹に比べ常緑樹はPNUEが低く、Rubiscoへの窒素分配が低いことが明らかにされた。また、細胞壁に関与する構造性タンパクへの窒素分配が落葉樹よりも常緑樹で高いことが示された。つまり、常緑樹は落葉樹に比べ、構造に多くの窒素を投資しているため、PNUEが低下していることが示唆された。

 しかし、それは近縁な種間において明らかにされたことであり、また、実験環境下で生育された植物を用いた実験である。野外に生育する、様々な種間においての葉内窒素分配はどうなっているのであろう。

 そこで本研究では、野外においてのPNUEの違いと葉内窒素分配を調べる。上記のような葉内窒素分配が、野外に生育している植物でもみられるのだろうか。それを検証するために、野外に生育している植物26種を用いる。調査する種を近縁な種でなく幅広く設定することで、より一般性が言えると考えている。

結果

当日までの結果をお見せします。


○高CO2条件が様々な一年草の繁殖収量とその決定要因に与える影響

宮城佳明

 一般的に高CO2条件下において、植物には光合成速度の上昇、バイオマスの増加やRGRの増加など成長を促進する傾向が見られる。しかし、その高CO2応答の程度は様々で、中には高CO2に抑制されてしまう種もいる。なぜ高CO2応答にはバラつきがあるのだろうか?

 その原因に、窒素制限が考えられる。バイオマスを増加させるのには炭素だけでなく窒素も必要である。このことから、以下のような仮説を設定した。

「高CO2応答は植物器官の窒素濃度に依存する。種によって種子窒素濃度は様々で窒素濃度の低い種ほど高CO2による種子バイオマスの増加が大きい。また、他の器官においても同じような傾向が期待できる。」

 この仮説の下に、一年草8種を用いて、高CO2処理実験を行い、次のような結果を得た。

・Biomass(g)→高CO2応答は種によってバラつきが見られた
・窒素含量(mg)→種子においてバラつきの傾向がBiomassの場合とほぼ同じであった
・窒素濃度(mg/g)→種子の窒素濃度は全く変化していなかった
・また、種子窒素濃度の高い植物は高CO2の影響を受けていたのに対し、種子窒素濃度の低い植物は高CO2の影響をあまり受けていなかった。このことから仮説は棄却された。

 しかし、種子Biomassと種子窒素含量のバラつきが同様であったことから、次のことが考察される。植物は種子窒素濃度を変えずに、何らかの方法(転流?吸収速度?窒素固定?)によって窒素を獲得し、その獲得量を増やせたものが種子のバイオマスを増やすことができたようだ!

 今回は、実験と解析が間に合わず、十分な結果と考察をお見せできませんが、よろしくお願いします。


○資源を獲得しながら子を生産する場合の、大きさと数のトレードオフ

酒井聡樹

多くの生物は、貯蔵資源に加えて、子を生産しながら獲得した資源も子の生産に投資する。たとえば、ほとんどの植物において、種子の発達は日々の光合成生産に依存している。しかしながら、子の大きさと数のトレードオフや最適な子の大きさに関する今までの理論的研究はすべて、一定の貯蔵資源のみを用いて子を生産する状況を想定している。日々の稼ぎの貢献はまったく無視されてきた。本研究では、貯蔵資源と日々の稼ぎの両方を用いて子を生産する場合の、1) 子の大きさと数のトレードオフの形、2) 最適な子の大きさの二つを解析する。

【モデルの仮定】親は、子の生産開始時 (t = 0) に、ある一定量の貯蔵資源を持っている。それに加え、時間 t = 0 から t = T の間、毎時 P の資源を獲得する。子は、貯蔵資源 and/or 毎時獲得資源を吸収して成長する。子が吸収しきれなかった毎時獲得資源は貯蔵資源に加えられる。子の成長は、貯蔵資源が空になり、かつ、毎時獲得資源も止まった時点で終了する。

【結果】大きさと数のトレードオフの形(線型か非線型か)は、子の大きさに依存して変化する。子の大きさがある閾値以下の領域ではトレードオフは線型となり、閾値以上の領域では非線型となる。最適な子の大きさは、子の定着率に関わるパラメータの値に依存して、Smith and Fretwell の最適サイズが実現する場合と Sakai and Harada の最適サイズが実現する場合がある。


○光合成系と細胞壁への窒素分配のトレードオフ

小野田雄介

 窒素は成長をしばしば制限する要素であり、植物は窒素を効率よく使うことが重要だと考えられる。葉の窒素の多くの部分は光合成タンパク質に分配され、それゆえに光合成と窒素の間には強い相関があることが知られている。光合成/窒素は、光合成の窒素利用効率(PNUE)として評価されている。
 細胞壁は葉の重量の約半分を占め、また細胞壁には低濃度ではあるが構造タンパク質が存在するため、細胞壁への窒素分配も無視できないと考えられる。寿命が長い葉は短い葉に比べしばしばLMA(葉面積あたりの重量)が高く、細胞壁への投資が多いと考えられる。またLMAはPNUEと負の相関があることが知られている。これらの事実は細胞壁への窒素分配が増えることにより、光合成系への窒素分配が減少することを示唆する。
 本研究では、イタドリの発芽時期をずらすことにより、葉寿命をコントロールし、光合成系と細胞壁への窒素分配の間にトレードオフがあるかどうかを検証した。
 遅く発芽した個体は、高い光合成速度、高いPNUE、低いLMAを示した。葉の窒素分配を調べたところ、遅く発芽した個体は、光合成の鍵酵素であるルビスコへの窒素分配が相対的に多く、早く発芽した個体は、細胞壁の窒素分配が相対的に多かった。つまり早く発芽した個体は強度の高い葉っぱを作り光合成を長期間維持したのに対し、遅く発芽した個体は、強度を犠牲にして短期間で高い光合成速度をしたことを意味する。このように、イタドリは葉の窒素分配を生育期間の長さに依存して柔軟に調節することにより、炭素獲得を向上させたと考えられる。(Functional Ecology, in press)

 このような窒素利用から見た光合成と構造のトレードオフは自然界の植物でも起こり得る一般的な現象なのだろうか?雪田に生育する植物は雪解け時期が場所や年によって大きく異なり、生育期間の変動が大きい。そこで辻沢氏の協力を得て、雪解け経度に沿って、チングルマとイワイチョウの2種を定期的に採取していただき、光合成と窒素含量を測定した。チングルマにおいては、雪解けが遅い個体は雪解けが早い個体に比べて、高い光合成速度、低いLMA、高いPNUEを示し、イタドリの結果と一致した。ところが、イワイチョウは雪解け時期によって大きな違いは見られなかった。この種による応答違いの原因として、チングルマは雪解け時期によって生育期間が大きく左右されるのに対し、イワイチョウは生育期間が短いために雪解け時期が変わっても生育期間があまり変化しなかったからだと考えられる。


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