2006年度講座セミナー要旨


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(06.10.23更新)


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○植物の成長特性はどのように決定されるのか?

中田 望(首都大)


植物の成長特性は、植物の環境応答・順化および適応を理解する上で重要なキーワードである。1970年代以降、成長解析の考え方を軸に植物の成長特性がどのような生態学的意義を持つのか議論されてきた。しかし今日に至るまで、成長特性の生態学的意義やその決定要因についての統一的見解は得られていない。本セミナーでは、発表者の研究紹介を交え、成長特性に着目した先行研究を紹介し、今後必要となる課題について展望したい。

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○蛍光プローブによる配偶体細胞およびオルガネラの可視化

岩瀬 巨宜


従来、生きた細胞での微細構造変化や精細胞の受精時の挙動など、どうしても可視化できない部分が存在したが、最近シロイヌナズナで、蛍光プローブと共焦点顕微鏡の組み合わせによって細胞動態を明らかにできることが示された。受精時の細胞動態を可視化するため、受精に関わる部分が見やすい構造をしているトレニアを用い、先に挙げた蛍光プローブと共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。

研究題目は、蛍光プローブによる配偶体細胞およびオルガネラの可視化とし、重複受精の際の精細胞の挙動や細胞の微細構造変化を観察するため、雌雄配偶体において各種細胞内構造がラベルされた形質転換体を使った方法の確立を目指した。

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○異なる標高における湿原植物群集の種組成と光獲得競争

神山 千穂


地球の平均気温は、この先100年で約1.4〜5.8度上昇すると予測されており(IPCC 2001)、植物群集が温暖化にどのように応答するかを予測することが重要な課題となっている。2005年度は、温暖化の影響に敏感な生態系の一つと考えられている高層湿原を調査地として、標高傾度(590、1030、1290m)を利用し、異なる温度環境に成立する群集間の比較を行った。特に、種の機能型(functional type)に着目し、各機能型の種数やバイオマスが標高によってどのように異なるか、またその違いが競争力の違いによって説明できるか否かを調べた。各種の競争力の定量化には光獲得効率(Φmass)を用いた。光獲得効率は以下の式により解析した。

<光獲得効率(Φmass)>
[光吸収量/地上バイオマス]
<Φarea>
[光吸収量/葉面積]
× <LMR>
[葉重/地上バイオマス]
× <SLA>
[葉面積/葉重]

結果1:群落の特性と標高傾度

群落全バイオマス及び群落高は、低標高で高い傾向にあった。機能型に着目すると、標高に関わらず常緑種の出現種数及び群落全バイオマスに占める割合は、落葉種に比べ低かった。また、常緑種では出現種数が低標高で低く、群落全バイオマスに占める割合も低標高で低かった。落葉種に標高間で傾向はみられなかった。

結果2:光獲得効率

光獲得効率は個々の種により異なった。常緑種の光獲得効率は、標高に関わらず落葉種に比べ低かった。常緑種はどの標高でも同様の光獲得効率を有していたが、落葉種の光獲得効率は、高標高に比べ低標高で高かった。次に、光獲得効率が種、標高によって異なった原因を上記の式から解析した。落葉種に比べ常緑種の光獲得効率が低かった理由は、常緑種の葉が落葉種に比べて厚い(SLAが低い)ためであった。また、落葉種において低標高の光獲得効率が、高標高に比べ高かった理由は、標高間でSLAが変化する常緑種に対して、落葉種では変化しないためであった。

これらの結果から、高層湿原の光をめぐる種間競争、特に常緑種間と落葉種間の競争は、標高によって異なることが明らかになった。低標高の暖かい温度環境では、高層湿原の常緑種は光獲得競争において不利であり、常緑種の出現種数の低下や、群集内種組成の変化が起きていることが示唆された。

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○ニッコウキスゲ・エゾリンドウにおける蜜分泌戦略:
蜜量・蜜濃度を開花順・開花からの時間経過によっていかに変化させるか?

加藤 真也


植物は、ポリネーターを誘引するために蜜を分泌し、蜜量・濃度はポリネーターの訪花行動に影響を与える。多くの植物において、個体内での開花順によって花粉や胚珠への投資量が異なることや、開花からの時間経過によって訪花要求量が異なることが知られており、蜜量・濃度を訪花要求量に応じていかに変化させるかは植物にとって重要である。

本研究では、ニッコウキスゲ・エゾリンドウを用い、蜜量・蜜濃度が、開花順・開花からの時間経過によってどのように変化するのかを明らかにする。早咲き・中間・遅咲きの花それぞれについて、ニッコウキスゲでは開花日の11時・17時・23時に、エゾリンドウでは開花1日目・3日目・5日目に蜜量・濃度を測定した。それぞれの花への資源投資量を比較するために、ニッコウキスゲでは花粉・胚珠数、エゾリンドウでは蕾の乾燥重量を、各開花順の花について測定した。

その結果、以下のことがわかった。

ニッコウキスゲでは

エゾリンドウでは

以上の結果から、両種ともに、早咲きの花では、開花初期に蜜への投資を多くし、中間・遅咲きの花では開花からの時間が経過すると蜜量を維持したまま濃度を減少させていることが明らかになった。また、ニッコウキスゲでは早咲きの花に蜜を多く投資していると考えられる。この蜜分泌戦略の適応的意義は、早い時期にポリネーターに質の高い蜜を提供することで誘引効果を大きくし、時間が経過するにつれて誘引効果を保つために蜜を出し続けるが、濃度を低くして資源を節約することにあると考えられる。

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○繁殖期間における群落内のサイズの異なる個体の成長解析

松本 洋祐

高密度の同種同年齢の個体群では、個体間に競争が生じて群落の構造が変化し、少数のサイズの大きな個体と多数の小さな個体で群落が構成されるようになります。このような現象はサイズヒエラルキーの形成として認識されています。

なぜサイズヒエラルキーが形成されるのか。その原因として、個体の成長速度の差が挙げられます。個体がサイズに比例して成長速度が大きくなれば、すなわちRGR(相対成長速度)(成長速度/サイズ)が一定であれば、群落の構造は変化しません。しかし、群落内では光をめぐる競争が起こっており、サイズの大きな個体は小さな個体を被陰します。そのため大きな個体のほうが小さな個体よりもRGRが大きくなり、そのサイズ差はさらに大きくなるためサイズヒエラルキーが形成されます。

こうした群落構造に関するメカニズムに基づく解析は、主に栄養成長期間での研究にとどまっており、形成されたサイズ差が繁殖期間、さらには繁殖収量にどのような影響するのかについての研究は少ないです。植物は繁殖期間も光合成を続けており、それは種子生産に影響を与えます。そのため、繁殖期間の解析も重要であると考えられます。

繁殖期間の後期では、個体は葉を枯らしていくため、次第に群落内の光環境が良くなっていきます。そのため、今まで光を遮られていたサイズの小さな個体は光合成速度が上がり、成長が良くなると期待されます。そこで、一年草のオオオナモミを用いて繁殖期間における個体の成長について調べました。

実験の結果以下のことが分かりました。

繁殖期間の後期では、小さな個体は大きな個体よりも(自身のサイズに比べて)多くの葉を残す傾向がみられました。また光環境も良くなっていました。

しかし、期待とは異なりサイズの小さな個体の成長速度はそれほど大きくなりませんでした。

群落内の光環境は良くなったが、葉の光合成能力(最大光合成速度)が小さく光合成速度大きくならなかったためでした。

光合成能力が小さかった原因としては、繁殖期間中の温度が下がったことや、葉の老化などによる葉の光合成能力の低下が考えられます。


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○生理的統合はどのような状況で進化しうるか

伊藤 聖

クローナル植物の中には、自律的で遺伝的に同一な個体(ラメット)同士が連結しているものがある。先行研究では、このラメット間の連結(生理的統合)により、水や光合成産物、栄養塩などの物質がそこを移動していることがわかっている。このことから、個々のラメットが異なる役割(光を得るラメット、水を得るラメットなど)を果たすことで、空間的に不均一な環境で生理的統合は適応的であると考えられてきた。このように、遺伝的に同一なラメットの集合全体(ジェネット)で資源を共有するという観点から、生理的統合の意義は生理学的、生態学的、理論的な多くの研究が成されている。

また、生理的統合では資源以外の物質(例えば、食害における防御物質やシグナル分子、あるいは病原体など)もやりとりされることが示唆されている。ところが、資源以外の物質のやりとりに関する研究は非常に少ない。特に理論研究は、ほとんどなされていない。

本研究では、資源以外の物質をやり取りすることは、どのような状況で進化しうるかを理論的に検証する。今回は資源以外の物質、特にこれ論と食害におけるシグナル分子のやりとりに着目する。これに、上述の資源共有の観点を加えることで、生理的統合の総合的な意義を探っていく。


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○むかごはなぜ種子よりでかいのか?

小嶋 智巳

種子植物の中には、種子繁殖と同時にむかごによる繁殖を行うものがある。これらの植物では一般に、種子に比べムカゴの方が「サイズは大きく、数は少なく、散布距離は短い」という傾向が見られる。いっぽう遺伝的には、有性生殖を通して生産された種子はその多様性が高いのに対し、無性的に生産されたムカゴは、親と全く同一の遺伝子セットを持つ。この遺伝的背景が、上述のような生態的特徴の違いを生み出しているものと考えられる。

先行研究では、「各親個体の生育はそれぞれの微環境への適応(local adaptation)の結果であり、親と同一の遺伝子セットを持つ散布体(ムカゴ)は、親の生育環境により近い場所に散布されることが適応的である」とし、さらに、これにくらべて遠くへ散布させる必要のある散布体(種子)に関しては、「小さくなければならない」としてこの問題を解決している。

しかし、多かれ少なかれ時間変動する環境において、個体間の遺伝子型の違いに影響するような local adaptation は、それほど一般的な現象なのであろうか?また、ムカゴに比べ種子のサイズが小さいのは、単純に散布のために生じる制約だけなのだろうか?

親個体に近いほど、その環境の予測性が高い(その種にとって好適な環境の頻度が高い)と仮定すると、親の周辺では散布体の発芽定着の可能性が高いため、種子に比べて2倍の速度で自らの遺伝子が伝わるムカゴを投入し、さらにそのサイズを大きくすることによって競争能力を高め、確実に子孫を定着させることが有利になるのではないか?いっぽう親から離れた場所では、散布体の数を増やして好適なサイトへの到達確率を高め、さらに、遺伝的な多様性の高い種子を投入することによって、予測性の低い環境において定着の可能性をより高めているのではないか?

格子モデルを用いてこれらの予測を確かめ、種子とむかごの生態的特性の違いが、その遺伝的背景と結びつく必然性を探りたい。


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