2008年度講座セミナー要旨

(2008-12-07更新)

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○ アブラナ科ミチタネツケバナにおける雄蕊数多型

松橋 彩衣子


花器官の数は、花の形を決める重要な要素であり、その値は多くの植物種で安定している。花器官数は進化の過程でどのように決定されてきたのであろうか。本研究では、花器官数の不安定な植物に着目し、花器官数を変化させる条件を明らかにすることで、この疑問の解明へと繋げていくことを目標としている。

アブラナ科ミチタネツケバナは多くの花が4本の雄蕊を持っているが、低頻度で5本あるいは6本の雄蕊を持つ花も現れることが知られている。しかし、その不安定な雄蕊数の変異を引き起こす原因については明らかにされていない。そこで、野外集団において雄蕊数型の構成比変化を調べたところ、花期の初めには雄蕊6本型の花が多く、花期の進行に伴って5本型,4本型の割合が増加していく様子が観察された。

この雄蕊数変異の時間的変化を説明する二つの仮説を立てた。

これらを検証するため、花期の夜間気温を5℃と15℃ の二条件に分けて栽培し、気温と雄蕊数の関係、開花順と雄蕊数の関係を調べた。その結果、夜間5℃ では夜間15℃よりも6本型の割合が大きくなり、5本型、4本型の割合は小さくなった。開花順の効果や家系による違いは検出されなかった。このことは、花期の気温が雄蕊数に影響することを示唆している。それでは、気温変化が激しい野外環境下において、各個体の雄蕊数はどのように変化していくのであろうか。

今回のセミナーでは、これまでの研究の経過報告と共に、今後の課題についても述べていきたい。

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○ 天然のCO2噴出地を利用した研究 - 高CO2由来のオオバコは高CO2環境で有利か?

秋田 理紗子


天然のCO2噴出地周辺は、長年に渡って高CO2環境に保たれていると考えられている。そのため、CO2噴出地周辺に生息する植物は、高CO2環境に適応している可能性がある。

中村さん(2007年修士卒)は2004年に山形県湯殿山にあるCO2噴出地付近からオオバコを採取し、東北大学、実験圃場へ移植して性質を調べた。その結果、高CO2由来のオオバコと通常CO2由来のオオバコには地下部/地上部比に違いがあることがわかった。

違いがあることはわかったが、ではそもそも高CO2由来のオオバコは高CO2環境に有利なのだろうか?このことを調べるために、高CO2環境下と通常CO2環境下で高CO2由来のオオバコと通常CO2由来のオオバコを混植し、競争させる実験を行った。葉サイズ、種子生産量、翌年の地上部乾燥重量を調べたが、高CO2由来のオオバコが高CO2環境で有利と思われるような結果は得られなかった。

葉サイズと種子生産量、葉サイズと翌年の地上部乾燥重量を比較すると関連が見られた。従って、種子生産量と翌年の地上部の大きさは葉サイズでおおよそ決まったと考えられる。葉サイズがどのように決定されたかについてはわからなかった。

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○ 植物における防御戦略の進化〜防御物質の誘導に関する理論的解析〜

伊藤 聖


本研究では、植物における防御物質の誘導という現象に着目し,様々な環境における最適な戦略を解析した。

まず、1つのモジュールからなる植物を仮定し、誘導の効果を検証した。

本研究では、防御戦略を大きく3つに分けている。

  1. 防御物質を持たない。
  2. あらかじめ防御物質を持っておく。
  3. 食害を受けたら、防御物質を誘導する。

また、防御物質の効果として,「時間あたりに受ける食害の確率を低下させる」、「時間あたりの食害で受ける被害を低下させる」ものとする。そして、それらへ資源を分配していくものとする。

その結果、どちらか一方に資源をつぎ込む事が最適であることが示された。

そして、食害率と食害量が様々な環境において、最適な防御戦略を解析した。

また、クローナル植物などで知られている、他のモジュールへのシグナルによる防御物質の誘導という現象についても言及する。

シグナルの効果に注目するため、2つのモジュールからなる植物を仮定した。

そして、上の戦略の3番目を、「食害を受けたモジュールのみに防御物質の誘導が起る」場合と「食害を受けたら、2つのモジュールに防御物質の誘導が起る」場合に分けた。

そして、様々な環境における最適な防御戦略を解析した。

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○ 競争下の植物の力学的安定性:座屈vs.風による折れ

長嶋 寿江


多くの野外の群落では光の競争が生じており、光の競争には個体の高さが重要である。一方、茎は、植物を力学的に維持する役割もになう。競争時に茎が徒長することは、光獲得と力学的安定性にトレードオフがあることを示唆している。競争下の植物の成長戦略を理解するためには競争時の植物の力学的コストを明らかにすることが重要であるが、どのような力学的失敗が問題になるかも含め、定量的にはまだあまり明らかではない。

そこでまず、どのような力学的失敗が問題になるかを理論的に解析した。「座屈(自重を支えきれずに変形してしまう現象)」と「風による幹(茎)折れ」について材料力学的理論モデルで計算した結果、座屈を生じさせないために最低限必要な茎直径(座屈限界茎直径)は、草本植物では風速5-8m/s、木本植物では風速18-26m/s程度の風まで耐えられた。これは、通常の風環境ならば座屈を生じさせない直径で十分であるが、台風などまれにある強風ではそれでは不十分であることを示す。

オオオナモミの実験個体にて、実際の植物の力学的安全率を計算した。低密度個体(4個体/m2)では座屈安全率(=実際の茎直径/座屈限界茎直径)が1.5程度であったのに対し、高密度個体(100個体/m2)では1近くと、茎の太さは座屈限界直径に近かった。茎が折れる風速は、低密度個体が25-30 m/s、高密度個体が15-20 m/sだった。このオオオナモミの種子を採取した仙台の過去40年間の4-10月の最大瞬間風速は20-30m/sだったことを考えると、高密度個体は強風で折れる可能性が高く、低密度個体も風に対して安全率がとても高いとは言えなかった。これらの結果から、競争下では風で折れるリスクをおかして座屈寸前まで高さ成長をすることが明らかになり、また、競争がない場合はまれにある強風にぎりぎり耐えられるだけの茎をもつことが示唆された。植物の力学的コストを評価するには強風の確率を考える必要があることが示された。

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○ 生態系の環境応答研究における種の機能的特性に基づく分類の意義と考え方

神山 千穂


生態系の機能(群集の現存量や生産性や窒素動態など)は、環境変化(温度、CO2環境、水分条件などの変化)の影響を、直接的に、また群集内の生物間相互作用を介して間接的に受ける。環境変化に対する群集の応答は、その群集の場所、歴史的な背景や種構成を強く反映しており、生態系機能の環境応答に一般的原則を見出すことは難しい。その解決のためには、群集構成種の機能的特性 (functional traits) に基づき、群集レベルから生態系機能を理解することが必要なことの一つである。今回のレビューでは、機能的特性と、環境変化に対してそれを2つに分けた概念である、機能的応答特性 (functional response traits) と機能的影響特性 (functional effect traits)について紹介する。さらに、(1)応答特性と影響特性の関わりが生態系機能にどのような変化として表れるか、(2) 機能型 (functional type) 間の交互作用が生態系機能に与える影響について紹介する。

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○ 花はどれだけおいしいか?

小黒 芳生


ヒメシャガの花は、つぼみ・開花中・果実の成熟中にイモムシによる食害を受ける。また、花を食べられた時の果実生産の減り具合は、つぼみと果実を食べられた時のほうが、花を食べられた時より大きい。では、なぜイモムシは花を食べるのだろうか?イモムシはいつ花を食べると得なのだろうか?本研究ではイモムシのメリットとして窒素を得られることに着目し、それぞれの時期の花を食べることで、イモムシがどのくらい窒素を得ることができるのかを調べた。つぼみ・花・種子の窒素濃度は葉よりも高かった。また、つぼみの窒素濃度が一番高かった。この結果から、イモムシは窒素を得るため花を食べているのかもしれないこと、イモムシはつぼみを食べるのが一番得かもしれないことが示された。

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○ 積雪傾度に沿った高山植物の生活史特性:葉特性と繁殖特性を中心として

永野 聡一郎


積雪はその様々な物理的作用により植物の生活史全般に影響を与える環境要因である。高山では雪解け傾度に沿って種組成の異なる植物群落が成立している。積雪期間の長さによって最適な植物の生活史特性は異なると考えられる。

本セミナーでは、雪解け傾度に沿って分布する植物の生活史について、主に、(1)CO2の取り込みと有機物生産を行う葉の特性、(2)群落の維持・分布の拡大に関わる繁殖特性、(3) (1)(2)の生活史を反映して形成される遺伝的群落構造について、既存の研究のレビューを行い、雪解け傾度に対する植物の応答として明らかにされてきたトピックを整理することを目的とする。地理的・歴史的背景の異なる環境下では、まとめて雪解け傾度に対する植物の応答として扱われてきた植物の応答が、他の環境要因依存である場合や、異なる反応を示す可能性があるが、これまで個々の山岳で行われてきた研究間の一般性・特殊性は明らかではない。もし研究間で差異が見られるならば、その原因は何であろうか。また、これまで個別に扱われてきた生活史特性間の関連性について考察を行い、雪解け傾度に対する植物群落の応答に関する研究の方向性を導き出したい。

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○ 植物の生活史や共存を考える上での、空間構造のあるシミュレーションモデルの有用性

小嶋 智巳


植物種の共存に関して、いくつかのメカニズムが提唱されている。資源要求量や環境への応答などに種間差があるという、環境の不均一性に基づくニッチ分割(1)のほかに、生活史の違いによるニッチ分割(2)がある。これは主に、競争に強い種ほど繁殖量が少ない、競争に強い種ほど成長が遅い、といった種間のトレードオフを仮定すると成立する。また、競争力の種間差がまったくない場合、空きサイトに入る子が確率的に決まると仮定すれば、絶滅までの時間が遅れる(3)。また、生息地の組成に階層性がある場合にも、共存は起こりやすい(4)。

これらを考える際、空間構造を持ったシミュレーションが有用である。固着性の植物は、近接個体との競争が主であり、この効果を容易に取り入れられる。また(3)(4)では、散布による新規加入の確率性自体がエッセンスなので、シミュレーションが適している。

これに加えて、(主に草本植物を想定して)散布制限や空間的に同調した撹乱を取り入れることにより、初期環境の不均一性がないにもかかわらず、種ごとに固まった分布が出現することも確かめられる。このノンランダムな分布自体がまた、確率的な絶滅を遅らせて共存に貢献したり、最適な戦略を変化させたりする。

セミナーでは、空間構造のあるシミュレーションモデルが、解析的な連続モデルや、空間を均一とみなしたモデルでは得られない結果を生むことをお話しします。

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○ Induced defenseが選択される要因

伊藤 聖


これまで、様々な最適防御戦略が考えられてきた。その中でも、optimal defense theory (ODT)に関しては,多くの実験的研究が為されてきた。しかしそれらの結果を見ると、constitutive defenseという観点からはこれを支持するが、induced defenseという観点からは、ODTを支持する研究は少ない。では、防御の誘導はどうして防御戦略として選択されているのか。植物の防御に関する最近の実験的な研究をいくつか紹介し,そこから防御の誘導が選択される要因を考えていく。

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○ 近親交配・近交弱勢の推定:イチジクコバチの場合

片渕 正紀


野外集団で近交弱勢を正確に測定するためには家系図から計算される近交係数が必要になる。直接近交係数を計算する方法に代わり、マイクロサテライトマーカーを用いて計測されるヘテロ接合度から近親交配の程度を推定する方法を用いた研究が近年報告されている。しかし、ヘテロ接合度と近交係数の相関は非常に弱いということも報告されている。そのため、近交弱勢は適切に評価されていないということが考えられる。以上のことをふまえた上で、イチジクコバチに関する近親交配の推定について考察する。

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○ stepping stonesの機能に影響を与える要因

今井 はるか


生物は景観の中で特定の生息地を利用しますが、開発などの影響により生息地は減少・断片化の傾向にあります。生物の個体群維持の為にはしばしば、この小さく断片化した生息地から生物の行動範囲を広げてやる必要があります。

stepping stones(飛び石生息地)は、マトリクスの中に点在する小さな生息地パッチ(これ自身では生息地として不十分なものでも良い)で、マトリックスにおいて採餌場、休憩場、捕食者から身を隠す場所を提供します。そして、生息地間の移動を促進するという機能と、生物に付加的な生息場所を与えるという機能を果たします。このため、stepping stonesは重要景観要素だと認識されつつあります。

しかし、stepping stonesの機能はさまざまな要因によって影響を受けます。Stepping stonesをうまく活用するにはこれらの要因を理解することが重要だと思われます。今回のセミナーでは主に鳥類を中心に、stepping stonesの機能に影響を与える要因について過去の研究から得られた知見をいくつか紹介したいと思います。

まず要因を生物側の要因と環境側の要因にわけ、さらに生物側の要因は生物間相互作用と鳥類自身の性質に関わるものに、そして環境側の要因は景観スケールのものと局所スケールに分類してそれぞれどのような研究があるかを紹介します。広く、浅くの研究紹介になるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

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○ 大気CO2濃度の上昇によるRuBP カルボキシル化能力とRuBP再生能力のバランス変化

秋田 理紗子


光の強さが十分なとき、光合成はRuBPカルボキシル化能力もしくはRuBP再生能力に律速される。高CO2環境ではRubiscoのカルボキシル化能力が上昇するため、理論的にはRubiscoへの投資を減らし、RuBP再生に投資した方が効率よく光合成を行うことができると考えられる。

しかし、チャンバーを用いた高CO2付加実験では、限られた条件でしかそのような傾向は見られなかった。

FACE実験は植物の高CO2応答を研究する方法として、現在最も現実的であると考えられている。FACEのメタ解析によると、RuBPカルボキシル化能力とRuBP再生能力の比はわずかだが、変化が見られた。FACEでは2つの能力のバランス変化が起こるのかもしれない。

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○ Human disturbanceによる森林の種構成に与える影響

石田 敏


森林の遷移における自然撹乱とは異なり、人為撹乱は様々な影響を残す。この人為撹乱には土地利用などによる森から草原への変換や伐採による種組成の変化などが例として挙げられる。この影響はその場所、地形、時間的経過など様々な要因によって変化する。この中で種組成への影響の決定要因を、

  1. 人為撹乱の性質
  2. 植物の持つ種特性

の2つの観点から考えていく。1では撹乱からの時間経過や土地管理のシナリオ、政策によって種組成がどう変化していくか、2では種子散布、崩芽能などの種特性による人為撹乱の対応の違いやDCA解析の結果から土地利用と種特性との関連性がどのような傾向で表れるかに着目していく。また、これらの研究例を踏まえて修士論文ではどのような研究を進めていくかを軽くお話します。

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○ 卒業研究中間発表:高CO2由来のオオバコ(Plantago asiatica)による育成実験

市川 琢己


現在、地球環境は人為改変により大きく変化しており、近年の急激な温暖化もその一例である。温暖化と人為的なCO2上昇の関係については昨年にIPCCが証明したが、そのCO2上昇は植物にどのような影響を与え、植物はそれに対しどのように「適応」していくのだろうか?

植物を高CO2環境で育成し、変化を解析する研究はいくつもなされている。しかし、植物の「適応」を調べるためには、何世代にもわたり高CO2環境で育成しなければならない。いくつもの世代にわたり変化を調べた研究もあるが、それらの研究が「適応」するほどのタイムスケールで行なわれているかは不鮮明である。このとき、長期間にわたり高CO2環境が保たれている「CO2spring」を用いた研究が有効である。「CO2spring」の歴史が数十・数百年というタイムスケールであれば、そこに生育している植物は高CO2環境に「適応」している可能性が高い。

今回、私は3ヶ所のCO2springから採取したオオバコの種を用いて、OTC内で育成実験を行なった。CO2spring間での共通の変化が見つかれば、その変化が高CO2環境への「適応」である可能性は高いと言えるだろう。

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○ 卒業研究中間発表:生物多様性に関するCSRの研究

保科 達郎


生物多様性の危機に対して、現在あらゆる国や地域、団体が積極的に取組んでいますが、環境への影響の大きい民間企業もまたこの問題に取り組む責任があります。企業が社会に対して負う責任を果たして行くことをCSR(Corporate Society Responsibility:企業の社会的責任)と呼びます。1993年に制定された環境基本法の要請や、近年の国をあげた温暖化防止対策などもあり、CSRの実践(特に環境保全)は 全国的に広まり多くの企業がその活動内容をCSRレポートとして公表しています。

このように企業のCSR活動自体は広まりを見せていますが、現在の日本の企業は自社がどのような環境保全活動を取り組めば有効なのか把握していないなど の課題が多く残っているのが現状です。この問題の背景には企業の中に生物多様性の概念が浸透していなかったり生態学の専門家が企業に不在であったりするなど多くの問題があります。今後企業のCSRをより効果的なものにするためには、CSRに対して生態学的側面から考察、評価さらには計画することは非常に有効であると考えています。

本研究では日本の民間企業が公表するCSRレポートをもとに環境保全活動の現状・傾向を把握し、新たな課題を明らかします。その上で生物多様性の現状や生態学的観点などから、今後企業が生物多様性に対してどのように取り組んでいくべきなのかを考察していく予定です。

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○ 卒業研究中間発表:八甲田山オオシラビソの潜在分布域予測と温暖化の影響評価

嶋崎 仁哉


気候変動に関する政府間パネル(IPCC)はこれまでに発表した第四次報告書において、地球温暖化による森林のへの影響評価を重要課題の一つとして取り上げている。

地球温暖化の森林分布への影響を評価・予測した先行研究は、欧米では多い。日本においては、植生帯や優占林、優占高木樹種を対象にした研究があるが、いずれも使用した植物データは、環境省が作成した植生図に基づく3次メッシュ植生データであり、ブナ林のように日本の冷温帯において卓越する樹種については優先林の分布と種の分布が概ね一致するため、優占林の温暖化予測は有効であった。しかし、優占林の分布と種の分布が一致していない樹種に関しては、3次メッシュ植生図では分布状況を正確に把握できない。

日本の森林の分布は、マクロスケールでは気候条件が主に制限要因となっているが、ミクロスケールでは地形、土壌、地質などによって分布が支配されている。これまでの研究では解像度が良いものでも約1km×1kmのグリッドに区切られた3次メッシュが使われている。そのため地形の効果を表すパラメータを樹木の潜在分布域予測に導入しても貢献度の高い説明変数とされなかった。

マツ科モミ属のオオシラビソは日本固有種であり本州の中部地方から東北地方の高標高域に分布する、亜高山帯性の針葉樹の代表である。亜高山帯における植物は水平移動ができないことから、温暖化後に高標高域において孤立し、減少または消滅する可能性がある。

本研究では、八甲田山を調査地とし、空中写真判読によりオオシラビソ分布を作成する。そして、オオシラビソのミクロスケールでの潜在分布域を気候と地形のパラメータを使って予測する。さらに、気候変動後のシナリオにあてはめることにより、オオシラビソのレフュージア、脆弱な場所の特定を目指す。

明日のセミナーでは現在行っている空中写真判読によるオオシラビソ分布の作成を中心にお話ししたいと思います。

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○ 修士論文構想発表:高CO2環境下におけるRubiscoとRuBP再生系のバランス変化

秋田 理紗子


植物が光合成装置に利用できる資源は限られている。従って、効率よく光合成を行うためには光合成装置内での適切な資源分配が行われる必要があるかもしれない。光が十分な時、光合成はCO2濃度によって異なる過程に律速される。低CO2ではRubiscoによるカルボキシル化に、高CO2ではRuBP再生系によって光合成能力が決定される。理論的には、高CO2環境ではRubiscoへの投資を減らしRuBP再生系タンパク質に多く投資することで、カルボキシル化能力に対してRuBP再生能力を増加させたほうが、資源利用の面から見て効率よく光合成を行えると考えられる。本研究は、以上の理論的仮説を検証することを目的に4個体群のオオイタドリから得られた種子を用いて行った。加えて、うち2個体群はCO2 spring由来である。現在のところ、カルボキシル化能力とRuBP再生能力、窒素利用効率についてのデータが得られており、解析を進めている。今後はRubisco、RuBP再生系タンパク質の分析を行う予定になっている。

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○ 卒業研究中間発表:落葉広葉樹の二次林におけるナラ枯れの被害と回復力の予測

今廣 佐和子


近年、特に日本海側で、山腹の広葉樹林で葉が赤くなって枯死する現象が目立っている。

この、落葉ナラ類(コナラ・ミズナラなど)や常緑のカシ類(アラカシ・アカガシなど)に発生している集団枯死のことを総称して「ナラ枯れ」と呼ぶ。「ナラ枯れ」は、体表面に病原菌であるナラ菌(/Raffaelea quercivora/)を付着させたカシノナガキクイムシ(/Platypus quercivorus/)が、健全なナラ類に穿入することで、樹幹内にナラ菌が繁殖して樹液の運搬を阻害してしまうために起こる枯死である。

2005年のナラ枯れによる全国被害面積は2000ha近くに達し、現在も被害地は拡大し続けており、何らかの対処が必要な状況にある。ナラ枯れに関して、被害拡大の予測や防除法の研究は多くなされているが、実際にナラ枯れが林に入ってしまった場合その林がどの程度の被害を受けるのか、被害を受けた場合その後どのような経過をたどるのかという、ナラ枯れに対する林の応答ははっきりと予測されていない。ナラ枯れに対して効率的に最善の防除を行うためには、どのような林がナラ枯れに対して強く(あるいは弱く)、被害を受けた場合どのような林ならばもとの林へと回復できるのか(あるいはできないのか)、「脆弱性」と「回復性」を予測することが必要になるだろう。

そこで本研究では、ナラ枯れが入ってきた場合の林の「脆弱性」と「回復性」を予測するために、林の「脆弱性」と「回復性」を決定するファクターを特定することを目指す。

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○ 卒業研究中間発表:渓畔林構成樹種の河川撹乱に対する依存性

二本松 裕太


渓流に沿った水辺域は、その占める割合は小さいものの、陸上生態系と水域生態系の接点として種多様性が高く、多くの動植物の生息地として重要であることが知られている。

渓畔林を特徴づけるものとして、多様な種組成と群集構造の複雑さがあげられるが、それはその特異な立地環境と撹乱体制が生み出していると考えられる。

しかし、渓畔林の成立・更新に強く関係している河川撹乱および物質の移送が、近年の河川改修工事などの人為的な環境改変によって変質してしまい、その結果周辺の森林生態系に影響を与えているようだ。

本研究は、各渓畔林構成樹種が実際にはどのような環境条件の下でよく定着しているのか、その更新にはどのような要因が特に重要であるのかを明らかにすることを目的とする。

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○ 修士論文構想発表:植物における防御戦略の進化:防御物質の誘導に関する理論的研究

伊藤 聖


植物は生長の過程で、常に食害の危険にさらされている。食害を受ける事で、植物は競争力の低下などの負の影響を受ける。その影響を少なくするため、多くの植物はなんらかの抵抗性を持っている。そしてその抵抗性を、食害を受ける事で誘導する植物もいる。この防御の誘導は、食害を受けた組織だけでなく、シグナルを用いて他部位にまで誘導されることも知られている。このような植物の防御戦略はなぜ進化したのか。防御の誘導に注目して、どのような環境でどういった防御戦略が進化するのかを理論的に解析した。

本研究では、植物の防御戦略として、

  1. 防御物質をあらかじめ持っている。
  2. 食害を受けたら防御を誘導する。
  3. 防御物質をもたない。

の3つを考えた。また、本研究では、環境を「食害を受ける確率(食害率)」と「食害で受けるダメージ(食害量)」で表す。防御物質として、食害率、あるいは食害量を減少させる二種類を考える。投資した資源はそれぞれに分配できるものとする。最適な戦略と合わせて、最適な投資量、分配も合わせて考える。

また、シグナルによる他部位への誘導の影響を考えるために、2つのモジュールによる最適な防御戦略も考える。この場合の誘導の戦略として,

を考える。

この仮定のもと、最適な防御戦略を解析した。

その結果、最適戦略、特に誘導が有利になるかどうかには初期サイズの影響が大きいことが示された。

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○ 修士論文構想発表:イチジクコバチにおける繁殖構造と近交弱勢の推定

片渕 正紀


イチジクーイチジクコバチの絶対送粉共生を成り立たせる上で、一つの花序内の創設雌の数は重要である。種子生産とコバチの孵化が別々の花序で行われる雌雄異株イチジクでは、花序内の創設雌が増えると、イチジクの種子生産が増加することが、これまでの調査で示された。また、その他の先行研究では、産卵場所の競争などにより創設雌あたりの産卵数が減少することが明らかになっている。このように、一つの花序内に複数の創設雌が入ることがイチジクには有利、コバチには不利に思える。近年、半倍数性の生物でも近交弱勢の影響を受ける種がいることが報告されている。そこで、「複数の創設雌が産卵することにより、花序内の次世代のコバチが近親交配を回避できることが、コバチにとって有利である」という可能性がある。

正確に近親交配を見積もるには家系図が必要であるため、野生生物での近親交配の推定はあまり行われていない。近年では、遺伝マーカーから得られた Standardized multilocus heterozygosity(MLH)を用いて個体レベルの近親交配は推定するのが一般的だが、MLHの信頼性は度々問題になっている。

本研究では、(1)野生イチジクコバチの繁殖構造を明らかにすること、(2)近交係数(親同士の血縁度)とMLHの関係を明らかにすること、(3)近親交配がイチジクコバチの形態に与える影響を明らかにすることを目的とした。

(1)解析につかった花序の中からは創設雌が単独で入っていた花序は見つからなかった。したがって、近親交配の回避がおきる余地はあると考えられる。しかし、近交係数(親同士の血縁度)やMLHからは近親交配が一般的な現象であることが示唆された。(2)(3)近交係数(親同士の血縁度)とMLHの間には、負の相関がみられた。しかし、近交係数(親同士の血縁度)とMLHの間で、イチジクコバチの形態に与える影響に違いが見られたため、MLHは近交係数(親同士の血縁度)を推定するの適した指標ではない可能性がある。(3)近親交配で生まれた個体の体サイズが大きくなる傾向がみられた。

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○ 修士論文構想発表:林床植物の共存:種子-クローンのトレードオフに着目

小嶋 智巳


林床植物には、種子繁殖と同時にクローンによって増えるものが多い。なぜ2つの増殖様式を併用するのか?

これまでは主に、散布能力と数で優れる種子繁殖に対して、クローンのコスト安や定着確率の高さに着目して研究されてきた。しかし実際はそれ以外に、種子はさまざまな環境に散布されるのに対し、クローンは親のすぐ近くに散布されるという違いがある。親の近くの環境は、親の環境と同じ(生育に適した)環境であり、また親と同じ環境変動を受けやすいと思われる。

また実際には、種子とクローンの生産比率は種によってさまざまである。が、クローンと種子への配分率が異なる複数の戦略が共存するというモデルの研究はない。

そこで本研究で明らかにすることは、(1)"親の近くは親と同じ環境"という効果のみで、種子とクローンの両掛け戦略は進化し得るか。(2)クローンと種子への配分率が自由に進化し得ると仮定した場合に、複数の戦略が共存し得るか。(3)それらはどのような効果を取り入れれば成り立つのか。

その結果、条件によって両掛け戦略は進化し得、それには環境変動の規模と頻度が重要なパラメータであることが分かってきた。

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